第16話 勇者様にぶちまける。憎きシメイズ王国め!

 


「日本の、女子高生……?」


「いわゆる異世界転生ってやつですね」


 前世、日本では異世界転生やループものが流行っていた。それは定番のラノベの枠を超え、漫画やドラマにまでじわじわと組み込まれるほど。

 ああ、だけど勇者様は5歳でこちらに召喚されたんだっけ。それなら知らないかもしれない。


 全く理解できないわけではなさそうだけれど、いまいち腑に落ちないというような顔をしていたので、きちんと一から説明しておいた。

 向こうで死んだことをサラっと告げると悲壮な顔をされてしまった。優しい人なんだろう。


 日本の話で盛り上がりたいところだけど、まずは聞きたいことを聞いたりお互いの話をするのが先だよね。


「それで、その騎士服は……?」


「ああ、君にはバレていると思うけど、消防服を意識して特注しているんだ。実はこちらに連れて来られる少し前に火事に遭って消防士に助けられたことがあってさ。それで、こちらで魔物と戦ったりするようになった時にこの騎士服を作ったんだ。俺にとって一番勇気がでるものだから」


 なるほど。既存の騎士服ではなさそうだなと思っていたけれど、想像していたよりずっと思い入れのあるものだった。サイズが変わったり、ボロボロになったりするたびに同じものを作り直しているらしい。


 前世、火事で死んだ人間だから、火事が恐ろしいことは知っている。5歳で火事にあったなんて、きっと私が感じたよりもずっと恐ろしかったに違いない。

 そんな中で助けられたなら消防士に強い憧れを抱くのも納得だ。


「勇者としての俺に会いに来たってことは、俺の事情を全部知っているんだよね?ミカル殿下と一緒に旅をしているって聞いているし。俺の両親はその時の火事でなくなったんだ……だから俺がこっちに連れて来られて、向こうで悲しむ人がいなかったことだけは幸いだったかな」


 苦笑する勇者様の顔は心配していたほど辛そうではない。20年こちらで暮らすうちに、少しずつ割り切っていったのかもしれない。


「両親が亡くなったことを受け入れられる前にこちらに来たから、色々辛くて、両親を思っていつも泣いててさ。残してきた両親が恋しくて泣いてるって思われたみたいだけど。実際はそれ以前の問題で、召喚されたこと自体は気にする余裕もなかったんだ」


「そうだったんですか……とはいえ、勇者様には本当に申し訳なく思っています」


 なんの贖罪にもならないけど、せめてもと頭を下げると、慌てて止められてしまった。


「君が謝る必要なんて全然ないよ!そもそも俺が連れて来られたのは君が生まれる前の話だろう?」


「ありがとうございます、勇者様」


「その、出来れば勇者様っていうのやめてくれないかな?実際俺はただの騎士で勇者なんかじゃないから、ちょっと気恥ずかしくて……ユウタでいいよ」


「では、ユウタ様と」


「様もいらないんだけど、俺は平民同然だし……うーん、まあいいや。レナさんは貴族だよね?それなのに、どうしてわざわざガリンまで?」


 この世界、貴族令嬢はあまり遠くの国へ行くことはない。どこへ行くにも魔物がいるから、危険すぎるのだ。


 多分、ユウタ様はミカル殿下が訳ありなことは知っているよね。連絡を取り合っていたくらいだし。そんなミカル殿下と一緒にガリンまでやってきた私が何かしら事情を抱えていることも分かっているのだろう。

 特に隠さなくてはいけない事情もないし、全部話してしまおうと口を開く。

 むしろ、シメイズ王国の暴挙や卑劣さについては積極的に言いふらしたいくらいだ。私は怒っているので。


「実は、私はシメイズ王国の聖女だったんですが……」

「えっ!?」


 ユウタ様が驚くのも無理はない。聖女ならどうして余計にミカル殿下とたった2人で国外に?って思うよね。

 シメイズ王国以外では聖女はあまり存在していない。なんであんな腐れた国に?と思うけど、ひょっとして神器があった影響もあるのかな?なんてふと思った。


「それで、王太子の婚約者でもあったんですけど、元々聖女としての能力が低く、資質でもかけていて嫌われてまして。その上殿下が遂行しようとしていた勇者召喚に反対していたら、浮気され、婚約破棄されて、国外追放されることになり……」


「と、とんでもないね」


 引き気味のユウタ様に強く頷いた。


 そう、とんでもないのだ。ダミアン殿下め。

 私にだって悪いところはいっぱいあったと思うけど、多分私がめちゃくちゃいい子でもあんな王子とはうまくいかなかったと思う。

 そう考えるとクリスティナ嬢はすごいや……。


「それで、どうせ追放されるなら力尽くで勇者召喚をぶち壊してやろうと考え、召喚用の水晶を粉々に砕き割って飛び出してきたんです。だけど放っておけばまたあの腐った国とクソ王子はどうにかして勇者様を召喚しようと目論もうとするはずなので、その前に私が世界を救っちゃおうかなーなんて思い至りまして」


「急に口悪いな!?待って、色々突っ込みたいことがあるんだけど!?あの水晶を割ったの!?君が世界を救うって!?」


 おっといけない。話しながら思い出して、ついヒートアップしてしまった。ユウタ様の前ではいい子でいようと思っていたのに。

 まあ、もういっか。


 私はずっと考えていたことを話した。


 誰よりも聖魔力を宿しているのは聖女なんだから聖女が戦った方が効率がいいんじゃないかなーとか、むしろなんで聖女は戦っちゃいけないの?とか、異世界から人を攫って人生ぶち壊しといて全然関係ないこの世界を救えとかトチ狂ってるよね!とか、そもそも王子、勇者召喚の前にお前が先に戦えや!とか。


「ちなみにミカルは勇者召喚の生贄にされかけていたので、一緒に連れてきちゃいました。いずれはゆかりのあるロミアに送って差し上げたいとは思っているんですが」


「そうだったのか……」


 勇者様は一通り話を聞き終えると、何かを考え込むように難しい表情になってしまった。


「もしも、レナさんが本当に世界を救うことが出来たら、シメイズ王国をどうしたい?」


「出来れば滅ぼしてやりたいですね」


 まごうことなき本音だった。

 勇者召喚にしろ、生贄のことにしろ、きっと他にもたくさん卑怯なことをしているはずだ。


 憎きシメイズ王国は、私の個人的な感情を抜きにしても罪深すぎる。


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