第23話ティアと健康診断2
検査を受けたことのないティアには戸惑うことばかりであったが約2時間ほどで検査は終了した。朝食を摂っていないので空腹だったティアはいつもより時間が過ぎるのが遅かった。検査終了後、ティアはご褒美として甘いジュースを貰った。味は林檎のようで砂糖もあまり含んでいないようで自然な甘みを感じてティアはこの味を気に入った。また、喉も乾いていたティアは夢中でストローを吸っていた。そんな中、エドワードやギルバート達がやってきた。
「検査、終わったか?」
「終わったみたいだぞ。ティアを見ろ。」
「♪〜」チュ−チュー
夢中でジュースを飲む姿を見てギルバート達は少しほっこりしていた。そんな中、アレク達は紙を持ってやってきた。
「検査終わりました。」
「結果は?」
「その前に、彼女には...」
エドワードの問に答える前にアレクはティアには別室に行ってもらっまた方がいいのではとティアを目線で指しながら伝えた。しかし、ギルバートは首を振るとティアの頭を少し撫でて答えた。
「いいだろう。ティアも聞きたいはずだ。な?ティア」
「ん。聞く。」
ティアが頷くと、アレクはエドワードと目線を合わせる。彼も頷くとわかりましたと言って、報告を始めた。
「まず、現在彼女は深刻な病気は持っていないようです。聴力、視力共に問題ありません。歯もきれいです。」
「ほう、良かったな。ティア。」
ギルバートはティアの頭を撫でる。
「ただ問題が...」
「!」
ティアはドキリとした。顔も強張る。
「まず、これを見てもらった方が早いですね。」
セレンはティア達に見える向きで紙を机に置いた。紙には文字や円?が色々書かれていた。
「この紙には魔力判断プレートの診断結果が表示されています。この机に置いてあるプレートは対象者の血と魔力からその人の魔力の適正、保有量と最大保有量がわかります。ついでに年齢もわかるのですが...」
セレンが指をさした所には、"12"と書かれている。ということは…
「なっじ、12歳!?ソフィーと同い年なのか!!!」
「ティア、お前そうなのか?」
「!私、年、判ら、ない。」
ティアも驚いていた。以前、王都で匿ってくれたお婆さんから10歳位と予想されていたので、本人もそう思っていた。まさか、システィナ、ソフィーと同い年とは思っていなかった。
「貴方は孤児と聞いているはなら仕方ないかもね。」
「それにしてはこの子は小さいぞ?」
エドワードの疑問は最もだ。ソフィー含め12歳の女子の平均的な身長は145~150cm位だ。ティアはそれよりも10cm以上低い。しかし、セレンは首を振って答えた。
「それは個人差がありますので一概には言えません。ただ身長に対して体重が軽いですので、栄養不足が考えられます。おそらく、成長期に満足に食べられていなかったことが原因で大きくならなかった可能性はあります。しかし、今は満足な食事が摂れていますので、おそらくここで過ごしていけば状況は改善されるでしょう。」
「良かったな、ティア。」
「ん。」
ティアも安心していた。かつては明日の食べ物さえ困っていたのに、今は満足に食べられる。この生活が続けばいいなと思った。しかし、アレクの表情はまだ晴れていない。どうやらまだありそうだ。
「もう一つ大きな問題があります。ここです。」
アレクが指を指したところには数字が2つ書かれていた。
「これは?」
エドワードが問うと、アレクは答え始めた。
「これは魔力の保有量と最大保有量です。12歳の子供の場合、最大保有量は平均12000です。ソフィー様は少し多くて1.5倍の18000で魔力量が多いとわかっています。それでも多いほうなのですが、ティアさんの数値は...」
アレクが指を指した所には24000と書かれていた。改めて数字を見たエドワードは目を見開いて驚愕した。
「2、2万!?」
「私も見たことがありません。これは破格の数値です。王族のジャスミン様が12歳の頃の測定で、同じ数値だったと分かって当時大騒ぎになりました。私が知る限りではあの方以来初めてです。」
セレンが続けて補足をする。
「最大保有量は、人間の成長と大きく関係しています。おそらく栄養状態が改善すれば、それ以上になるでしょう。そうなれば、彼女は12歳にしてこの国の子供だけでなく大人も超える魔力保有量を有する可能性があります。」
