第12話 戦いの後は宴会って決まっているよね

 

「おおーい、レナ!飲んでるか!?」


 ガヤガヤと明るく騒がしいギルド内で、私に向かって度々大声が飛ぶ。

 すっかり気の大きくなった冒険者たちは皆気持ちよく酔っぱらっている。


 あの後、ギルド内は沸きに沸いた。

 そしてそのまま大宴会に突入した。

 この国では飲酒に明確な年齢制限がないから、私も飲もうと思えば飲めるんだけど、前世の記憶が邪魔して罪悪感が湧くためお酒は遠慮することにした。

 やっぱりこういうところにも慎ましい日本人らしさが出ているわよね……。


 そういうの全部やめよう!何もかも自分の好きにしよう!って思っているけど、悲しきかな、刷り込まれた価値観はそう簡単には変わらない。


 ──ま、逆にそのおかげで勇者召喚なんて非道な行いを「ここではそれが当然で、仕方がないことだから」と飲み込むことも出来ずに反発するに至ったわけだから、悪いことばっかりじゃないけどね。


「にしても、みんな元気よね」


 傷は全て癒えたとはいえ、体も心も疲弊しているはずなのに。冒険者たちは全くそんなことを感じさせない。

 重傷だった人はさすがに宿泊室で寝ているけども。


「坊主!いや、ミカル!これも食え!」

「あ、ありがとうございます……」

「おう、こっちも食えよ!あ?もう腹がいっぱいだ?そんなんだからこんなに細っこいままなんだ!」

「ええっと」

「おい、ミカル!お前こんな小さい体であんなに魔法をバンバンぶっ放して!すげえじゃねえか!」

「あ、その、あの」


 ……元気すぎて、めちゃくちゃミカルが絡まれているわ!

 私は急いででかいおじさんたちの間に割って入り、ミカルを救出する。


「ハアハア、冒険者たち、ただでさえガサツなのに一段とひどいわね!?アドレナリンが出てるのかしら?」

「あどれな……?」

「ああ、なんでもないのよ。気にしないで」


 一通り息を整えると、ミカルは乱れた髪のまま私を見つめた。


「レナ、聞きたいことがあります」


 あー……これは、ハンマーを勝手に持ち出したことかな?

 いや、そういえばこのハンマーのこと、神器とかいっていなかったっけ……?


 そこでハッと気が付いた。


「待って!先に私が聞いてもいいかしら?ミカル、体は大丈夫なの!?」

「え?ええっと……?」

「あんなに魔法を使って、怪我人にもたくさん手を貸して、すっごく体力使っていたよね!?ミカル、シメイズではなかなか外にも出られないくらい病弱だったのに!おまけに生贄にされかけてただでさえ負担がかかってたはずなのに、急にものすごく無理させちゃった!」


 そうよ!逃げ出すために仕方なかったとはいえ、ずーっと無理をさせている。

 おまけに魔法を使うには当然魔力を使うわけだけど、魔力はそのまま体のエネルギーともいえるもので、たとえば魔力が十分にあったって病気だったら体への負担に耐えられなくて魔法は使えないものなのだ。


「あの、レナ……そういえばそれ、魔物と戦っている時にも言ってましたよね?僕が病弱ってなんのことですか?」

「え……」


 あれ……そういえば、『病弱ってなんのこと?』って、それこそミカルは不思議がっていなかったっけ……。


「んんーー?」


 頭の中にクエスチョンマークが浮かびまくって思わず首を傾げると、ミカルもつられたように同じ方向に首を傾げていた。





「えーっと、整理していい?それじゃあミカルはばっちり完璧な健康体で、病弱どころかむしろ小さな頃から病気一つしたことがないってこと?」

「はい、元気だけが取り柄といっても過言ではないくらい元気です!」

「いやいや、あれだけ強い魔法を連発できるんだから、それは過言だよ」


 両手を握ってガッツポーズを見せてくれるミカルは可愛いけども。


「じゃあ、ミカルを閉じ込めておくための嘘だったってことか……!」


 私がミカルを病弱だと思っていたのは、ダミアン殿下にそう聞いていたからだ。


 よくよく話を聞くと、余計なことを学んだり誰かと話したりしないように、王城から少し離れた離宮に押し込められて、ほぼ軟禁状態で暮らしていたらしい。

 で、それなのに突然連れ出されて何かと思ったところまでしか覚えていないと。


 そのまま勇者召喚の生贄にするために水晶に閉じ込められたんだろうな……。

 いや、ダミアン殿下、新事実が発覚すればするほど鬼畜度増すんですが?


「僕は生まれつき魔力がとても多かったので、生贄としてはちょうどよかったし、そのまま生かしておくには目障りだったんでしょうね」

「ミカル……」


 ミカルは納得したと言わんばかりに頷いているけど、怒りもしないその姿が悲しすぎる。


「……あれ?でも私、何度かミカルに会ったことあったよね?」


 ほんの数回だけど、確かに離宮の外で会ったことがあった。


「実は何度か抜け出したことがあるんです」

「まあ!ミカルってばなかなかやるね」


 顔を見合わせて笑いあう。


 和やかな雰囲気になったところで、本題だ。

 ミカルの目が真剣なものに変わる。


「レナ、魔物を倒したあのハンマーはどうやって持ち出したんですか?」


 うん、やっぱりそれだよね。


 今度は私が説明する番で、婚約破棄から国外追放を宣言された後、勇者召喚を阻止するために武器を探して向かった武器庫でこれを手にしたことを話した。


「最初は重くてびくともしなかったんだけど、魔力を流したら突然すっごく軽くなって。それで魔法武器だって分かったから、ちょうどいいと思ってネックレスにして持っていくことにしたの」


 首から下げたネックレスを見せながらそう言うと、ミカルはため息をついた。

 でも、それは呆れとか脱力とかじゃなくて、言うならば感嘆のため息って感じで。


「少し話しましたが、それは代々王家に伝わる至宝、伝説とも呼ばれる神器なんです。誰にも持ち上げることが出来なかったので、このハンマーがある場所を武器庫にしたのだと聞いています」

「ええー……」


 そして、ミカルは思わぬことを言い出した。


「レナ、この神器をレナが持っているということは、シメイズ王国が危ないかもしれません」


 私は驚いて目を瞬いた。


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