第22話ティアと健康診断
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<エドワードの書斎>
早朝、エドワードに呼ばれたギルバードはエドワードの書斎に向かった。彼が中にはいると、既にエドワード、アン、セドリック、レイが集まっていた。エドワードはギルバートに気づいて声をかける。
「おお、来たかギルバート。おはよう。ふんっ!ふんっ!」
「ああ、おはよう。」
ギルバートは部屋でトレーナー姿で腹筋をしていた。彼の朝はだいたいこんな感じなので誰も指摘しない。唯一、アンだけはエドワードに注意していた。
「まだ、朝食前ですので、程々にして下さい。それと、洗濯物は籠に入れておいてくださいね。」
「うむ、分かった。まぁギルも来たので始めるか。」
エドワードはタオルで汗を吹くと籠に入れてソファに座った。それを確認したギルバートは話し始めた。
「それで...ティアのことだったか?」
「ああ、あの子の魔法について聞きたい。アンによると昨晩、どうやら魔法を使ったようだな。これからここで生活してもらう以上、彼女のことは知っておきたい。」
ギルバートは暫し考え、セドリックと目線を合わせると、互いに頷き合ってから話し始めた。
「そうだな。知っておいてもらったほうがいいかもな。まず、昨日話した通り彼女は氷魔法の使い手だ。だが、完全に制御できているかと言われれば、否だ。」
「というと?」
「ティアの怒り、恐怖、不安...そういった感情に呼応するように魔法が勝手に発動するのさ。」
続けてセドリックが話し出す。
「行方不明の騎士だった二人が見つかった時、その場にいたティアを怪しんだギルバートが試しに脅してみたところ、彼女は恐怖に陥ってしまい彼女の魔法が暴走しました。もし、対処が遅れていれば最悪の場合、彼女も我々も氷漬けになったでしょう。」
「それ程の規模でしたか?」
レイはセドリックに問うた。セドリックは頷くと答えた。
「ええ、あれは強力な魔法でした。これは確信を持って言えますが、彼女の魔法の潜在能力は私を超えるでしょう。」
セドリックの発言に全員が沈黙した。セドリックはこの国有数の魔術師だ。そんな彼に言わせることがどれほどのことか全員分かっているのだ。
「貴方に言わせるとは...申し訳ないのですがこのまま彼女を放置するわけには...」
レイの言葉にエドワードは頷く。
「判っている。このままただ保護するわけにはいかないな。」
エドワードが両手を組んで考えていると、アンが小さく手を上げて疑問を口にした。
「あの...それ程の才能を持つ少女が何故是迄見つからなかったのでしょうか?彼女は孤児なんですよね?」
「アンの疑問は尤もだ。彼女を守る権力も大人も居なかったのに、何故これまで普通に過ごすことができたんだ?普通は見つかっているぞ。」
この世界で魔法を使える者は重宝される。ましてや途方もない才能の持ち主の場合、身分を問わずいい意味でも悪い意味でも目立ちやすい。それなのにこれまでティアが見つからなかったのは不思議なことだった。エドワードの疑問にギルバートは自身の予想を答えた。
「もしかすると、是迄は分からなかったからではないか?」
「何故、そう思った?」
「ティアから聞いたが、そもそも彼女が魔法を使えるようになったのは、1年ほど前だそうだ。」
その言葉に全員が驚いた。
「そんな馬鹿な!魔力があれば大なり小なり幼い頃から魔法が使えるはずなのでは?」
レイは驚いて立ち上がり、叫ぶように言った。
「それが事実だ。あの子は自分は魔法が使えないと思っていたくらいだ。だから、今のように感情で魔法が暴走すると聞いて一番混乱しているのはティア自身だ。」
「だが、レイの言う通り、ある日突然魔法が使えるようになるなんて考えられん。外部から何かされぬ限りは...まさか!」
エドワードは何か思いつき、同じ事を考えていたギルバートは頷くと考えを述べた。
「そのまさかだ。俺は何らかの方法で魔力が封じられていたと考えている。魔法か呪いか...」
「呪いならたちが悪いぞ。最悪、彼女が命を落とすことになりかねんな...ソフィーの傍にも置いておく訳にはいかんな。」
エドワードはしばし考えると立ち上がった。
「よし!彼女の健康状態を確認しよう。」
エドワードの発言にアンは同意した。
「それが宜しいかと。ソフィー様もティア様に好感を持たれたようで、本日もお話がしたいと仰っていましたよ。」
「そうか。なら、益々やってやらんとな。レイ!!」
「はっ!直ぐに手配します。」
レイはエドワードに礼を取るとすぐに動き始める。
「それと、魔法に関する検査を実施するようにと伝えてくれ。」
「承知しました。」
レイが部屋から出ると、ギルバートは深く座り直して呟いた。
「これであの子の謎が少し分かるといいな。」
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朝、ティアは陽の光を眩しいと感じて目を覚ました。周囲の様子がいつもと違って一瞬混乱しかけるも直ぐに思い出した。
「そうだ。私、此処で、寝た、んだ。」
ティアは静かに耳を立てて音を聞くが特に音はしない。誰も歩いていないようだ。ティアはもう眠気もないのでベットから降りて着替えることにした。
「着替え、は...」
昨晩、ティアはアンから着替えが入った袋を受け取っていたのだ。ティアが袋を開けると中には襟付きの水色のシャツと長めの紺色のスカートが入っていた。ティアは一通り見ると、着替え始めた。
「んしょ。」
着替えを終えると先程まで着ていたネグリジェを軽く畳んでベッドの上に置いた。丁度その時、扉がノックされた。
「おはようございます、ティア様。起床のお時間です。」
