第39話ティアと忍び寄る闇4

 ティアの部屋を出たセドリック達は歩きながら、先程のことについて話し始めた。


 「元気そうだったな。」


 「ああ、あの子もあの子なりに状況を理解してできる範囲で努力しているな。」


 ティアはあまり拘束されるのを好まない性格なので、部屋に居すぎて疲れていないか心配だった2人は一先ず安心した。しかし、新たな不安要素もあった。


 「それにしても...」


 ギルバートは声を潜めてセドリックに尋ねた。


 「ティアの目、どう思う。」


 セドリックはしばし無言になった後、ゆっくり口を開いた。


 「あの目は"魔眼"かもしれない。まだ分からんが...」


 「魔眼か...やはりな。」


 「俺はあまり見た事ないから知らないな。」


 "魔眼"それは、特殊な力を有する特別な目のことだ。時にそれは魔法の行使、何かの召喚、今回のティアの様に常人が魔法のような力を使わないと視えないものを容易に見ることができる等々様々だ。見たことないというセドリックにギルバートは納得しながら返した。


 「そもそも持っていると公言している奴が少ないんだから無理もない。しかし、この事はあまり伝えないほうがいいな。」


 滅多に見られない魔眼は希少価値が高く権力者だけでなく様々な人物が欲している。魔眼コレクターと呼ばれる魔眼だけを狙い所有者から目だけを奪い取る常軌を逸した人物もいる。ギルバートは何人かそういう人物に会ったことがあり、魔眼の危険性を認識していた。ギルバートの言葉にセドリックは頷く。


 「ああ、エドワード様位だな。報告に行くか。」


 「ああ。」


 ギルバート達はエドワードの書斎に向かった。

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 <ギルバートが去った後>

 部屋からギルバート達が出た後、怒られずに済んだティアは一息ついた。


 「ふぅ。」


 ティアはここ数日で魔力量の調整感覚を身に着け、氷魔法の威力の制御が出来るようになってきた。まだ油断すると暴走しかけるので練習が必要だが、1つ分かったことがある。


 「やっぱり、部屋、冷、たい。」


 セドリックは気づいていなかったようだが、実は結晶以外にもティアは魔法を使用していた。対象は部屋全体である。何故使用することになったのか?それは数日前に遡る。


 <数日前>

 ティアは魔法の制御を身に付ける方法として魔法を維持する練習が良いと本で学んで実践していた。最初は球体にしたくても表面が凸凹した物ができる、変に大きくなる、魔力を流し過ぎてすぐに砕けるを繰り返して中々結晶ができないでいた。ただ練習をつつけた結果…


 「で、できた。」


 2,2日かけて最初に維持できたのは、ウニ状の結晶だった。


 「とげとげ...」


 ティアはおそるおそるツンツンと突いてみる。氷なので冷たく尚且つ尖っているのでチクチクする不思議な感覚にティアはしばらく小突いていた。しかし、一時間すると


 「あぁ」


 結晶は段々溶けていき、針の部分が脆く砕けてしまった。そこで追加で魔法を使用するが、今度は溶けて垂れた水滴も凍りついて歪な形になってしまった。


 「むぅ」


 ティアはむっとすると、結晶を部屋にしまってあるバケツの中に入れると、再度作り直した。ウニ状結晶を何度も挑戦して作れるようになると、今度は加減を変えて針の形の様子を確認して感覚を身に着けていく。


 「まる、マル、丸...」


 針の形、数をコントロールして多角形は出来るようになったが、球体は難しかった。ティアは何度も挑戦するが上手く行かない。結局、夜までかかっても出来ず、その日は諦めた。


 ティアは外出禁止令を出されてから部屋の掃除を自分でしていた。運動がてらというのもあるが、単純にティアの面倒を見ている侍女がいないからだ。今まで担当だったレイラが謹慎中であり、領内に怪しい影がある今、無闇にティアに侍女を就けられないのだ。食事は持ってきてもらい、食器を出せば回収してもらえる。洗濯物もかごに入れて外に出せば、洗濯して乾いた物が届けられるので、問題はない。しかし、部屋の掃除、片付けはティア自身でやることになった。ティアは王都でお婆さんと暮らしていた時に、お手伝いで掃除、洗濯をしていたので苦ではない。部屋の外に置かれた洗濯物を回収して畳んで仕舞うと、ハタキで軽く埃を落として箒で床を掃除した。


 「ふぅ、水。」


 ティアは喉が乾いて水を飲みたくなった。


 「...」


 ティアはじっとポットを見た後、蓋を開けて中を除き何も無い事を確認してから水をコップに注いで少しずつ飲んだ。ティアは毒を盛られてからポットへの警戒心が非常に強くなった。飲む前は深呼吸と中身の確認を欠かさなくなった。今回は毒はなかったので、安堵したティアは胸をなで下ろした。アン達を信用していない訳では無いが、ポットだけどうしても確認しないと飲めなかった。それを察したアンは今後、中身のわかる透明なポットの購入をするそうだ。


