第7話 冒険者ギルドとありがちテンプレ

 


「とりあえず、拠点を確保しなければいけませんね」

「そうですね……」


 しばらくの間はミカル殿下がロミアへ向かわず、私とともに行動するならばこれからのことを考え直す必要がある。宿を取るにもお金が必要だし。

 私一人ならそれこそ野宿でも構わないかと思っていたけれど……。

 なんて考えていると、ミカル殿下がうーんと考え込みながら言葉を続けた。


「僕一人ならばどうとでもなりますが、レナ様は女性ですから」

「え?」

「え?」


 二人で目を合わせてきょとんとしてしまった。

 どうやらミカル殿下は、ご自分が慣れない野宿をする心配ではなく、私の身を案じてくれているらしい。

 なんて紳士なのかしら!?やっぱりダミアン殿下とは全然違う。


「ふふふ、ありがとうございます。とりあえず何をするにもお金が必要ですね。私の持ち出した路銀もそこまで多くはないですし」

「ここまでレナ様に頼りきりになってしまってすみません……」

「とんでもありません!というかミカル殿下、体調は問題ありませんか?」

「?はい、大丈夫です」


 病弱で離宮からあまり出られなかったミカル殿下。

 生贄にされかけたことやここまでなかなかハードスケジュールだったことを考えても体に負担が大きかったんじゃないかと思うけれど、今のところ顔色も悪くなさそうでよかった。


「ところでレナ様。アマルニアの王宮ではともかく、街中で僕たちの正体がバレるのはあまりよくないですよね?」

「確かにそうですね」


 王子に聖女だもんね。状況を考えるとどちらにも『元』をつけてもいいかもしれないけれど。

 となると。


「僕のことを殿下と呼ぶのは問題があると思うんです。ミカルと呼んではいただけませんか?」


 もじもじと恥ずかしそうに提案してくるミカル殿下。可愛い。


「では……ミカル様?」


 ミカル殿下は一瞬ポッと頬を染めたけれど、すぐに首を横に振った。


「身分を隠すんですよね?つまりここから僕たちは平民として振る舞うわけです。様つけで呼ぶのはおかしいのでは?」

「ミカル……くん?」

「くんもいりません」

「……ミカル」


 そう呼んだ途端、ミカル殿下――改め、ミカルはぱっと顔を輝かせた。花が見えるわ……!


「では僕も、レ、レナとお呼びしますねっ!」


 少し恥ずかしそうにそう宣言するミカル。

 なんだか新鮮だ。家族以外で私を呼び捨てにする人などいなかった。その家族にもあまり呼ばれることはなかった。

 前世の家族の記憶がなければ、私は愛情不足でもっと捻くれた性格に育っていたと思う。


 ダミアン殿下からは呼び捨てされていた気もするけれど、ほとんど名前すら呼ばず『君』と呼び掛けてきていたからあまり記憶にないし。


「では、まずは身分証を手に入れるために冒険者ギルドに向かいましょうか?」

「はい!」


 シメイズ王国の王子と聖女だった私たちは身分証を持っていない。

 これから何が起こるか分からない以上、まず身分証は手に入れておいた方がいいだろう。

 いずれは国を移動したいと思っているし、いつかはロミアにもミカルを連れて行かなければいけない。


 ギルドにはいくつか種類がある。

 どの国にも必ずあるのは商人ギルド、薬師ギルド、鍛冶ギルド、冒険者ギルドだ。


 そのどこでも身分証は発行できるけれど、基本的に薬師ギルドや鍛冶ギルドのように技術が必要な場所はギルド所属まで少し時間がかかる。

 ある程度の腕がなければ見習いとされて正式なギルド所属にはなれないからだ。


 商人ギルドは特別な技術は必要ないけれど、すでにギルドに登録している商人からの正式な紹介状を持っていない場合はかなり厳密な審査を受けることになる。つまり、やっぱり少しだけ時間がかかる。しかも紹介状なんてもちろん持っていない。


 そんな中で一番簡単に身分証を発行できるのが冒険者ギルドだった。


 受付で名前を書いて、水晶での登録を受けるだけ。

 水晶で感知した魔力によって個人管理がされるので、名前すら偽名でも問題はない。


 中には商人ギルドでの登録を煩わしがって、冒険者として国を渡り歩く人もいるくらいだ。

 まあその場合、当然ながら商人ギルド所属のあらゆる恩恵は受けられないわけだけど。





 冒険者ギルドはそこから少し歩いた先にあった。


 シメイズ王国の冒険者ギルドには聖女のお務めの関係で行ったことがある。

 まあ、癒しの舞を踊りに行ったわけなんだけどね。

 アマルニアの冒険者ギルドはシメイズのそれよりもかなり大きい建物だった。

 そもそも国自体がアマルニアの方が大きい。


 2人でギルドに入ると、中にいた冒険者たちの視線がいっせいにこちらに向いた。


 構わず受付のカウンターに向かう。


「私たち二人の冒険者登録をお願いしたいのですが」


 受付のお姉さんは私たちを見てポカンとしていた。

 うんうん、その気持ちは分かる。ミカル、めちゃくちゃ可愛いもんね。

 ミカルはそんな視線に気づいているのかいないのか、反応のない受付嬢の様子に不思議そうに首を傾げた。


「あの?」


「ハッ!すみません、冒険者登録ですね。えっと、お二人とも初めてでしょうか?」


「はい」


「ではまずこちらにお名前を記入してください。そのあと水晶登録を行いますので」


 名前は私もミカルもファーストネームだけの記入で、偽名は使わなかった。


 促されるままに水晶に手をかざすと、中から青白い光が灯り、その後すぐにプレートを渡された。さっき記入した名前と、冒険者ランクの一番下であるFと記されている。

 ちなみに犯罪歴などがあるとさっきの推奨が黒く濁り、登録できない上にすぐに投獄されることになる。

 どういう原理なのかは分からないけれど、魔力って便利だわ。




 私たちの冒険者登録が無事に済んですぐ、茶髪で装備の上からゴテゴテとたくさんの装飾品を身につけた、チャラそうな男が近づいてきた。


 うーん、ザ・チンピラ冒険者って感じね!

 これってよくあるお約束なやつ??


「おいおい、嬢ちゃんや坊主みたいな弱そうな子供が冒険者になってどうすんだあ?今まで登録もせずに生きてこれたならこれからもそうやってママに甘えて生きていきな!」



 あ、やっぱりそうみたい。


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