「なっ!?」
「ただ、問題があります。ここです。」
アレクが指を指したところには10800と書かれている。
「これは?」
「これは現在のティアさんの魔力の保有量です。通常、魔法などで魔力を使わない場合、大体最大魔力保有量の9割位を保有しています。しかし、彼女は今5割もありません。これははっきり言って異常です。」
「原因として我々は...何者かによる呪いか魔法に因るものと予想しています。」
「呪い...」
「ティア、誰か思い当たるか?」
「?」
ギルバートの問にティアは受けた相手に検討がつかなくて首を傾げた。正直、ティアは誰かを恨むことはあれど誰かに恨まれる筋合はない。候補としてノラがいるが、あの時彼女はそれをする余裕はなかったはずだ。(それに、彼女はそんなことしない気がする。)他に骸骨貴族(のクソ野郎...)もいるが、奴にそんな能はないはずだ。他にもティアを目の敵にしていた孤児とかいるが、彼らはないだろう。そんなことができていたら、あんな生活はしていないはずだ。ギルバートはティアの表情を見て言った。
「その顔は思い当たらないようだな。」
「とりあえず発生源を突き止めましょう。ティアさんベッドに寝て下さい。」
「ん。」
ティアは言われた通りベッドに寝そべった。他の人にジロジロ見られるのが恥ずかしいティアは頬を赤くする。そんな様子を気にすることもなくセレンは手を翳すと目を閉じた。すると、セレンの掌が光りだして、ティアに光が当たり始めた。今探しているのだろうか?ティアはセレンの様子をまじまじと観察した。少しして、セレンは目を開けた。
「これは...彼女に何か魔術が刻まれていますね。」
「ま、じゅつ?」
ティアは聞いたことがなくて首を傾げる。セレンはティアに説明してくれた。
「魔術とは法則性のある特殊な文字列に魔力を流して発動する魔法のことよ。」
「それが何故この子に?」
「分かりません。しかし、これが悪さをしているのは間違いないでしょう。」
「そうとわかれば、まずはこの魔術を調べる必要がありますね。」
「どうするんだ?」
「この紙に写し取ります。」
エドワードの問にセレンが長い紙を取り出して見せた。白くて人一人を巻き取れそうな紙だ。どうするのだろうか?ティアが疑問に思っていると、アレクが付け足して説明する。
「これをティアさんに巻き付けて魔術の文字を写し取ります。」
「!!!」
ティアは衝撃の表情をする。アレクがティアに紙を巻きつける姿は危ない感じしかしない。他の人もそう感じたようだ。
「おい!ロリコン!殺すぞ!」
ギルバートが剣に手を添える。
「巫山戯んな!変態!」
エドワードが拳をだす。
「いや、やるのはセレンだ!セレンも何でそんな目で見るんだ!!」
アレクが慌てるとセレンはくすっと笑って補足する。
「冗談です。申し訳ありませんが、魔術刻印を正確に読み取るには直接触れるしかないんです。私がやりますので、危険はありません。」
「セレンなら、大丈夫だな。頼む。」
「ありがとうございます。ティアちゃん、こっちよ。」
エドワードが許可を出すと、セレンはティアを部屋の奥の黒いカーテンに包まれた所に連れて行った。セレンはベッドに紙を敷くと、ティアはそこに寝そべる。そのあと、セレンはティアを紙で包んで紙を円形に丸めると軽くテープで止めた。これで準備完了だ。セレンはティアに聞いてみた。
「今どんな気持ち?」
「ミノムシ...」
ティアはどうやら気に入っているらしい。顔が綻んでいる。
「そ、そう...なら始めましょう。」
セレンはティアの感想は予想外だったようで少し戸惑いつつ、紙に触れて魔力を流した。すると、紙が熱を帯び始めてじんわり温かくなる。
「すこし、この状態でいてね。」
「ん...」
ぽかぽかと心地良い暖かさにティアは気持ちよく感じていたが、段々眠気に襲われ始めた。5分位経っただろうか?セレンは手を離してティアに言う。
「さぁ終わりよ。ティアちゃん?」
「すぅ...」
「あら、寝ちゃった?」
ティアは紙から伝わる温かさから眠気を感じてしまい、寝てしまったのだ。しかし、ここで問題が起こる。部屋が暗いのでセレンはまだ気づいていないが、ティアの意識が眠ったことで髪の色を変える魔法が解け始めてティアの髪に青が混じり始めているのだ。このままではバレてしまう…
