第24話ティアと健康診断3
ソフィーと昼食を食べたティアは休息として座ってソフィーと談笑した。内容は検査のことだ。
「口、棒、突っ込む、怖い。」
「喉を見るためらしいですけど、私も最初怖かったです。小さい頃は泣いていたと聞いています。」
「ん。当、然。」
ティアにとって検査の印象はあまりよくないようだ。ソフィーもティアと同じ印象のようで頷いている。そんな感じで談笑を続けているとアンがティアに声をかけてきた。
「そろそろ、戻りましょう。おそらく、皆様もお集まりです。」
「ん。」
ティアとソフィーはアンに連れられて先程の部屋に戻ると既にエドワード達が戻っていた。ギルバートがティアが来たことに気づいて声をかけた。
「おお、戻ったか。」
「ん。お昼、食べた?」
「まぁな。俺たちは食べるのが早くてな。まぁあまり気にするな。」
エドワードもギルワードも国軍に所属していた事があるそうなのだが、そこでは食事の時間も決まっているらしく、時間内に残さず食べるために自然と早くなったらしい。因みに、レイは執務、セドリックはギルバートの代わりに軍の訓練の指揮をとるために不在だ。本来はエドワード達がすべきだがそこは気にしてはいけない。アンは周囲を見渡した後、エドワードに話しかけた。
「それでは、私はソフィー様とお部屋に戻ります。レイラさん、後はお願いしますね。」
「はい。畏まりました。」
「それでは、失礼します。」
「ティア様、お父様、それでは。」
アンとソフィーは一礼すると、部屋を出た。アレクはそれを確認して説明を始めた。
「実は食事を済ませたあとに、二人でこの刻印を調べた所、この刻印の正体が解りました。」
「どういうものだ?」
「まずこの魔術自体がティアさんの命を害することはありませんので安心してください。この刻印は魔力制御をするものでした。」
命に害はないと聞いて胸をなでおろすティアであったが、エドワードは気になって疑問を呈す。
「制御?」
「ええ。魔力の放出を促して、体内に魔力が貯まらないようにするものです。そうすることで、魔力が体内に残る量が少ないので魔法の行使に制限が出ます。」
「具体的には?」
「上手く機能していれば魔法が使えません。」
「!!!」
「だが、現にティアは魔法を使えるぞ。それに、魔力が無くなれば命の危機があるんじゃないか?」
ギルバートはアレクにそう返す。ギルバートの疑問はもっともだ。人間は魔力が底を尽くと命を落としてしまう。いくらティアの魔力が人より多くても魔力を放出しすぎれば危ないのだ。しかし、アレクは首を振り説明を続けた。
「いいえ、その心配は無いようです。この魔術には対象者の魔力がある程度まで減ると放出を制限するようになっています。つまり、必要最低限の量は確保できる仕組みなんです。しかも、成長に沿ってその量も多くなるように工夫がされていますので、まず命を落とすことはないでしょう。ですが、今この魔術には問題が生じています。」
「何かあったのか?」
「おそらく経年劣化だと思われますが、魔力の制御がうまく機能していないようです。この魔術は常時発動型なので必ず劣化します。いくらこの魔術が優秀でも、対象者の成長もあるので定期的にメンテナンスが必要です。それなのに、それが行われなかった為に魔術が上手く機能しなくなって、ティアさんは魔法が使えるようになったと考えられます。」
ティアは何となくこれで謎が少し解けた感じがした。ティアは王都でお婆さんに匿われるまで魔法を使えなかった。しかし、最近は魔法が使えるようになり、むしろ暴走することも多い。こんなことになるなんて孤児として王都で過ごしていた時には思わなかった。ティアがそう考えている傍らで、ギルバートはアレクに続きを促した。
「これでティアが魔法を使えるようになったのは分かったが、魔法が暴走しやすくなった原因は分かるのか?」
「それもこの魔術の不具合が原因です。」
「!」
「何!?」
「今、この魔術は放出の制限がなされていません。つまり水の入った樽に穴が空いているダダ漏れ状態です。」
「ダダ、漏れ」
水が漏れるイメージをしてああ水が勿体ないと思うティアであった。
「魔法は元々感情に呼応しやすいものです。しかし、この魔術の不具合の影響で魔法が異常に漏れたことで魔法の暴走が生じやすくなったと考えられます。」
「それも経年劣化が原因か?」
「いえ、おそらく何か強い影響を受けたことによるものです。ティアさん、何か魔法を無理矢理行使した事とかありますか?」
「無理、矢理...あっ!」
「何か心当たりが在りますね?」
「ん。多分、ノラ、戦った、時。あの、時、沢山、氷、作った。」
ティアはノラと戦った時に、ノラが発動した巨大な火球からおじさんを守るためにありったけの魔力を込めて氷の壁を発動していた事を思い出した。その時、実は頭にパキッと何かが割れる音が響いてたのだ。当時は気にしなかったが、その時を境に魔法の暴走が起こったので、もしかすると魔術が壊れた音かもしれないとティアは思った。
「例の魔女と戦った時か…俺は見ていないが、確かに巨大な氷ができていると報告を受けたが、やはりティアのだったか。」
