第44話ティアvs盗賊

 ティアはギルバートに言われた様に前だけを見て走った。しかし、突然背後から強い熱と衝撃波に襲われ思わず転倒する。


 「わ、わ、痛っ!熱い...」


 無意識に両腕で地面を叩くことでクッションにして受け身を取ったので、大事に至らなかったが、何故か背中に一瞬焼かれたような熱と痛みを感じた。ティアは立ち上がり背後を見て目を見開く。


 「え?赤い…燃え、てる?」


 ギルバート達がいた方向の空が赤くなっている。焦げた臭いもするので遠くで木が燃えているのは確かなようだ。おそらくアルフレッドだろうとティアは予想した。


 (これ、多分、アルフレッド、さん、仕業、ギルバート、さん、無事?)


 ティアはギルバートの強さを知っているがアルフレッドの強さも肌で感じていたので心配だ。しかし、ここで戻っても自分に出来ることはない。それよりも背中を押してくれたギルバートに応えたいと思い、ティアは歯を食いしばり再び歩き始めた。


 どれくらい移動しただろうか、ティアの目の前に自身の身長の2倍はありそうな洞窟の入口が現れた。なるほど、ここは大人1人入るが、そこまで大きくないので木々で囲まれている状況では近くまで来ないと分からない。洞窟の先は真っ暗で何があるのか分からず恐怖を感じるがティアは意を決して中に入った。


 ティアが去って数分後、騎士達がやってきたが、彼等はここに洞窟があると気付かず素通りした。何故か?彼らの目には土の肌しか見えず穴も何も見えなかったのだ。


 トコトコトコ…ティアは洞窟の中を歩く。光が入口からしかないのか周囲は暗くジメジメしている。何か出てきそうで、ティアは内心ドキドキしながら歩き続けた。


 (暗い、ジメジメ…)


 ティアは王都で孤児として過ごしていた時、街の建物の隅、古びた廃墟、大木にできた大穴…色々なところで過ごしてきたティアも洞窟は怖い。洞窟は魔物や獣が住み着いており、襲われれば一溜まりもない。そして、真っ暗なので恐怖を感じさせてティアは本能的に避けてきた。



 「?」


 ふと、洞窟の奥で光が見える。出口?と思いつつ近づくと...それは洞窟内に設置された灯りであった。洞窟の一部だけを照らしている其れは新しく、周囲の様子から見ても明らかに異質の存在だ。ティアは速度を落として音と気配を隠すように近づいた。

 そして、ティアの瞳に会いたかった人物がいた。


 「っ!ソフィー、様...」


 そこには、手を縛られ口を猿轡で塞がれたソフィーが寝転されていた。外傷は見当たらず怪我をしている様子はない。彼女の前には女が一人立っていた。エドワード辺境伯の侍女の制服を着ているが、あの後ろ姿に見覚えはない。ティアは怪しんで気づかれないように近づこうとした瞬間...


 「ふふふ、来たわね、お姫様。」


 「っ!」


 向いてもいないのに背後にいた自分に気付いたのか?ティアは驚愕してビクッとする。従者の服を着た女性が二人は振り返る。一人は誰だか分からないが、その目は明らかに普通ではない。女はニヘラと口を歪ませている。何が楽しいのか?ティアは訝しむが、問題はもう一人だ。それは...


 「レイラ、さん。」


 「...」


 レイラだった。レイラは縛られておらず、もう1人の女の隣に並び立っていた。ティアを見ても驚いたそぶりもなく虚ろとしている。そんなレイラに対して女は面白そうに笑っていた。


 「ふふ、どう?信じていた人が黒幕だった気分は?」


 「...」


 ティアはこの姿からレイラがソフィーの誘拐に加担しているのは明らかだ。ティアはショックで立ち尽くすが、一方で左目には何か見えた。


 (あれ、何?)


 ティアが無言で動かないので、女はティアを指差し指示を出す。


 「なら、大人しくしてね。レイラさん、おねがい」


 「ん、んー!!」


 ソフィーは涙を浮かべて何かを叫ぶが口を塞がれて何か分からない。女はそれを見て鬱陶しそうに答えた。


 「うるさいわね、ここで大人しく見ていなさい。さもないと...」


 女がソフィーに投げナイフを向けると、ソフィーが怯えた表情を見せてティアが直ぐに反応した。


 「駄目!ソフィー、様、酷い事!」


 「なら、捕まりなさい。」


 女がティアに視線を向けレイラもティアに近づく、ティアはそれを好機と捉える。ティアは彼女の周囲を中心に渦巻きをイメージして両足から魔力を流した。氷は彼女を中心に一気に床を伝っていく。しかし、レイラと女は跳び上がり、それを避ける。女は右手で天井に触れると足をつけて着地する。それはまるで彼女だけ天地が逆転しているようだ。


 「ふふっそんなの通用しないわよ。」


 しかし、ティアの狙いはそれではない。広がった氷は波が岸に打つかった時のように飛沫を上げてソフィーと女の間に壁を作った。しかし、女は平然としており、ニヤリとも笑った。


 「それが狙い?でも...貴方はどうする?」


 「え?」


 ティアが左を向くとレイラが拳を振りかざしたてきた。目線は自分の方を向いており、その勢いは止まりそうにない。


 「!?」


 ティアはレイラの拳が当たる直前、飛び上がり間一髪なんとか躱す。レイラの拳はそのまま地面に槍のように突き刺さり、氷の張った床を土ごと掘り返した。


 「えぇ...」


 ティアはそれを見て威力に青褪めた。拳は痛くないのか?レイラはそのままティアに向かってきた。あの威力で殴られれば一溜まりもない。ティアは自分の体が四散するイメージが頭をよぎり、ティアは靴を凍らせると地面を蹴り上げて滑るようにレイラから逃げた。洞窟は湿気が多くジメジメしているので氷を作る源は豊富だ。しかし、ティアは戦闘訓練を受けていない。レイラの拳を避けるのも精一杯だ。


 「わっ!」


 「...」


 「ひっ!」


 「...」


 次々と繰り出される拳をティアは紙一重で躱していくが、気づけば徐々にティアは壁まで追い詰められていた。ティアは息切れをしているのに対してレイラは全く息が上がっていない。レイラの怒涛の攻撃でティアは魔法を放つ余裕がない。


 「はぁ、はぁ、はぁ。」(レイラさん、強っ!)


 「私とも遊んでよ。」


 「!?」


 女はレイラの左側から何本も鋭いナイフを一気に投げて来た。ティアは何とか躱すが…ナイフが地面に刺さった途端に光出す。


 「っ!!!」


 咄嗟に氷の盾を作るが、防ぎきれず氷は破壊されティアは爆風で吹き飛ばされ、地面に背中から激突する。


 「かはっ!」


 ティアは大きく息を吐きだし息ができなくなるが、女の気配がしてコロコロと地面を転がり距離をとった。しかし、ダメージが大きくしばらくうずくまるしかなかった。

 

 「うう...」


 そんなティアの様子を女は面白そうに見ていた。


 「ふふ、そこで大人しくている暇はないわよ。」


 「え?…っ!!!」


 ティアが反応する前にレイラに首、右手を押さえつけられた。これでは反撃できない。ミシミシと音が鳴ってもおかしくないくらい締め上げられており、右手は痛みで動かせず、首が絞められているせいで呼吸がままならない。


 「っ、はっ…、、、、」


 ティアは左手で首を絞めている腕を掴むがまるで石像のごとく動かない。ティアは口を大きく開けて呼吸しようとするも上手くいかない。

 

 「、、、、レ、イ、ラ、さん...」


 「...」


 ティアの呼びかけにもレイラは答えず無表情のままだ。レイラは服の至る所から煙が見られ、爆発を諸に受けたのは間違いない。なのに、何故、レイラは反応を示さないのか?


 「ふふ、呆気ないわね。」


 女はレイラの心配もせず嘲笑った。ティアは女を睨み付ける。


 ぽた…ポタ…


 「?」 


 ふとティアの顔に温かい水が落ちてきた。ティアが見上げると無表情なレイラの瞳から溢れていた。ティアは目を見開く。


 「レイラ、さん...」

 

 「て、ティ、ア、さん...ごめ、ん、な、さい...」


 ゆっくりといい辛そうに話すレイラにティアは彼女が不本意で無理矢理されていると感じ、その原因である女を睨み付ける。ふと、ティアの左目に何かが写った。


 (糸??)


 そう、レイラと女の間に糸が見えたのだ。もしかするとこれが原因か?それならばと考えたティアはレイラに一言謝る。


 「レイラ、さん、ごめん、なさい。」


 ティアはレイラの腕を掴んでいる左手から魔力を流してレイラに弱い氷魔法を放つ。レイラも抵抗しているのかティアへの拘束が若干緩んだことで、ティアは魔法を使うことができた。レイラの体を傷つけないようかなり威力を弱めてはなった魔法はレイラの体を痙攣したかのように縛ることができた。


 「!」


 女に初めて驚愕の顔を浮かべる。


 「んんっ!」


 ティアは全身に魔力を流して身体強化、全身で無理矢理起き上がりレイラの腹を蹴り上げた。


 「うっ」


 初めてうめき声を上げるレイラを他所にティアは起き上がると袋からギルバートの短刀を握り鞘を抜くと、蹲るレイラを傷つけないように背から延びる糸だけを斬った。が、それは刃は空を切るだけで糸を切ることは叶わなかった。


 「何をしているの?」


 「...」


 女はティアの行動が理解できず嘲笑し、ティアは内心イラつきつつ短刀を鞘に納めて袋に戻す。そして、間髪入れずにティアは魔力を一気に高めて女に向けて一気に氷魔法を放った。


 「なっ!?」


 ティアの手から放たれたそれは彼女の怒りを表現するかのように吹雪として女に襲い掛かる。


 「むぅ!!!」


 「この…」


 躱せなかった女の全身に雪が纏わりつき、一瞬で凍りついた。女はティアに鋭い目つきをしながら凍り付いていた。


 「はぁ、はぁ。」


 氷魔法を止めたティアは肩で息をしていた。魔力にまだ余裕はあるが、レイラとの戦闘、怒りを込めた魔法の行使に肉体的、精神的にも負荷がかかっていたのだ。ティアはゆっくりとソフィーの元へ歩き出した。ティアが手を向けるとソフィーを守る氷の壁はティアを招き入れる様に開く。


 「ソフィー、様...帰ろう。」


 ソフィーは涙を流して頷いた。ティアは微笑むとソフィーを縛る縄を解くために近づいた瞬間足下に何かが触れてぷちっと切れた。


 「?」


 そして、次の瞬間、ティアの周囲から無数の何かが襲いかかってきた。

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