第43話ティアと忍び寄る闇8(赤い髪の騎士)
レイラの部屋のクローゼットで見つけた石に触れたとたん。ティアは光に包まれた。一瞬視界が真っ白になると次にティアが目にしたのは木だった。ティアは目をぱちぱちとする。
「え?」
ティアは訳が分からずチラチラと周囲を見渡すと南東にエドワードの城が見えた。
「そと?何故?」
どうやら外に出たようだが、益々訳がわからない。ティアがキョロキョロしていると手元に何かを見つけた。
「これ...石?さっき、の、割れ、てる...」
先程クローゼットにあった石に似た形の石がそばにあった。ティアが触れてみると、それだけで亀裂が入り発煙とともに真っ二つになった。
「ありゃ...」
ティアは残念そうにしつつ石をポケットにしまうと、今の状況を見て石の正体を推測した。
「これ、魔導具?魔力、で、ここ、来た?」
ティアは石を魔力を動力源とする魔導具と予測した。今、側にあった石とクローゼットで見た石は紋章が少し異なっていたことから、石は2つある。そして、ティアが気付いたら城の外にいる。これらから魔石は行き来ができる魔術が仕込まれており、これを発動させたことでティアは移動したようだ。これを使えば簡単に外に出られる。もしかするとこれを使って犯人は外に出た?なら、何故、そんな石がレイラの部屋にあったのか?嫌な予感が頭を過るが、石は壊れてしまったのでもう確かめようがなく、今は考えている場合ではない。ティアは諦めて立ち上がり、動きやすくするために従者の服を脱ぐと畳んで茂みに隠した。ティアは後ろを振り返り遠くを見ると何かを見つけたので、フードを被るとタタタと走り出した。ふと、遠目に洞窟の入口が見えたのだ。これが例の洞窟か?彼女は確かめようと洞窟に向かう。
道中にフードを被った旅人がいたが、関係ない人だろうと考え、素通りする。もうすぐ、着くそう思っていたその時...
「待て。」
「っ!」
ティアはその旅人の声に止められた。声だけだが有無を言わさぬ感じがする。ティアはビクッと立ち止まり振り向くとそこには、フードを脱いで真紅の髪を露にした男が立っていた。男は問う。
「ここで何をしている?」
「あ、えっと...旅、疲れた、洞窟、で、休む。」
正体を知られたくないティアはフードを深く被ると髪を黒く染めてバレない工夫をしていたので、一目でティアとはわからない。男は続ける。
「旅か...なら、洞窟は危険だ。中が魔物の巣がある可能性もある。それに...」
男は剣に手をかけて一気に抜刀した。
「ひっ!」
「直ぐ側に安全な街があるのにわざわざ危険な洞窟に行く時点で怪しいぞ。」
ティアは反応できずされるがままだ。男の斬撃を直接受けることはなかったが、何かが確実に斬られた感覚がした。その答えは男の言葉でわかった。
「その髪...やはりお前が王の隠し子か...」
「え?...あ。」
男の指摘でティアはフードから出ている髪を見て驚愕した。黒色にしたはずが青い髪に戻っているのだ。
「何故?魔法、斬った?」
「よくわかったな。そのとおりだ。」
男は感心しているようだが、ティアにとってそれは初見ではなく2回目なのだ1回目はギルバートにされた。ティアは額に冷や汗をかき始める。
(あの技、ギルバート、さん、同じ。不味い。)
魔力量が豊富になった今のティアですらギルバートには遠く及ばない。それは魔力だけでは埋められない戦闘の経験や技術に圧倒的な差がティアとギルバートの間にあるのだ。ティアは男から伝わるプレッシャーから男の実力はギルバート同等と察し、敵わないと判断したのだ。
(勝つ、ない...でも、なん、とか、逃げる)
しかし、ティアとて今捕まるわけには行かないのだ。ティアは男の微かな動きも見逃さないようにじっと凝視する。男はティアが動かないのを見ると
「どうした?大人しく捕まらないならこちらから行かせてもらうぞ。」
男が歩き出した瞬間、ティアは両手で地面に触れると魔力を流して魔法を放つ。ティアの手から地面を伝って流れるように男に向けて氷が放たれた。これで倒せるとは思わないが、足を凍らせて少しでも時間を稼ぐのだ。
しかし、思惑は直ぐに無意味とかした。なんと氷は男に触れる瞬間に溶けてしまったのだ。
「!?」
ティアは驚愕の表情を浮かべる。
「氷で足止めか...」
男は冷静に呟くとさらにティアに向かって歩き出す。男が歩くと男の周囲に出来ていた氷がどんどん溶けていった。ティアは直ぐに次の策に出る。更に魔力を流して周囲の草木を凍らせるとそれを元に氷を拡大させて棘を作り出し男に向けて放つ。
「同じ手を...」
男は剣を薙ぎ払うと氷を溶けていく。しかし、それはフェイクだ。彼女は氷の壁を生み出してティアと男の間に壁を作る。
「ほう…」
男は感心している。ティアはこのまま逃げ出すためにゆっくり駆け出そうとした瞬間...
ザン!
一刀する音がした次の瞬間にはなんとパリンっと音を立てて全てが一瞬で真っ二つにされた。氷は音を立てて崩れ落ち、跡形もなく溶けていった。
「面白いが…残念だが何度されても俺には効かん。」
「!?」(駄目、敵わ、ない。)
ティアは男との実力差を痛感する。額からは冷や汗をかき、瞳はキョロキョロとしてどうすれば良いか分からず逡巡していると男は一瞬でティアに接近してきて、ティアは反応できずに立ち尽くしてしまった。
「っ!」
「悪いが拘束させてもらう。」
氷魔法が効かない、身体能力も圧倒的、ティアは恐怖に吞み込まれてどうすることもできず目を閉じる。
「?」
しかし、男の手はいつまでも来ない。その代わりキンっとぶつかり合う音がした。ティアが目を恐る恐る開けると...
「お、お前...」
「悪いがこいつを渡すわけにはいかん。」
なんと、男とギルバートが鍔迫り合いをしていた。ティアは目を見開きつつギルバートに恐る恐る声をかけた。
「ギ、ギルバート、さん」
「ティア...大丈夫か?」
いつも通りの感じで話しかけてくるギルバートに対して部屋を勝手に出ていったティアは申し訳無さそうに俯いてしまいまともに返事が出来ない。
「あ、えっと、ご、ごめんなさい。」
「お前らしいよ、全く…」
ギルバートは笑顔をティアに向ける一方で、男はギルバートに厳しい視線を向ける。
「ギルバート、分かっているのか?彼女は…」
「こいつが王族の娘なんて関係ない。」
「分かっていながら抵抗するか!?」
「俺はこいつを信じている。だから手を貸すのさ!」
話し方や様子からどうやらギルバートと男は知り合いらしい。ティアを王族としてみる男と一人の人間としてみるギルバート…互いに意思を曲げる様子はない。
「ギルバート、悪いがこの子を拘束させてもらう。」
「それは出来ない相談だ。アルフレッド!」
会話中、ずっと鍔迫り合いを続ける2人から見えない力を感じて戦慄を覚えるティアだが、ギルバートの言葉が気になった。
「アル、フレッド...それ、システィナ、の、お父、さん、名前?」
ティアのポツリと零した言葉が聞こえたのか男は初めて動揺した。
「お前、何故システィナを...ま、まさか、あの時の子か!?」
「?」
ティアがシスティナの屋敷を訪れた際に彼、アルフレッドとティアは実は会っていた。しかし、当時ティアは眠っており、アルフレッドは遠目でしか見ていなかったのでちゃんと顔を合わせた事はない。ティアの言葉を聞いたアルフレッドの体から先程よりも強い覇気を感じた。
「悪いが、余計に逃がすわけにはいかなくなった。」
「させるか!」
「どけ!ギルバート!!」
ガンッガンッと音と衝撃を伴いながら剣と剣が打つかり合う。ティアはギルバートを援護したいが邪魔になるだけだ。ティアが立ち尽くしているとアルフレッドの剣を弾きながらギルバートが声をかけてきた。
「ティア!前、エドワードに初めて会った時の髪にできるか?」
ティアはギルバートの問いにポカンとしつつ答える。
「あれ?…赤い、の?出来る、多分。」
「やってくれ。」
ティアは何故この状況でするのか分からないと思いつつ以前の髪を再現した。その時間僅か数秒。フードから漏れている髪は一瞬で赤く染まる。
「ん。できた。」
「あの複雑な色を易々と…相変わらず、凄いな。よしっ!フードを取るんだ!」
「???ん。」
ティアはよく分からないと表情しながらフードを外してそれを見せた。フードが脱げると、その勢いで髪がファサっと舞い、日の光に反射して赤い毛が輝いた。所々は深紅に染まり、赤と分類される2種類の色でコントラストを作り出している。風に舞うそれは炎の様だ。ティアは数回で見事に再現できるようになったのだ。
ギルバートはフッと笑ったのに対し、それを見たアルフレッドは目を見開いて一瞬動揺が走った。
「な!?...」
「おらぁ!!!」
何か言いかけるアルフレッドだが、ギルバートは追撃をかけながらティアに叫ぶように言い放った。
「ティア!!これを持っていけ!!!」
ギルバートは一瞬片手でベルトから小袋を外すとティアに投げつけた。
「っ!」
ティアはそれを両手で受け止めて中を見ると、そこには以前ティアが渡したベルと短剣が入っていた。ベルの方は以前、骸骨貴族から奪った戦利品だが、漆黒の短剣は見覚えがなかった。
「こ、これ...」
「持っていけ!!ベルはお前のだ!短剣はお前にやる…餞別だ!!」
「で、でも」
「早くするんだ!俺でもお前を庇いながらこいつの相手はできん!」
「っ!!!」
つまり今のティアは足手まといという事だ。ティアは歯を噛みしめるとバッと駆け出した。ギルバートは笑い大声で言い放つ。
「それでいい。行け!!生きるんだ!!!」
やり切った様なギルバートに対してアルフレッドは問いかけた。
「ギル!彼女は何者だ!」
「ティアはティアだ!例えアイツに似ていようがいまいがな。」
ギルバートは自分にも言い聞かせるように大きな声で言い放つ。
「...」(あいつに似て...システィナとも瓜二つ...何がどうなっている?)
アルフレッドには何か隠されているとしか考えられない。それほど、ティアという存在は偶々似ているということでは済まされない程2人の面影があり、システィナに関しては瞳の色以外瓜二つだ。
「他ごとを考えているほど暇か?」
ギルバート挑発しつつは斬りかかり、アルフレッドはそれを剣で弾いて防ぐ。初めてアルフレッドが苦悶の声を上げる。
「くっ」
しかし、負けじとアルフレッドは魔力を高めギルバートを突き飛ばす勢いで薙ぎ払った。
「ちっ!」
ギルバートは舌打ちをしつつ離された勢いを利用してさらに下がると、ギルバートを中心に背後の木が何本か焼け焦げる。アルフレッドはさらに目つきを鋭くするとギルバートに言い放つ。
「...そこをどけ、ギルバート。」
「...断る。」
ギルバート、アルフレッド、2人は剣を構えた状態で睨み合う。2人の間にサーーと風が吹く。
数分は経ったか?はたまた数秒か?時間の感覚も判らなくなる程、2人の間には緊張が走り、言葉を離さない木も草も動物も誰も音を発さない静寂が2人を包み込む。
そして、その静寂を打ち破るように一瞬で2人は互いに接近して剣を打ち合った。
途端、衝撃波が2人を中心に巻き起こり、凄まじい勢いで木々を呑み込んだ。鳥達は一切に飛び立ち、魔物はその覇気に恐れ慄き逃げ出した。
「!」
城の書斎にいたエドワードは思わず城の窓から外を見た。丁度側にいたレイはエドワードの行動を不思議に思う。
「どうされました?」
「...」
「何かありましたか?」
エドワードは無言なのでレイも窓に向かいエドワードと同じ方角を見る。
「なっ!?」
エドワードはその光景に思わず驚愕した。
それは遠くから見える程円形の衝撃痕があったのだ。木々はなぎ倒され、中心近くは根本から掘り起こされるように吹き飛ばされている。所々焼け焦げており、既に炭となっている部分もあった。
「...」
「...」
「こ、これは...」
レイが驚愕した表情のまま固まった隣で、エドワードは冷静に見ていた。エドワードはこれが誰がやったのか直ぐにわかったのだ。
「アルフレッド来たのか...」
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