「紙を貰うわね。」
セレンは優しくティアから紙を丁寧に外していく。すると、肌寒くなったのかティアが、目を覚ます。
「むにゃ...」
「あら起きちゃった?ごめんなさいね。」
「ん...」
ティアはぼんやり部屋を見渡した後、部屋を出た。すると明るいところに出たことでティアの髪に気づいたセレンはティアに尋ねた。
「あら?貴方の髪…青が混じっていたかしら?」
「?...!!!」
ティアはバッと髪を一束掴んで見ると、なんと髪に青が混じっているのではないか。ティアは慌てて暗い部屋に戻ると魔力を流して髪を黒くして再び部屋を出た。
「あら?気の所為かしら?それより、ティアちゃん髪をそんなふうにつかんでは駄目よ。女の髪は大事なの。」
「ご、ごめん、なさい。」
「いいわ。気を付けてね。」
「ん。ふぅ...」
どうやらセレンは気にしていないようだ。ティアは安心してため息をついた。髪の色を変える魔法はティアの意識が無くなると解けてしまうようで、いつも朝起きると魔法が解けているのだ。そんなわけでティアは寝るとき布団を頭から被っている。今回は油断してしまったが、次から気をつけないといけない。そう思いながらティアがエドワードのいるところに戻るとアンとソフィーが尋ねてきていた。少しそわそわしていたソフィーだが、ティアに気がつくとぱっと笑顔になってティアに近付いて声をかけた。
「ティア様、御加減は?」
「ん。大、丈夫。」
ティアが答えると、アンも来てティアに声をかけた。
「朝から何も食べていないので空腹でしょう?お昼の時間にしましょう。アレク様、よろしいでしょうか?」
アンの問いにアレクは頷いた。
「ええ構いませんよ。もう昼食の時間ですし…」
「ありがとうございます。それでは、お食事としましょう。皆さんの分もご用意しまておりますので、ご案内します。」
というわけで、お昼の時間となった。アレク達大人はアンに呼ばれてやってきた侍女たちに案内されて食事部屋に案内されていった。ティアとソフィーは彼らとは別の部屋で昼食をとることになった。ソフィーとティアが少しでも緊張せずに接することができるようにとの配慮であった。2人が席に座ると目の前に食事が運ばれてきた。今日のお昼はトマトと鶏肉のパスタだ。ティアの分は朝食を食べていないのも考慮して少し多めだ。アンは2人に食事が配られると説明を始めた。
「本日の昼食はトマトと鶏肉のパスタです。隣に置いてあるチーズをお好きな量かけていただいてお召し上がりください。」
ティアは言われた通りチーズを振り掛ける。隣のソフィーをちらりと見た。彼女はチーズをかけていないようだ。ソフィーは丁寧にパスタをフォークでクルクルと巻き上げて口にしていたので、ティアも真似てフォークでクルクル巻いた。
「巻けた。」
「ティア様、お上手です。」
「あり、がとう。あむっ、もぐもぐ...」
ティアは大きく口を開けてパスタを口にした。ソースには鶏肉の他に刻んだトマトが含まれているので2つの食感を楽しめる。チーズの濃厚さがあるがトマトソースの酸味がスッキリさせて後味を残さない。ティアはモグモグと食べ進めた。ティアはパスタを口いっぱいに含んでいるので頬が膨らんでいる。まるで...
(リスですね。)
(可愛いです。)
アンとレイラは微笑みながら2人を見守った。そんなのも気にせずティアは食べ続けあっという間にパスタを完食した。
「あら、ソースが口元についてますよ。」
レイラはティアの口にトマトソースが付いていたのでナプキンで口元を拭った。
「ん。あり、がとう、ござい、ます。」
「はい。どういたしまして。」
ティアが横を見るとソフィーはまだ食べていたので、水を飲みながら待つことにした。それを見たソフィーは申し訳無さそうにした。
「食べるのが遅くてごめんなさい。」
「ん、気に、しない。ソフィー、食べる、きれい。」
「あ、ありがとうございます。」
褒められたソフィーは少し恥ずかしそうにに頬を赤くしながら食べ進めた。ソフィーが食べ終わるとしばし、声を掛けられるまで休息としてソフィー2人と談笑していた。
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