第41話ティアと忍び寄る闇6
エドワードに自分の髪を渡したティアは彼等に意を決して意志を伝えた。
「私、城、出る。」
「「...」」
「ギルバート、さん、達、何も、しない、わかる。でも、今、怖い、ごめん、なさい。」
ティアは俯きがちにしかし真剣な表情から本気なことが伺えるが、それでもエドワードは首を縦には振らなかった。
「駄目だ。」
「何故?」
「ソフィーが行方不明の今、これ以上火種を撒きたくない。部屋を変えるから居てくれ。俺たちが信用できなくてもだ。」
「でも...」
「ティア、分かってくれ。」
「…」
ギルバート達に頼まれその場ではティアは折れるしかなく、結局、ティアは別の部屋に極秘で移ることになった。しかし、ティアはどうしても城から出たかった、否、何としても出る必要があるのだ。ティアは部屋に入ってからポケットに隠した紙をギュッと握りしめた。
<数時間前>
ティアは水を飲むために恒例となったポットの中身確認をしていたところ、中から紙が出てきた。
「?」
紙を手に取ると光で紙の背面から字が透けて見えたので何かが書かれているようだ。ティアは不思議そうに中身を読んでいくとみるみるうちにティアの目付きが厳しくなった。
"青い髪のお姫様へ
こんにちは、お姫様。薬は気に入ってくれたかしら?貴方、暴走して大変だったそうじゃない。嬉しいわ。そうそう、貴方のお友達ソフィー様だけど私が預かったわ。開放してほしかったら。1人で城の外の洞窟に来なさい。他人に伝えれば、彼女達の命は無いわ。
貴方が欲しい者より"
「!!!」
手紙を一読したティアは息を呑んだ。やはりあの毒は仕込まれたものだったが、それよりもソフィーはやはり攫われており、どうやら犯人は自分も狙っているらしい。そして、自分の正体は既にばれていたのだ。
「私、の、せい?」
ティアは手をだらりとすると暗い表情で呟く。ソフィーが攫われたのは自分が原因...
「…」クシャ...
ティアは紙を握りつぶすとクローゼットに向かった。
「行か、なく、ちゃ。」
彼女は決意を口にするとクローゼットから服を取りだす。なるべく動きやすく、目立たずないような落ち着いた色の服を探す。本当はエドワード領に来た時に着ていた服にしたかったが、ここ最近、小さくなりきつくなってきて新調せざるを得なかった。
"ティア様、お似合いですよ。"
この服達は全てティアのためにソフィー達が選んでくれたものだ。ソフィーから褒められた記憶を思い出し、ますますソフィーを取り戻したいという気持ちに駆られる。この紙を無視することもできる。罠だと分かっている、しかしソフィーはティアのために服を選んでくれた。身分も関係なく親しくしてくれる優しい少女をティアは見殺しにできなかった。
「これ。」
ティアが選んだのはグレーのワンピースだった。華美な装飾はなく、ティア好みのシンプルなデザインで動きやすい。スカートは膝下を隠す位で長過ぎす短過ぎないので、中が見えることも足を引っ掛けることもない。靴は履き慣れた皮靴を選んだ。この靴は足によくフィットして動きやすさに重点が置かれているようだ。着替えて準備を終えたティアはいつもの首飾りをしてから頭からすっぽり被れるフードを着ようとした。次の瞬間...
バンッ!
