第25話ティアと健康診断4

 魔術解除の準備ができるまでティアはソフィーと過ごすことになった。と言っても、ソフィーは講師に魔法を教わっていたので、ティアも教えてもらうことになった。因みに講師はセドリックだ。


 「今日は魔法の制御の訓練をしてみましょう。目の前にある箱に風魔法をかけて浮かせてください。箱は段々大きくなるので、難易度も上がります。」


 セドリックが手をかざすと、一つずつ箱がゆっくり浮遊しては元の場所にゆっくり戻す様子をティア達に見せた。


 「それでは、やってみてください。」


 「はいっ!」


 気合を込めた返事をしたソフィーは手に持った杖をかざす。すると、風が巻き起こり、小さな箱が浮かばせると、少しして元の場所に戻した。セドリックもそれを見て頷いた。


 「はい。大丈夫です。この調子で続けてください。」


 「はいっ!次は...」


 こうして、次々と箱を浮かべていくソフィーだが、2番目に大きなランドセル位の大きさの箱に苦戦した。風の調節が難しいのだ。ソフィーにとって此位の箱を吹き飛ばすことは容易いが、今回はそれをゆっくり持ち上げるのが課題だ。ただ上げればいいのではないので、加減が難しいのだ。


 「がん、ばれ。」


 ティアも後ろでソフィーを応援する。ソフィーは、額に汗を浮かべながら、魔法を調整するが...一瞬集中力が途切れてしまったことで下限を誤り、箱を吹き飛ばしてしまった。箱は部屋の片隅でお茶の準備をしていたレイラに向かって落ちていく。


 「あっ」


 「まずい!」


 セドリックが止めようとするより前にティアは走り出していた。レイラの前に出るとティアは両手を前に出して魔法を発動した。地面からティアの身長の2倍はある大きな氷の壁が生えてくるように現れた。


 「こ、氷!」


 レイラ達が驚いているのも気にせずティアは両手を氷の壁に添えた。

 やがて、箱が氷の壁に激突すると同時に、ティアは魔力を更に流す。結果...パキパキと音を立てて箱が氷漬けとなり壁と一体となって動きを止めた。それを確認したティアは手を壁から離して一息ついた。


 「ふぅ...」


 「ふぅじゃないでしょ!見せて下さい。」


 レイラは慌ててティアに近づくと両手の様子を見た。ティアの手は真っ赤になっていた。


 「素手で触るからです!もっと自分を大事にしてください!」


 「ご、ごめん、なさい。」


 レイラのあまりの剣幕にティアは謝るしかなかった。幸い、短時間しか触れていなかったためか大事に至らず手が赤くなっていただけで、少し経てば普段の皮膚の色に戻っていった。

 魔法の講義は一旦休憩となり、ティアとソフィーはお茶をしていた。机のお菓子を食べつつ、レイラが淹れてくれた紅茶を飲んでいた。お茶はほんのり甘みがありながら後味がすっきりしたので、甘いお菓子とよく合った。ソフィーはカップを持ちながらティアに尋ねた。


 「ティア様は氷魔法が使えるんですね。私、氷魔法は初めて見ました。」


 ティアは首を縦に振った。


 「ん。珍しい、らしい。ソフィー、様、何、使える?」


 「私は風魔法です。でも、あんまり上手に使えなくて...」


 ソフィーが少し落ち込んでいると、セドリックが補足してくれた。


 「ソフィー様は人より魔力が多いので、調整を間違えると威力が大きくなりやすいんです。ティアもそうだろ?」 


 「ん。難しい。」


 ティアはちらりと先程生み出したティアより一周り大きい氷の壁を見た。実は彼女はここまで大きな氷にする気はなかったが、レイラが危ないと焦っていたことから結果的に、大きな氷を作ってしまったのだ。最もこれは、現在ティアに刻まれている魔術の影響で魔力が放出されやすくなっているからでもある。この魔術が原因で余計制御が上手くいかないのだ。ティアはそんなことを考えつつお茶を飲んでいるとソフィーは興味津々で尋ねてきた。


 「ティア様は他にも使える魔法はあるのですか?」


 「あ、ある。」


 「そ、それはどういうのですか?どこで学んだのですか?」


 「え、えと...」


 突然、ソフィーが目をキラキラさせながらグイグイ来るのでティアは戸惑ってまごまごしてしまう。レイラはティアが困っているのを察してソフィーを止めた。


 「ソフィー様、ティアさんが困ってます。」


 「あ...ご、ごめんなさい。わ、私、同年代の知り合いが少なくて...こういう話をしてみたかったんです。ご迷惑でしたよね?」


 ソフィーは落ち込んだのか俯いていた。ティアは立ち上がると彼女の近づき彼女の目線を合わせるように座ると首をゆっくり振って答えた。


 「迷惑、違う。私、も、慣れて、ない、だけ...私、話し方、変。だから、ごめん、なさい。」


 「い、いえ。謝らないでください。ゆっくり教えて下されば...」


 ティアとソフィーは互いにペコペコ謝りはじめる。レイラは微笑ましく思いつつ2人に会話を促した。


 「お二人共、さぁお話の続きを...」


 「そ、そうですね。ティア様、氷魔法以外の魔法を見せていただけませんか?」


 「ん。分かった。」


 ソフィーの求めにティアは頷くと髪に魔力を流す。すると...


