第11話 残された聖女の困惑(シメイズ王国)

 


 その頃、シメイズ王国では。

 残された聖女であるジュリアとローラが困惑していた。


「ねえねえ、レナが婚約破棄されたって本当なの?」

「いや、婚約破棄どころか、国外追放されたんでしょ!?」


 人の通らない廊下でこっそりと落ちあいヒソヒソと顔を突き合わせて話しているが、その表情は明るくない。


「どうしよう……レナがいなくなったら、クリスティナのはきっと私達に向かってくるわよね」


「やっぱりそう思う……?やだ、私そんなの耐えられないわ」


「それどころか、レナがいなくなった分の仕事は一体だれがやるって言うの?クリスティナは絶対にやらないわよ」


「おまけにダミアン殿下はそれを許すだろうから、私達2人で全部やらなくちゃいけなくなるわ……」


 2人は揃ってため息をつく。


「……白状するわ。私、実を言うと自分の仕事もいくらかレナに押し付けてた。もちろん、レナはそんなこととは気づいていなかったと思うけど」


 神妙な顔をしたジュリアが告白すると、ローラは驚いて「えっ!」と息を呑んだ。


 レナは確かに癒しの力が弱く、その舞はクリスティナの3分の1にも満たないとよく責め立てられていた。しかし、レナはその分他の仕事をきちんとやる子だった。誰よりもよく働いていた。


 聖女の仕事は何も癒しの舞を踊ることに限らない。


 癒しを使うまでもない戦闘以外での怪我の手当てや、治療院での診察、回復薬作りや聖女たちが暮らす神殿の清掃、結界を補強する毎日の祈り……挙げればきりがない。まだまだある。さらに雑用も含めればその仕事は多岐に渡る。


 それを誰より真面目にこなしていたのがレナだったのだ。生来の生真面目さに、恐らく治癒能力に劣るうしろめたさもあったのではないかとジュリアは考えていた。

 それをいいことに、さりげなく、自然な風を装って、仕事をレナにやらせていたのだ。


 ローラはそんなジュリアを探る様に見つめる。


「……どれくらい押し付けてたの?」


「少しよ、少しだけ。でも、正直に言うと私、押し付けていた仕事のやり方があまり分からないの。だからお願い!こっそり助けてね。もちろん、自分でちゃんとやるからさ。やり方は教えてほしいの。誰にもバレないように」


 都合のいい事を言っているのは分かってるんだけど、と早口でまくし立てたジュリアが泣きそうに顔を歪める。


「……ちなみに、何を押し付けてたの」


 ローラの声はどんどん低くなっていく。責められていることに居心地の悪さを感じるジュリアだったが、背に腹は代えられない。それに、本当に自分勝手なことではあるが、告白したことで自分を罪をローラにも背負ってもらえる、ローラ相手には隠して誤魔化す必要がないと思うと、少しだけ気持ちが軽くなっていた。


「回復薬作りと、その在庫管理、それから結界のためのお祈りを……」


 嘘だ。本当は清掃なども自分ではやっていなかった。

 治療院で民を相手にする仕事はさすがにバレると思ってやっていたけど、それもなるべくゆっくりやっていた。そうすれば仕事の早いレナが大多数を受け持ってくれることになるから。


「大変なやつ、全部じゃないの!」


 ローラが悲鳴を上げる。

 ここで見捨てられては終わりだと、ジュリアは必死にローラに縋りつく。


「お願い!お願い!これからはちゃんとやるから、しばらくの間は私を助けて!」


 しかし、ローラは食い気味に叫ぶ。


「無理よ!」

「やだ!そんなこと言わないで!お願いお願いお願い!」

「無理だってば!」

「ローラッ!見捨てないで!これで今までレナに仕事を押し付けていたのがバレて問題になって万が一私まで追放されたりしたら、あんたが全部仕事をやってクリスティナのにも1人で耐えなきゃいけなくなるのよ!?嫌でしょ?だからお願い!」


 必死過ぎて縋りついているのか掴みかかっているのか分からないジュリアの手を、ローラが振り払う。


「──無理なのよ!だって、私もそれ全部レナにやらせてたんだもん!!私もどうやればいいのかわかんないの!」

「え…………」


 ハアハアと息を切らした2人は、目を見合わせて立ち尽くした。


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