ギルバートの言葉にアレクは頷いた。
「おそらくそれですね。その時に魔術の制限を無視して無理矢理魔力を引き出そうとした結果、この不具合が起きたのでしょう。」
「このままの状態でいいのか?」
ギルバートの問にアレクは首を振って否定した。
「いいえ、危険です。この魔術は壊れてしまった以上、ティアさんの魔法が暴走する原因になってしまっています。彼女のためにも直ぐに除去した方が良いでしょう。幸いこの魔術のベースは非常に有名なので、解除方法も分かります。」
「そうか。なら、頼む。ティアもいいな?」
「ん。お願い、します。」
エドワードはアレクに魔術の除去を頼み、ティアは頭を下げた。
「分かりました。少し準備が必要ですので、夕方に行いましょう。」
「分かった。レイラ、準備ができるまでティアをソフィーのところへ。」
エドワードはレイラにティアと共に席を外すよう指示を出した。
「畏まりました。ティアさん、それでは参りましょう。」
「ん。」
ティアはレイラに連れられて部屋を出た。
−−−−−−−−−−−−−−−−−
<ティアが去った後>
ティアが去ったのを確認するとエドワードはアレクに尋ねた。
「この魔術はそんなに有名なものなのか?」
「ベースは有名です。ただ、術者によりかなりアレンジがされています。」
「それで複雑になっているのか?」
エドワードは腕を組みながら尋ねると、アレクは首を大きく振って説明しだした。
「いいえ。寧ろかなり洗練されています。魔法の放出と貯蓄を上手く調整されるようになっています。それに、ティアさんの魔力で動くようになっていますが、魔力の使用も必要最低限になるようになっています。ここまで対象者のことを考えて構築されている魔術はあまり見かけません。術者の練度の高さが伺えます。」
アレクは興奮する感じで説明した。彼は医者であるが、魔法の研究者なのだ。彼の勢いにエドワードとギルバートは若干引いた。
「そ、そうか…だが、それはティアの魔法を封印していたんだろう?あまり良いものには思えんぞ。」
ギルバートの言うことは正しい。魔法を使えるか否かで、生活は変わってくるのだ。魔法が使えれば職の範囲も広くなるので稼ぎやすくなるのだ。だが、セレンは首を振った。
「いいえ。そもそも、これは特に魔力の保有量が多い貴族の子供がよく受ける魔術です。」
「何!?そうなのか?」
エドワードは少し驚愕した。セレンは続ける。
「はい。魔力が多すぎても体にあまり良くありません。魔力が多い子供特に赤ん坊の場合、魔力に体が耐えきれず命を落とす可能性が極めて高いです。心当たりはありませんか?」
「...」
「...」
ギルバートとエドワードは無言になった。確かに幼い頃のソフィーは体調を崩しやすかった。それに、かつての知り合いに魔力が多く体調を崩しやすい人がいたのだ。その人は赤ん坊ではなかったが、学生の頃ギルバートもエドワードもおぶって保健室まで運んだことが何度かある。最も彼女の場合、倒れる寸前まで人に伝えずに我慢してしまう性格だった。セレンはエドワード達の表情を見て読み取った後、続けた。
「ありますね?この魔術はそんな子供のために開発されました。だから、害する目的ではないので簡単に外れるようになっています。」
「そういう目的のものだったか...」
「ティアさんはあの規格外の魔力を保有できます。おそらく赤ん坊の頃からその傾向があったのでしょう。それでこの魔術が施されたと考えられます。」
「なるほどな。それなら何故ティアにその魔術が施されたか納得できる。」
エドワードは腕を組んで納得していた。しかし、セレンの表情はあまり明るくなかった。
「ですが、疑問もあります。」
「なんだ?」
「彼女がどうしてこの魔術を受けることができたのかです。この魔術はまだ完成して10年近くしか経っておらず、ティアさんが赤ん坊の頃は魔法学校の研究者等の限られた者にしか知られていませんでした。それにこの魔術のクオリティーから見て術者はかなりの練度を有しています。そんな術者から魔術を受けられた環境にいたとなると彼女は...」
「高い身分の家にいたと?」
「ええ。そうとしか考えられません。そして、何かが原因で今孤児になっている。彼女はいったい何者なのですか?」
4人の間で沈黙が起きた。エドワードとギルバートはアレク達にまだティアの正体を話してはいない。しかし、こうなると話さざるを得ないなと2人は感じていた。しかし同時に黒い影を感じ始めていた。確かにティアは王族の血が流れているので本来身分が高いのは確かだ。そして、赤ん坊の頃は当時貴重な魔術が受けられる程恵まれた環境にいたと考えられる。しかし、今は孤児として自分の正体も知らず王家や様々な権力、人物から狙われる立場に立たされている。つまりどこかのタイミングで彼女は孤児になったのだ。一体いつ、彼女は孤児になったのだろう?
そして、彼女の存在は全く公になっておらず何故王家は沈黙しているのか?
答えを知る者はこの場にはいない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます