第42話ティアと忍び寄る闇7

  ティアは大人しく別室で待機する気はサラサラ無かった。しかし、メモのある洞窟とはどこのことだろうか?そもそもどうやって行くのか?それが分からない。

 闇雲に探しても時間と体力を浪費するだけなので、軽く目星をつけたい。ティアはベッドに腰掛けて足をバタバタさせながらメモとじっと睨めっこする。


 「...城、攫う、難しい。どう、やる?」


 そもそも城からどうやって連れ出したのかが分からない。厳重な警備の網を掻い潜りソフィーを拐って城を出るのは困難なはずで、きっと何か手段がある筈だ。1つ気になるのはレイラのことだ。ティアはエドワードの書斎に向かうまで、髪の色を変える魔法を応用した魔法で周囲の景色に自身を溶け込ませていたので、兵士らが誰もいないと思ってしている会話を耳にしていた。その中である情報を得ていた。


 「レイラ、さん、いない」


 どうやらレイラもソフィーが行方不明になったと同時に姿を消したようで、彼女は誘拐の容疑者も視野に入れた重要参考人になっていたのだ。ティアはレイラがそんなことするはずがないと信じているが、現状他に情報がない。まずはそれを確かめるべくレイラの部屋に行くことにした。それで見つからなければいよいよ城を抜け出すしかない。ティアは遂に方針を決めてベッドから降りる。


 「出る。」


 ただ、ティアはレイラの部屋の位置を正確に把握していない。しかし、兵士が集まっている所だろうと推測しているので、先ずはそれを見つけることにした。

 決まればティアはすぐに動く。先ずは扉を開けるとチラチラと周囲を見渡してから、音をたてないように出る。


 「...」ドキドキ


 扉を開けた先に誰もいないか分からないので、一番緊張する。ティアはチラチラ周囲を見ているがどうやら誰もいない様子、そもそもティアの部屋が変わったという情報はまだエドワード達含め数人にしか伝わっていないのでここにはまだ監視の目が少ないのだ。ティアは安堵すると部屋から移動を始めた。タタタと足音を極力抑えつつ素早く移動して角に着いたら周囲を確認して移動する。階段は両手、両足で四足歩行で下り音と気配を極力消す努力をした。


 (侍女、部屋、きっと、下)


 ティアはレイラの部屋に全く検討がついていない訳では無い。以前、ティアが城のお手伝いで荷物を運んだ際に従者の部屋まで行ったことがあった。従者の部屋は役職順に決められており、基本個室だが広さに差異があり、下の階程密集しているらしい。ティアはレイラはまだ若いのでそこまで位は高くない筈と予想して下の階から順番に探してみることにした。


 1階に到着すると、ティアは従者の部屋の隣にある部屋に入った。ここは従者の制服がたくさん保管してあり、新品の服や道具が所狭しと並んでいる。ここにティアは服を借りに来たのだ。

 これから、ティアは部屋を回らなくてはならないが、ここのエリアは廊下で繋がっており、端から奥が見えるくらい見通しがいい。ティアがいくら魔法で隠れていてもまだ明るい時間では直ぐにバレてしまう、そう考えたティアは従者に成りすますことにしたのだ。エドワード辺境伯の城には数多くの従者がいるので、兵士達も全ては把握していないだろう。なので、変装すれば分からないと考えたのだ。


 「よし。」


 ティアはクローゼットを開けると従者服を探し始めた。


 数分後





 そこには、従者服を着たティアがいた。数回着たことがあったので、着方を覚えていたティアは今着ている服の上から羽織る形で直ぐに着替えることが出来た。ただ、ティアは鏡で姿を確認するとポツリと呟いた。


 「胸、おっ、ぱい、パイ...」


 ティアはパンパンと胸を叩いた。ティアが困ったのは女性従者が皆ティアより年上であるという点だ。年上である故に今のティアには無いものを彼女達は持っていた。それは仕方ないことなのだが、ティアは何か詰めた方がいいか少し迷った。

 

 「胸、大事?」


 ティアはあまり関心が無いが女性にとって胸の大きさは重要なようだ。以前、入浴した際に女性従者達がその話題で盛り上がっていたのを思い出した。その時はレイラからティアさんはまだ早いです、と真っ赤な顔で言われて直ぐに外に出されたが、残念ながら、孤児として王都で生活していた時、その話題をしている女性達の会話をよく聞いていたのでティアは特に何とも思わなかった。

 彼女らは日々お金を稼ぐために体を売っていたのだが、胸が大きいと稼ぎやすいとか言っていた。

 因みに、胸が全くなく小柄であっても一定の需要があるらしく、聞き耳を立てていたティアも食料に困ったらしようかな?と考えていたが、青い髪という外見の特異さと痩せ細った体に魅力が無かったのか、そういう仕事とは縁が無かった。まあ、そもそも年齢も低く人見知りなのでできるわけがない。

 そんなわけで、胸の大きさが有ったほうが良いのかティアは少し考え込む。



 さらに数分後



 扉を開けて誰かがゆっくりと出てきた。

 ティアである。

 結局、侍女服を上から着るだけにした。エドワード領の侍女にも身長が小さい人も多く目立つことは無いと判断した。因みに、巨乳になるために部屋にあったタオルとかを色々詰めてみたが、重い、足元が見えない、アンバランス過ぎる、等々で却下となった。

 ティアは髪の色を黒に変えると部屋から拝借した(盗んだ)掃除道具を手に取り、掃除をしながら行動を始めた。壁を掃除していれば、通路に背を向けるので顔をしっかり見られることはない。そう考えたのだ。そして、掃除しながら各部屋の前に掛けてある名前も確認できるのだ。

 従者の部屋には使用している従者の名前が書かれているので、それを確認していけばレイラの部屋を見つけることができる。こういう時も字が読めて助かった。


 というわけで、下の階から確認し始めたティアだが...





 1階





 2階





 3階...従者の部屋はここが最上階のはずだ。






 「???」


 なかなかレイラの名前が見つからずティアの困惑ぶりも分かる。しかし、考えてみて欲しい、そもそもレイラはアンが不在の際はソフィーの侍女兼、護衛を任せられている程の人物だ。城主の子供を訳の分からない者には任せられるはずがなく、レイラはその能力を認められているので必然的に階級は下の筈がないのだ。疑問に思いつつ3階に来たティアは、他の部屋よりも兵士達が集まっている異様な部屋を見つけた。ティアはじっとそこを見つめた。


 「っ!?」


 誰かと目があった気がしたティアは直ぐに柱に隠れる。兵士達はどうやら解散するようで、ぞろぞろとこちらに向かってくる。


 「!?」


 ティアは咄嗟に魔法で全身を壁の色と同化して息を潜める。ティアは髪の色を変える魔法を熟知することでそれを応用して自身のイメージする色に擬態できる所謂、保護色魔法に進化させていた。これによりティア自身を周囲の環境に溶け込ますことができるのだが、あくまで擬態するだけなのでティアがいることに変わりはない。少しでも動けばバレてしまう...ティアは息を殺して気配を極限まで薄めるよう努める。そのおかげか兵士らはティアに気付かずブツブツ会話をしていた。


 「駄目だな、レイラ殿の部屋からこれ以上何も無いな。」


 「あったのはあの青い髪だけか...」


 「あれは何なんだ?そもそも青い髪は王族だけだよな?訳が分からん。はぁ、レイラ殿は何処に行ったんだ?」


 兵士らはティアに気付かず去っていった。ティアは充分彼らが離れたと判断すると小走りでレイラの部屋に向かった。部屋にはレイラ...と本名?が書かれている。幸い鍵は開いているようで、容易に中に入れた。部屋は少し暗いが灯りを点ければバレてしまう。ティアは目を凝らして何かないか探した。


 





 しばらく探すが、兵士の言う通り何も見当たらない。何も無いのか?ティアがしばし考え込んでいるとこちらに近づく足音が聞こえた。


 「あ...」


 このままでは見つかってしまう。ティアはキョロキョロと見回してからクローゼットの中に入り込んだ。間もなく扉が開いて人が入ってきた。服装から見てティアを襲った連中の仲間だ。ティアは額に汗を掻きながら彼らの様子を観察した。


 「何かあるか?」


 「いや...」


 「特にないな。」


 男達は手当り次第に探すので、部屋が散らかるばかりだ。ちゃんと片付けて欲しい。


 「こちらも何も無いな。」


 「他の部屋も探すか?」


 男達は探すのを止めて集合した。リーダー格の男だろうか?が結果を確認し始めた。


 「新たな証拠はないな。」


 「ああ。だが、目標も見当たらない。」


 男達は今仲間しかいないようで、油断して色々話し始めた。


 「それにしても、隊長も考えるな。エドワード辺境伯令嬢の誘拐事件を利用して目標を誘き出そうなんてな。」


 「全くだ。お陰で向こう側の動揺を誘えたからやりやすくなった。」


 「ふふ。」


 流石にティアも苛ついたが、今バレれば捕まり彼らの思う壺だ。それは気に食わない。ティアは歯を食いしばりつつ息を殺して彼らが去るのを待っているとティアのいるクローゼットに1人男が近づいてきた。


 「そういえば、ここ見てないな。」


 「!?」


 バレているのか??と思うくらい複数のクローゼットからこれを選んできた彼らに戦慄しつつ、男達が近付いきている状況に冷や汗をかく。コツコツコツ、足音から近づいているのが分かる。


 (どう、する?戦う?...駄目。)


 男達の人数が分からない今、例え氷魔法を使って数人を凍らす事はできても全員を凍らすことが出来ない可能性の方が高い。相手は素人ではなく訓練された騎士なのだ。抵抗しても捕まるのは必至だ。なので、ティアは暗いクローゼットの中をコソコソして打開策を探す。


 コロン


 「?」


 ふと何かが指に触れて転がる音がした。ティアは暗闇でそれを掴むとクローゼットからの僅かな光で確認する。


 (石?何か、書い、てる。)


 それは石だった。しかし表面には何か刻まれている。この紋様見覚えがある...


 (っ!これ、魔法陣、同じ!)


 文字の形は違うがそれは魔法陣の文字に似ていた。ということは、魔法に関するものだ。試しにティアは軽く魔力を流してみると僅かに文字が光る。どうやら魔力を流せば発動する仕組みのようだ。


 (これは?)


 ティアがまじまじと石をまじまじと見ているとゴンと扉に触れる音がした。


 「っ!!」


 音に驚いてティアはビクッとする。そして、急に魔石が輝き始めた。


 「え?」


 ガチャっと男達がクローゼットを開ける。そこには...


 「?何も無いな...」


 そこには、誰もいなかった。あるのは真っ二つになり煙の出た石だけだった。

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