第13話 聖女の魔力と神器。教えといてよ!

 


 なんでこのハンマーを私が持っていたらシメイズが危険になるのか??


 ま、まあ、伝説の神器を持ち出した!と考えると確かにとんでもないことをしちゃったとは思うけど。とはいえ、実際のところは誰も持ち上げられずに武器庫で眠っていただけの武器だよね?


「レナ、その訳がわからないという顔を見るととても嫌な予感がするんですけど……魔物が聖女のもつ聖魔力に惹きつけられることは知ってますよね?」

「ええっ!?なにそれ知らない!」


 私の答えにミカルは頭を抱えた。


「……なんとなく、漏れ聞こえる聖女の教育に偏りがあるような気はしていたんです。だけど僕は離宮にこもっていたから実情がわからなくて。まさか魔物の特性まで教えられていなかったなんて」


 どうやら私が受けていた教育はかなり偏ったものだったらしい。聖女は言われたとおりに働けばいい、余計な知識なんか知らなくていい、というような魂胆が透けて見えるような。


「そういうミカルは色々詳しいよね?知識をつけないように軟禁されていたんじゃないの?」

「時々抜け出しては、なくなってもバレないような古書なんかを持ち帰って読んでいたので」


 いい笑顔で言われてしまった。確かに古い書物の方がそういう情報は豊富そうだよね。



 魔物は聖魔力に惹きつけられる。本能的にそれがあると自分に身の危険があるので消してしまいたいと思うのか、単純に聖魔力自体に魔物を惹きつける何かがあるのかはわからないらしい。


 魔力は体に溢れているので、聖女が触ったものなんかにも聖魔力の残滓はしばらく残るから、昔、今よりも魔物が強く多く蔓延っていた時代には戦場で聖女が命を落としても服の切れ端さえも残らない、なんてこともあったんだとか。


 ミカルの説明を聞いてピンときた。


 ──だから、聖女は戦場を自分の足で歩かせてもらえないの!?


 あの籠移動、なんのために?って思ってたけど、一応正当な理由があったなんて!

 思わぬ事実である。


 それなのに、どうしてそうするのかも教えてもらえていなかったなんて危険じゃない?

 私はたまたま従順なを発揮して言うことを聞いていたけど、うっかり籠やのせてもらっていた騎士様の馬から降りちゃったらどうするんだって話だ。


 ちょっと嫌な想像をしてしまった。

 いざというときに、わざと痕跡を残させて何も知らない聖女を囮にするため、なんて言わないよね?


(あのクソ王子ならそういうこと考えそう……!)

 私は浮かんだ想像を振り払うように、頭をブンブンと振る。


「えっと、驚いたけど、それとシメイズが危険かもって話となにが関係あるの?」

「神器は聖魔力を吸い取る力があるんです」

「ほーん……?」

「つまり、無意識に体から溢れる聖魔力やその残滓を神器が吸い取っているんです。その効果範囲もかなり広い。そんな神器が今まではシメイズの中心部にあったのに、今はなくなったわけで──」


 さすがに私にももう分かった。

 つまり、今まで神器に吸われていたシメイズの3人の聖女の魔力が漂いまくって、魔物が寄ってくるかもしれないってことだ。


 だけど。


「大丈夫じゃない?シメイズは結界も張っているし。やってきたところで討伐がしやすくなるだけのような気がするんだけど」


 シメイズ王城の近くに魔物は集まるけど、入れはしない。ある意味狩り放題だよね。

 むしろ効率が良くなりそうだ。


 だって、核持ちの魔物でさえも簡単には結界を破れない。


 そのために聖女全員で毎日毎日面倒な手順を踏んで祈りを捧げ、結界の維持と強化に努めているんだもの。


 祈りを欠かせば結界が弱くなるから、いざ核持ちが現れて戦いが始まると満足に強化ができなくなり、いずれ破られてしまうことになるわけだけど。


 神器はなくなったけど、能力の低い私もいなくなったので、私が結界の維持や強化のためにしていた分の時間も他の3人がお祈りをするようになれば結界もより強くなるだろうし、正直今までよりも安全になるくらいだと思う。


 わ……なんかちょっと落ち込んじゃうな。

 そう考えると私って本当に足手まといの役立たずだったんだなって。


 やめ、やめ!もう私はシメイズの聖女じゃないし、そういうのに囚われずに生きるんだから!


 きちんと話したいことも話せたので、その後は私たちを呼ぶ冒険者の輪に飛び込んで楽しく過ごした。

 ミカルがどこか考え込むような顔をしていたけれど、皆で楽しく食べて、飲んで(私たちはお酒じゃないけど)、歌ってはしゃいでいるうちに、そんなことはすっかり忘れたのだった。


 ✳︎ ✳︎ ✳︎


 それからはアマルニアの冒険者ギルドを拠点に、ミカルと一緒に魔物を討伐してはお金を稼いで過ごしていたんだけど。


(このままずっとこうして核持ちの魔物が現れるのを待つのもどうかと思うよね……)


 ようは不安なのである。

 戦闘には慣れていっているけど、これだけで大丈夫なのだろうか。

 核持ちがどこに現れるかも分からないんだし、もっといろんな情報を得る努力をするべきじゃないか。


 そう思っていたのは私だけじゃなかったようで、ミカルが当然こんなことを言い出した。


「レナ、勇者様に会いに行きませんか?」

「ゆうしゃさま……?」


 勇者様って、あの勇者様だよね??

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る