「っ!!」
ティアが振り向くと見たことのない男達が部屋になだれ込んできた。そして、ティアが抵抗する間もなく男達の腕で抑え込まれた。
「がっ!」
いきなりで受け身も取れなかったティアは頭を床にぶつけてうめき声を上げる。しかし、騎士たちの拘束は緩まない。男達の後ろから男がティアに声をかける。おそらくこの中でリーダー格のようだ。
「大人しくしろ。そうすれば危害は与えない。お前にはソフィー様誘拐の嫌疑がある。」
「違う!して、な!!」
ティアは反論しようとしたが、抑えている男の一人が口を塞いできたのでそれは叶わなかった。
「大人しくしろといったはずだ」
「むー、むー!!」
反論の叶わないティアの側にリーダー格の男は来るとボソリとティアに言う。
「ふん!残念だな小娘。悪いが王族の血を逃がすわけにはいかないんでな。」
「!!!」
ティアはリーダー格の男を睨みつける。彼等は自分の正体を知っている。エドワード領に来た自分の追手だとは直ぐに察した。ティアは睨むがリーダー格の男には通じず嘲笑が返ってくる。すると、ティアを抑える男の一人が言う。
「それにしても、上玉だ。」
「全くだ。成長すれば男を虜にできるな。」
「ふんっ!お前達には触れられないだろう。こいつはいずれ王族の血を欲する男に抱かれる運命だ。」
「くくく。」
ティアがまだ子供だから分からないだろうと、最低な会話をする男達。ティアはその表情とかつて孤児の時に襲われた時の男達の表情が重なり、恐怖心が呼び起こされる。
「...」
「ん?なんだ?」
ティアは抵抗をやめると急に震え始める。抵抗を止めて震える少女を嘲笑う男達だが...昔と今では違うことがある。ティアの感情と魔力はある程度リンクしている。ティアの恐怖心と呼応して魔力は一気に放出される。ティアはそれを逃さなかった。
次の瞬間、パキパキッ音を立て一瞬でティアを中心に男達は凍りついた。
「な!?」
騎士達に抵抗する暇はなかった。
「むー」
凍りつき動けず体勢も変えられない男達はもう抵抗出来ない。ティアは身体強化で男達の手を自分の腕から剥がすとティアが動くことでと支えを失った男達はドミノ倒しのように倒れる。ティアは床も凍らせており、タイミング良く男を土台に蹴り上げて滑ってドミノ倒しから脱出する。
「この!」
難を逃れたリーダー格の男はすかさずティアの腰を掴むが、ティアは先程の恐怖と怒りを返すように顔を爪で掻きむしる。
「シャー!!」
「ギャッ!」
男は痛みで咄嗟に手で顔を覆う。視界を自ら覆った男はティアの行動を確認できない。その隙にティアは男の両足に触れて凍りつかせると、勢いよく体当りして押し倒した。
「えいっ!!」
「がっ!」
抵抗出来ない男はそのまま転倒して床に頭をぶつける。ティアはそのまま部屋を飛び出し、魔法で姿を周囲に溶け込ませる。
「あのガキ!!」
リーダー格の男は顔を赤くしながら部屋を飛び出すが外には誰もいない。否、ティアが見えていないのだ。ティアは更に空中に小さな氷の結晶を沢山生み出すと男に向けて放った。
「いたっ、いつ...くそ。」
ティアは追い打ちとばかりに男の髪、剣、鎧を凍りつかせた。武器を封じられ男は遂に音を上げて小走りで撤退する。
「く、くそ。応援を...」
ティアはこそこそついていくと、男はエドワードの部屋に入り、悲鳴を上げる。すると、何かを叫びながらもう一人知らない男が出てきた。どうやらそいつが上司のようだ。男は意気揚々とティアの部屋に向かう。どうやらティアが見えていないようだ。ティアを見えていない時点で男がティアを見つけるのは無理な話だ。ティアは男を通り過ぎるとエドワードの書斎に入った。
<今に至る>
結局、ティアは別室に移るが、彼女はいるつもりなどさらさらない。ティアは騎士や侍女の目を盗んで城から脱走する。嫌な予感がしたレイが来たときにはもう部屋は蛻の殻だった。
「エドワード様!ティアさんが!」
レイは直ぐにエドワードに報告するが、それを聞いた彼は大いに笑った。
「はははは、やはり頑固だな。ギルの言う通りそっくりだ。」
「笑っている場合ですか?!あの男が血眼で追っているんですよ?」
結局ティアを見つけられずプライドを傷付けられた男は全部隊を投入してティアを捜索している。ギルバートの部隊の邪魔になるなど最早体裁も手段も選ばないらしい。
「ティアはおそらくもう城にはいない。そもそも、先程ティアが見えなかった時点で奴の失敗は目に見えている。レイは奴等の今の行動を記録しろ。問題も隠さずな。それを理由に奴を城から締め出す。さらに王にも報告する。」
あの男が知っているか分からないが、エドワード辺境伯は国の重要拠点のため、王と直接連絡ができる特権が与えられている。不祥事が王に知られたら降格は必然であり、男の所属する勢力が打撃を受けるのも必至だ。エドワードの怒りを感じたレイは直ぐ様動いた。レイが去った部屋でエドワードは窓から外の景色を見つめた。頭に思い描いた走っているティアの後ろ姿が深紅の髪の少女と少し重なった。背丈も違い、育ちも異なるのに何故かティアを見ると思い起こされる。
「まったく…不思議な少女だ。」
本当は自分から探しに行きたいが、それが出来ない立場に歯がゆさを感じる。自由に動けるティアが羨ましかった。ティアがどうして居なくなったのか?それは調べなくても分かる。彼女は無意味に逃げたりしない。エドワードは本能的に察してポツリと零した。
「ティア...ソフィーを頼むぞ。」
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