第15話 さらに幸運は続く

 

 ガリンに到着後私とミカルははすぐに入国することができた。

 もちろん、偶然助けたクレイスト商会の商会長、ランディさんのおかげだ。


「この方たちは私たちクレイスト紹介の大事な客人だ」


 その一言で門番は納得し、全て解決してしまった。


 もしも入国審査で弾かれてしまったらその時は別の方法を考えなくちゃいけないよね、なんて思っていたのに、入国審査を受けることもなかったのだ。


 どうやらクレイスト商会はガリンの中で1番の商会らしい。

 そんな人と知り合えるとは!


 ランディさんは、彼から見ればまだ子どもな私とミカルに対しても丁寧な姿勢を崩さない。すごく尊重してくれていると感じる。

 やっぱり、大きな商会で成功している人は違うね。



 私たちのために色々と手配してくれているランディさんを見ながら、私は前世のおじいちゃんの言葉を思い出していた。


『しょうもない人間と付き合っとると、運が悪くなる』


 そんなおじいちゃんに影響を受けまくってそっくりだったお兄ちゃんの言葉も思い出した。


『嫌いなやつは殴り飛ばせ!そしたら2度と近寄って来なくなる』


 暴君かな?

 さすがに殴ったりはしなかったけど、2人の言葉を教訓にして一緒にいて嫌な気分になるような子とは友達にならなかったんだよね。

 念のため言っておくと、お兄ちゃんは見るからに強そうな見た目だったため、お兄ちゃんが嫌うような相手はそもそも寄ってこなかったので、恐らく人なんか殴ったことはなかったはず。


 ……正解だったよ、2人とも。

 だって、シメイズを出てから運のいいことばっかりだもん!

 私の運はこれまでダミアン殿下たちに吸い取られまくっていたに違いない。


 さらに、幸運は続く。


「勇者様に会いに来た……?なるほど、ユウタに会いたいんだな。よし、私に任せてくれ」


 私達がそもそもガリンへ向かっていたこと、その目的を話すと、ランディさんがそう請け負ってくれたのだ。


 なるほどなるほど、勇者様はユウタって言うのか。完全に日本人だね!


 私とミカルはランディさんのご厚意で、クレイスト商会の屋敷に滞在させてもらえることになった。

 勇者様に会えたのはそれから2日後のことだった。



 ✳︎ ✳︎ ✳︎



 勇者様とは応接室を借りて会うことになった。1人で先に待つ間、とんでもなくドキドキしてくる。


 なぜ1人なのかというと、ミカルは今日、ガリンの国王陛下に会うためにランディさんと一緒に王城へ向かったのだ。

 どうしてもスケジュールがあわなくて、今日私と一緒に勇者様に会えないことをすごく残念がっていたが、なにやら陛下に話したいことがあるらしい。


 別の日に会えるのだからと励ましておいた。


 それなら私も勇者様との初対面を延期すれば良かったのかもしれないけれど……なんといっても日本の話をしたかったから。


 ミカルにも打ち明けるつもりとはいえ、いきなりだとミカルも驚いてしまうだろうし。2人で会うことになったのはいい機会だったかもしれない。


 勇者様は間もなくやってきた。


「初めまして、ユウタ・イシカワです」


 黒髪黒目で、めちゃめちゃ日本人だ。感動してしまう。

 背が高くて顔も整っている。すごくかっこいいじゃあないか。

 これはもし元の世界にいてもとんでもなくモテたはずだな……。


 外から戻ってすぐに来てくれたのか、薄い外套を羽織っている。砂よけなのかもしれない。


「初めまして、レナと申します」


 深々と礼をした後、頭を上げると、勇者様はニカッと笑ってくれた。少年のような笑顔だ。


「俺に会うためにガリンまではるばる来てくれたと聞いています」

「はい、あの……」


 と、そこで勇者様が話しながら外套を脱ぐ。

 その姿に思わず声が出た。


「ええっ!?しょ、消防服!?!?」

「えっ!?!?」


 驚く私につられるように、勇者様も驚く。


 私たちはお互い口をあんぐりとあけ、そっくりな表情で見つめあってしまった。


 外套を脱いだ勇者様の服装は、明るいオレンジの生地に黄色のラインが入った、いわゆる前世の消防服に見えたのだ。


 な、なんで消防服?


 ……いや、よく見ると違う。形は騎士服だ。でも、色の視覚効果は強い。そのせいで一瞬本物の消防服かと思ってしまった。


「消防服って言った……?まさか、君……?」


 思わぬ展開だったけど、もうこれはさっさと告げるしかない。


「あの、私、実は前世の記憶があるんです。今の私になる前は日本の女子高生でした」


 勇者様は、ただでさえ見開いていた目をますます丸くして驚いていた。


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