ティアは慌てて扉を開けるとそこにはアンと昨日案内してくれた侍女が立っていた。ティアはペコっと挨拶をする。
「おは、よう、ござい、ます。」
「はい。おはようございます。まさか、もう着替えているとは...」
アンと侍女はティアが着替えていることに驚いていた。まだ寝ていると思っていたからだ。気を取り直して、アンはこれからのことを話し始めた。
「突然ですが、本日、健康診断を受けていただきます。」
「けん、こう、しん、だん?」
「ええ。お医者様にティア様のお体に悪いところがないかを見ていただきます。それで、本日は朝食は無しで早速受けていただきます。」
アンは一歩引くと侍女の横に立つと、更に続けた。
「私は他に仕事がありますので、ここからは彼女に案内してもらいます。」
侍女が一礼するので、ティアもペコっと頭を下げた。
「ではレイラさん、あとはよろしくお願いします。」
「はい。承知しました。」
そう言うとアンは去って行った。アンが見えなくなると侍女レイラはティアの方を向いて話し始めた。
「それでは、早速参りましょうか。」
「は、い。」
ティアは侍女に連れられて検査場所に向かった。検査場所は城の一階の一室であった。部屋に入ると、ベッドやいろんな器具が並んであった。そして、真ん中に白衣を着た男性と女性が立っていた。
「この子がティアさんかい?」
「はい。よろしくお願い致します。」
レイラが一礼すると、医者の二人はティアの前に来て自己紹介を始めた。
「はじめまして。私はアレク。こちらは妻のセレンだ。」
「よろしくね。ティアちゃん。」
「よ、よろ、しく、お願い、し、ます。」
ティアは緊張しつつ挨拶をした。アレク達は互いに顔を合わせると軽く頷いて、再びティアの方を向いた。
「それじゃあ、早速始めましょう。まずはこれに着替えてから身長、体重を測りましょう。」
セレンは白い服を見せた。
「ん。」
ティアは頷くと突然脱ごうとする。周囲は彼女の行動に驚いた。
「えっ!ちょっと」
ティアの腕はレイラにガシッと掴まれて動けなくなった。ティアは思わず怪訝そうな表情でレイラを見上げた。レイラは少し笑顔を引くつかせながらティアに言い聞かせるように言う。
「ティア様、駄目ですよ。女の子なんですから。」
「?」
「こっちに来て。着替えましょう。」
レイラとセレンはティアをカーテンのある場所に連れて行った。ティアはそういうものかと思いつつ着替えた。ティアが着替えるとセレンはティアを部屋の右側に誘導した。そこには、四角のボックスに目盛りのついた長い棒が付いている。
「これは体重計と身長を同時に測ることができるの。さあ、そこに乗って棒に沿って立ってみて。」
ティアはセレンに言われるままボックスに乗り、棒に沿って立った。セレンは確認すると棒の上部にある測定バーを降ろすために、手を伸ばした。しかし...
「っ!!!」
ティアはセレンの腕を見て思わず殴られると思って、体重計から降りてしまった。
「ちょ、ちょっと、どうしたの?」
「...」
ティアはセレンが測定バーを握っているのを見て、見下ろすと彼女が自分を害しないと察してすぐに戻った。
「ご、ごめん、なさい。」
「大丈夫?ゆっくり下すわね。」
セレンがバーを降ろす。ティアは目をギュッと閉じて終わるのを待った。殴られないとはわかっているがやはり怖いのだ。セレンはティアの様子を見ながら何か感じていたが、身長を測る。
「身長130cm、体重30kgね。じゃあ、次は...」
こうして、ティアの健康状態の確認を行っていく。途中アレクのいる部屋の真ん中に誘導された。そこには机の上に六角形のプレートが置いてあった。プレートには文字が沢山刻まれている。
「お、来たな。では始めよう。ここにあるプレートは人の魔力や属性を教えてくれる物だ。これから君には少し血を貰った後、プレートに触れてもらうね。」
「血っ!」
血と聞いて少しティアがビクついた。血は良くないことを連想させるのだ。アレクは慌ててティアに言う。
「だ、大丈夫だ。この小さな針を指に刺して少し出してもらうだけだから。そして、プレートの中央の凹みに付けてくれればいい。」
「...分かっ、た。」
アレクに針を渡されたティアは少し警戒しつつ針を指に刺す。少しチクッとした後、ぷっくり血が出てきたのでそれを言われた通りに垂らした。すると、プレートに刻まれた文字が光りだした。
「おお、上手く行ったな。じゃあ、次に手をプレートの中央の凹みを中心に触ってくれ。」
「?」
ティアは不思議そうな顔をするが、言われた通りにプレートに触った。プレートは光っているので熱いかと思ったが、ひんやりしていた。しばし待つと...
「!!!何だと!?」
「っ!」
突然驚いたアレクに驚いてティアはビクッとした後、不安気にアレクを見つめた。
「だ、大丈夫だ。誤作動かもしれん。すまんがもう少し触れていてくれ。」
「ん。」
アレクがプレートに魔力を流すと、プレートは一度消灯して、再度光りだした。アレクはティアにお願いした。
「ティアさん、すまないが、プレート二魔力を流して欲しい。そうすれば間違いはなくなる。」
「ん。わかっ、た。」
ティアが魔力を流すとプレートは青く光る。魔力はプレートに吸い込まれる感じがした。
「…ティアさん。もう大丈夫だ。少し時間がかかるから、他の検査を受けてくれ。セレン頼む。」
「ええ分かったわ。ティアちゃん、こっちよ。」
こうして、ティアは色々な検査を受けた。途中、口に銀色の物を突っ込まれて喉を見られる。円の空いている方向を答えるなどがあり、検査を受けたことのないティアは戸惑うばかりであった。
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