 「ふぅ」


 緊張を解したティアは魔法の事を考えながら、じっとコップに入った水を見た。時折傾けて、くるくると回して渦を作る。行儀が悪いと怒られるかもしれないが、今は彼女1人だけなのでそういう人もいない。


 「くるくる...」


 ティアは渦を作りながらコップに魔力を流してみる。流れは出来ている渦の逆方向だ。その結果、氷はバラバラになっていた。 


 「ありゃ...」


 ティアは何度も繰り返して試す。コップをゆっくり回せば渦型の氷ができ、早く回せば氷はバラバラになる。


 「!、魔法、魔力、流れ、大切...」


 氷魔法は魔力の流れに沿って凍りつかせていくようだ。そのため、魔力の流れと逆向きに渦を作る場合、氷は魔力の流れに沿ってできるので、渦の流れが弱ければ氷は形を維持できるが、渦が強いと氷は砕かれてしまいバラバラになっていたのだ。ティアは魔力の流れに沿って凍りつかせる事に気付いた。これを活かせると思ったティアは直ぐに魔力の流れを球体になるようにしてみると...


 「で、できた。」


 遂に球体ができた。その日は嬉しくてベッドの上をコロコロしていた。しかし、その苦労した結晶も朝には形が崩れてしまい、彼女はどうすればよいか考えた。そして、導き出したのが、部屋全体に氷魔法を使用することだった。無論、部屋全体を凍らせればティアは即死なのでかなり威力を弱めて冷やすだけだ。ティアは体から魔力を煙のように放出していき、氷魔法を使用した。部屋全体に回るように魔力を流していくと段々、部屋が冷えていった。


 「さ、寒い...」


 しかし、欠点として氷を維持するための温度はティアが耐えられないので、分厚い上着を着ることになった。不思議なことに部屋の中心は暖かく、外よりも暖かいので、ティアは時折そこに手を入れる等して過ごしていた。

 このような苦労の末、ティアは様々な結晶を形成、維持に成功したのだ。ティアはそれからずっとその魔法の維持に努めている。魔法の消費は決して少なくないが、魔力量が増えたティアにとって問題ないようだ。改めてティアの魔力量の破格さを感じる出来事だ。ティアは外出禁止が解かれたら、ソフィーに見せてあげようと思った。彼女なら喜んでくれるだろう、ソワソワ、ワクワクしながらその時を待っていた。


 <ギルバート達がティアを訪れた日の夜、ソフィーの部屋>


 一方のソフィーも数日、ティアと会えない日々に寂しく思っていた。実はティアと同時にソフィーも基本的に部屋で過ごすことになり、勉学などで外出するが、基本的に部屋で待機だった。まだアンやエドワードに会う機会があるので、ティアよりは寂しくはない。


 そんな中、突然、部屋にノック音が響く。


 「?こんな時間なのに?」


 今は夜遅くで基本誰もいないはずだ。ソフィーは不思議そうに扉を開けると、そこにはレイラがいた。


 「レイラさん?」


 「はい、レイラです。ソフィー様、ご心配をおかけして申し訳ありません。」


 レイラが頭を下げるとソフィーは慌てて尋ねた。


 「もう大丈夫なのですか?」


 「ええ、犯人も捕まりましたので、今夜より復帰です。」


 「それは良かったです。」


 ソフィーは安堵した。表情も明るい。ソフィーはレイラに訪問の目的を尋ねた。


 「ところで、何か御用ですか?」


 「ティア様の所へお連れしようと思いまして...。」


 ソフィーの表情がパアッと明るくなる。


 「えっ!?本当ですか?でも、今はティア様は外出できないと...」


 「はい。ですので、代わりにソフィー様から訪ねてほしいと...」


 「そうなのですね。では、準備してきます。」


 ソフィーは意気揚々と準備を始めた。ソフィーにとってティアは初めての友人で、寂しい思いをしていたので、会えると知って嬉しいのだ。数分後、準備を終えたソフィーはパタパタと出てきた。服装も寝間着から普段着になっており、彼女の気合の入れようが伝わる。ソフィーは意気揚々にレイラに言う。


 「それでは、参りましょう!」


 「はい。こちらです。」


 レイラの案内でソフィーは移動し始めた。今か今かと興奮した様子のソフィーを他所に、ニヤリと誰かが笑った。


 そして、その夜からソフィーは行方不明になった。犯行現場からは、髪の毛が一本見つかった。真っ青な毛で、この国で青い髪なのは王族であり、現在この城に滞在している人の中で青い髪を持つのは一人しかしない。新たな騒動がすぐそこまで来ていた。

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