 「まぁ...」


 「すごい。キレイ...」


 「!」


 ティアは全体的に朱色で所々深紅のメッシュが入っているエドワード達に見せた例の髪に変えた。最初は苦労していたこの難しい配色をティアは鏡を見ずに想像だけで見事に再現してみせた。セドリックは戦慄する。


 (この子、数回であの難しい色を再現できるようになったのか...)


 ソフィーはウズウズしつつもティアに尋ねた。


 「あの...触ってもよろしいですか?」


 「ん。大丈夫。でも、撫でる、だめ。ぐちゃぐちゃ、なる。」


 「は、はい。では、いきます。」


 ソフィーはそ~っと手を伸ばしてティアの髪を触ってみる。ティアの髪は見事に赤く染まっており、黒い部分は見当たらない。


 「きれいに真っ赤に染まっています。こっちのは違う赤ですね。こんな一瞬で変えられるなんてすごいです!」


 レイラもティアの髪を見て感想を述べた。


 「ツートンカラーですね。私の知り合いにも髪を変える魔法の使い手はいますが、一度に2種類の色にするのは難しいとおっしゃっています。すごいですね。」


 ソフィーとレイラに褒められたティアは顔を真っ赤にして俯いた。嬉恥ずかしくて2人を直視できないのだ。それをみてソフィーはクスッと笑う。


 「まぁ可愛いです。ティア様。」


 「ふふ、そうですね。」


 「う〜、お、終わり。」


 恥ずかしさに限界を迎えたティアは髪を先程の黒髪に戻した。ソフィーは少し残念そうにしながらティアにお礼をした。


 「戻しちゃいましたか…残念です。でも、ありがとうございます。」

 

 「次、ソフィー、様、番。」


 「そうですね。では、これを...」


 ソフィーは空のコップを机に置くと、杖を取り出してコップをコツンと軽く叩いた。すると、カップに何かしたのだろうか?おもむろにカップを持ち上げて机に落とした。


 「あっ...」


 カップは割れずに地面をコロンと転がる音がした。セドリックが確認で触ってみるが全くコップは割れていない。


 「割れてないですね。お見事です。」


 「えへへ。ありがとうございます。」


 ソフィーは頬を少し赤らめつつ、髪のは寝ている部分がるんるんと揺れていた。どうやらセドリックに褒められたのが嬉しいようだ。ティアはコップをじっと見つめながらそっとセドリックに両手を向けた。


 「触る、いい?」


 「ああ、いいぞ。」


 ティアはセドリックからコップを渡されて、周囲や縁をまじまじと見つめたが、特に割れた様子はない。


 「おお。」


 試しに叩いてみるが、普通のコップのようだ。ソフィーはティアの様子を見ていたが、ティアがコップを振り上げたので慌てて止めた。


 「ティア様、もう魔法は溶けていますので割れてしまいます。」


 「そう?残念...」


 「まだ少しの間しか維持できないんです。申し訳ありません。」


 「ん?気に、しない。でも、凄い。」


 ソフィーは申し訳無さそうにしているが、ティアは気にしなかったので、首を横に振った。

 その時、トントンとドアのノック音が聞こえた。


 「はい。どうぞ。」


 「失礼します。」


 レイラが扉を開けると、アンが立っていた。


 「ご歓談中のとこ、申し訳ありません。アレク様達の準備が整いましたのでティア様をお連れいたします。」


 「畏まりました。ティアさん、参りましょう。」


 「ん。」


 ティアが頷いて立ち上がったところ、ソフィーに呼び止められた。


 「ティア様!」


 「ん?」


 「お気をつけて...」


 ソフィーは心配そうに両手でティアの手を握った。


 「ん。ありがとう。」


 「危険性は無いそうなので、ご安心ください。さ、ティア様は行かなくてはならないので、お手を離し下さい。」


 アンはソフィーにそう声をかけると、ゆっくりソフィーの手をティアから離した。ソフィーはそれでも不安そうにアンの服の裾を掴んだ。アンはそれを見て困った表情をしながらレイラに後を任せることにした。


 「レイラさん、申し訳ないのですが、ティア様を先程の部屋にお連れしてください。私はソフィー様を見ています。」


 「はい、畏まりました。ティアさん、行きましょう。」 


 レイラはティアを誘導した。部屋を出て扉が閉まるときに、ふと部屋の中を覗くとアンは腰を下ろしてソフィーと同じ目線になり、彼女の両手を握りながらソフィーの話に頷いていた。

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