第3話 追放される前にやることはやっておく
王家の影を難なくまいた後、私がやってきたのは。
「到着! ここね、武器庫!!」
ずらりとあらゆる武器の眠る、城内地下にある宝物武器庫!
石造りの床や壁に所狭しとおかれた武器武器武器……。
魔物との戦闘で騎士様達が使ってるのは何度も見たことがあるけれど、こんな風に落ち着いてたくさんの武器を見ることなんてないからちょっとだけ高揚してしまう。
「やっぱり、武器のひとつくらいは持ってないとね! どれがいいかしら?」
近くに置いてあるモノからとりあえず手に取ってみる。
本当は色々持って行って使ってみたかったけれど、あまり多くを持っていくことはできないし。
吟味していると、奥の方に立てかけてあったものすごく大きな鉄槌、つまりハンマーが目に入った。
「ハンマーか……命中率的にはよさそうだけど、持ち歩くには大きすぎるかしら……」
というか持てるのだろうか。試しに手を伸ばしてみる。
「お、重い……!」
びくともしない!
さすがにこれは無理だ。そう思うも、こうなったら意地でも一度は持ち上げてみたい!
好奇心で全力を込めて柄を持つと、無意識に魔力を流してしまった。
「――えっ?」
思わず呆けた声がでた。
私の魔力が流れ込んだ瞬間、持ち上げることすら難しかったハンマーが急にものすごく軽くなったのだ。
「すごーい! これって魔法武器ってことかしら?」
魔法武器は貴重すぎて聖女として多少の優遇をされてきた私でもほとんど見たことがない。
宝物武器庫にこんなすごい武器を眠らせているなんて……なんてもったいない!
やっぱり自分たちでできるだけどうにかしようなんて気持ちは最初からないんだわ……。
「魔法武器ならこうしてこうしてこうすれば……できたー!」
魔法を流しながら強いイメージを送り込む。
とても大きなハンマーは、みるみるうちに小さくなって、イメージ通りのネックレスに姿を変えた。
めちゃくちゃ便利である。
「さて、これできっとなんとかできるわ。急がなくちゃ」
武器庫を後にして城から出て行くときも、騎士や魔法士が私を探している姿が確認できた。私がいなくなって慌てているらしい。
すぐそばを通って冷や冷やする場面もあったけれど、それでも気づかれることはない。
というか、正直同じ聖女であるクリスティナ嬢がきていたなら恐らくすぐに気づかれていたはずなのだ。聖女は聖魔力を宿している。同じ聖魔力持ちのクリスティナ嬢なら私の魔力の気配を他の人より強く感知するはずだから。
おまけに私はずっと落ちこぼれだとされてきたダメ聖女で、クリスティナ嬢はここ何代かは現れなかったほどの優秀さだと評判だった。よく比較されていたしね。
「私程度、春の天使が来るまでもないってバカにされてるってところかしら……」
それでも今はそれが好都合なのも間違いない。
私は隙のあるうちにと目的地まで急いだ。
◆
城を抜け出し、隣に併設された神殿へ向かう。
これまで私は王宮書庫にある勇者についての文献をたくさん読んできた。召喚の具体的な方法はさすがに知ることは出来なかったけれど、神殿深部にある召喚の間と呼ばれる場所で、何か大きな媒体を使って行うことまでは突き止めている。
その詳細を知るのは神殿を司る神官長と、召喚に必要な魔力を捧げる筆頭魔法士のみだ。
神殿の入り口には警備はいない。そのかわり、厳重な魔法での施錠がされている。
「でも多分、私には開けられるのよね」
私が読んだ勇者召喚の文献の中で、一番詳しい内容のものはほとんど日記のようなものだった。それには詳細な召喚方法以外は大体のことが書かれていた。あれが王宮車庫に普通に置いてあるんだから不思議だわ。
でも、その理由も分かっている。
その文献は、日本語で書かれていたのだ。
あれはきっと、いつかの召喚された勇者が書いたもの……。
詳細な召喚方法が載っていなかったのは、召喚された勇者本人だったから、その部分は分からなかったということだと思う。
誰も読めない。けれど、捨てることもできない。
最初は大切に保管されてたはずだけど、時を経ていつのまにか王宮書庫に辿り着いたんだろうと思う。
元日本人の私にはその全てを読むことができたわけだ。
「だからまさか、私が勇者召喚に関するほとんどの機密事項を知ってるなんて誰も思ってない」
もし知っていたなら、国外追放などではなくその場で処刑でもされたかもしれない。
「家族も婚約者も誰も心からは信用できなかったから前世のことは誰にも言わなかったわけだけど、結果的によかったわ」
これから好きに生きる。
その前に、勇者召喚なんて絶対にさせないように、召喚の媒体をぶち壊してしまえばいい!
そう思ってここに来たのだ。
神殿の扉を開き、中に入る。
冷たく無機質な通路を通って奥の方へ進んでいく。
神殿という割には神聖な空気を全く感じない。
ただ、とんでもなく大きな魔力の唸りをビシバシと感じていた。
──あの腹黒殿下! もうすでに召喚の準備を始めてたんだわ!!
「この部屋だわ」
深部に辿り着くと、神殿自体の入り口よりもっと複雑な術式で施錠がされていた。
でもこれも問題ない。私は勇者の日記を何度も読んだ。
何度も何度も。元の世界に戻りたいと、大事な家族の元へ帰りたいと願い続けたいつかの勇者様。
その人はどうにか帰ることができないかと、こっそりと城を抜け出してはこうしてこの神殿に通っていた。
結局、帰ることはできないと諦めて、彼はこの国の王女殿下と結ばれ国王になったわけだけど。
救いなのは、勇者召喚を選んだ当時の王族たちが誠意ある人たちだったこと。
苦悩する勇者に寄り添った王女殿下と彼の間に、確かな愛が育まれて結婚に至ったこと。
勇者の日記の最後は、幸せな言葉で溢れていたこと……。
そんな彼の経験が、私に知識を与えてくれた。
キイ──。
私は神殿深部の部屋は続く扉を開いた。
そして、目を疑った。
「なに、これ……!」
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