第8話 役割分担は大切です
男は私を睨みつける。
「おい!何笑ってんだ!?」
ハッ。いけない。テンプレすぎて思わず顔が緩んでしまっていた。
とはいえこんなところで揉めてたって仕方ない。無難に謝ってさっさと出ていこう。
そう思った私の前に、すっとミカルが進み出た。
「女性相手に大きな声で威圧するのはやめてください。みっともないですよ」
え、ええ〜〜!ミカル、そんな凛々しい顔でかっこいいことも言えるのっ!?
本当の本当にダミアン殿下とは天と地、月とスッポンほど違うよ……!!
「あ!?なんだチビのぼっちゃんが!女の前でカッコつけてんのか」
けれどチンピラ冒険者の神経はばっちり逆撫でしたようで、いくつも重ねた腕輪をジャラッと揺らしながらその腕がミカルの襟口に向かって伸びてきた。
……ところだった。
ふいにバタバタと騒がしくなり、男の手が止まる。
「──おい!東門のずっと向こうに魔物の襲撃だ!それもここ最近で一番でけえ!」
「あ、あんなの王都まできちまったらひとたまりもねえ!これるやつ全員こい!!!」
ギルド内が一気に騒然とし、冒険者たちが慌てて飛び出していく。
「チッ!てめえらはさっさとおうちに帰んな!」
チンピラ冒険者も向かうみたいだ。
あれ?ていうかなんかこの人、実はいい人そうじゃない??
「レナ、僕も行きます」
「え!でもミカルは……」
病弱で、離宮からあまり出られなかったミカル。
魔力がどれほどあっても、才能がどれほど優れていても、健康を損なえば力はふるえない。
ミカルは戦えないはずだ。
けれど、その真剣な目に残った方がいいとは言えなかった。
「……分かりました、行きましょう!」
「はい!」
いざとなれば私がミカルを守るわ!
ミカルと一緒に休ませていた馬に乗り、冒険者たちのあとをついていった先にその魔物はいた。
たしかに大きい。おまけに身体中にプツプツと大きな水泡のようなものが浮いていて、それが弾けては中から別の魔物が飛び出してくる。
ぐ、ぐろい……!
すでに大勢の冒険者が集まっていたけれど、傍目から見てもすぐに分かるほど苦戦していた。
ちょうどそのとき、また新しく吐き出された小さな魔物が私たちの方にめがけて飛び出してきた!
「おい!お前らさっき登録したばっかのやつらだろ!なんでこんなところにきたんだ!」
側にいた冒険者が小さな魔物を切り捨てながらこちらに振り向き怒鳴り声をあげる。
けれどその背後から、次々と大量の魔物が一気に生まれ落ち、ひしめき合う様に冒険者に向かって飛びかかってきていた。
「危ない!」
「――っ!?」
ボワッ!!!!
冒険者が剣を握った腕で自分を庇うように体をかがめた瞬間、視界を覆い隠すほど大きな炎が一面の魔物を焼きはらった。
私の隣にいるミカルが、ブツブツと詠唱を続けながら手を前にかざしている。
炎はミカルが放った魔法だった。
「ミカル……あなた……!」
「レナ、あっちへ!あなたも!」
「あ、ああっ……!」
ひとまず側にあった大きな岩陰に三人で身を隠す。
「すまないっ、偉そうなことを言っておいて助けられちまった!坊主、見た目のわりに強いんだな……」
「いやっ、そうよ!ミカルあなた大丈夫なの!?体は何ともない!?」
「?大丈夫ですよ、ほんの下級魔法ですし。咄嗟だったのであれしかできませんでしたが、魔法ももう少し使えますしあれば剣も使えます!」
両手を握り、ふんっ!と気合いを入れるようなポーズで笑顔を見せるミカル。
ちょ、ちょっと待って!魔法も剣も!?
「だってミカル、病弱でなかなか外にも出られない程だったんじゃ!?」
「病弱?なんのことですか?」
嘘でしょ!?
衝撃の事実なんですけど!?
けれど、今はそれどころではない。
「う、うわああ!!」
「ぎゃあ、痛い……っ!」
「こっちにくるなあっ!」
あちこちで吐き出された魔物たちに冒険者が襲われている。
数が多くて、倒す間もなく囲まれてしまえばなす術もない。
「ねえっ、騎士達はいないの!?」
「騎士団はロミア側の国境付近に出たとんでもなく強い魔物の討伐に出ちまって帰って来てねえんだ!今王都には俺達冒険者しかいねえ!」
おまけに冒険者の中でも上級ランクの者たちは各地の被害の大きなギルドへ招集されて行って、ここには中ランク以下のものしか残っていないらしい。
「王都からシメイズ側の方は被害が小さかったんだ!ここにこんなに強くてでかい魔物があらわれるなんて……!」
小さな魔物の中でも弱いものはともかく、冒険者の魔法や剣では太刀打ちできないものも混じっているらしい。
なんとか攻防を続けているけれど長く持ちそうもない。
おまけに魔物を生み続けているあの大きな魔物には誰も近づくことすらできていないのだ。
「……あなたの剣を僕に貸してください」
「あ、ああ」
「レナ、この剣に魔力をください」
「ミカル!」
ミカルは冒険者から剣を受け取ると、私に差し出しながら。
「聖魔力を受けた剣なら、あの大きな魔物を切ることができるはずです。……僕が行きます」
たしかに、私がこの剣に魔力を込めれば、下級以上の魔法を使えるミカルならば切れるかもしれない。
けれど、彼がどれくらい強いのか私には分からない。
それに、今まさに魔物に傷付けられている冒険者たちを見ると、生み出されている小さな魔物も無視はできない。
……私には攻撃魔法が使えない。魔法はイメージが大事で、前世の記憶が強く残る私にはどうしても難しかったのだ。だって『魔法なんてない』が当たり前の世界で生きてきたんだもの……!
どんなに頑張っても癒しの舞でささやかな治癒がギリギリだったんだってば!
だからこそ、誰かが命を落とす前にあの数を抑えるには、ミカルの魔法が必要だと思えた。
だとしたら、一番有効なのは、ミカルがあれを切ることじゃない。
「あなたはダメよ」
「レナ……!」
私は首からぶら下がるネックレスを握る。
「魔力は込める。剣も使って。でもミカルには小さな魔物たちをどんどん魔法で焼き払って欲しい」
もちろん炎じゃなくてもいい。とにかく一気にたくさん消すことができるなら。
そして、
「あの大きいのは……私がやるわ!」
ネックレスを手に取り、魔力を流す。
だって魔物に一番有効な聖魔力を持ってるの、どう考えても私の方だもん!!
今までずーっと思ってた!なんで私が戦っちゃいけないの?って!
派手な魔法が無理でも、物理込みならいける!
妹でも容赦なく格闘ごっこの相手にしてくれやがってた前世のお兄ちゃん、ありがとう!
ネックレスがハンマーに形を変える。
うーん、なんだか持つたびにしっくりくるようになる気がするわね!
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