第1部 少女は放浪する
第7話ティアと地図
道に沿って移動すれば街に着くと執事から教えられていたティアは屋敷を出てから言われた通りに移動していた。ただ夜の森は暗く何かが出そうな気がして不気味だ。ティアは恐怖を感じて早く森から出たくて走っていた。
「はっはっはっ、と、遠い...」
小柄なティアにとって街までの道のりは長くいつまで経っても街は見えてこない。ティアは徐々に体力を奪われていった。そして、段々と速度が落ちていき、とうとう立ち止まってしまった。息遣いも粗い。
「はぁはぁはぁ。どこに街があるの?」
ティアは呟いたが、答えてくれる人は誰もいない。ただ、風に揺られた枝の音や遠くから獣の鳴き声が響くだけだ。ティアは立ち止まってしまったが故に、夜の森に恐怖をより強く感じてしまった。
「うぅ、こ、怖い。...」
しかし、ティアを助けてくれる人もいないので、ティアは再び歩き始めた。そもそもティアが夜の移動を決めたのは騎士が昼間にいたからだ。夜なら暗闇に紛れて逃げられると考えていた。ティアはまだまだ子供で騎士は大人である。追いかけられれば捕まるのは明白で、力も体力も彼等のほうが圧倒的に有利だ。そんな彼等から逃げるためには、怖い思いをしてでも夜の森を移動したほうが逃走に成功する可能性は高いと、ティアは考えていた。だが、ティアの計算には自身の体力は含まれていなかった。ティアの体力は限界を迎えていた。走り疲れたこともあるが、この時間はいつも寝ているので眠気にも襲われて先程から欠伸ばかりしている。
「...ん、ふわぁ~。ね、眠い、でも、逃げなきゃ…」
ティアはそれでもトボトボと歩き続けたが、既に限界だった。ティアはやむを得ず道を逸れて草陰に入った。隠れるためだ。流石に道の真ん中で眠っていれば見つかった時に怪しまれるので、隠れて寝ることにした。ティアは道からは見えにくそうな所まで移動し、ちょこんと座り込んだ。
「んしょ...」
ティアはカバンから組立式の箱を取り出した。お婆さんの家から出たときも使った箱だ。これなら狭いものの簡単には襲われないとティアは考えた。ティアは箱を組み立てて中に入りふたを閉め、丸くなって眠りについた。余程疲れていたのか直ぐに意識は無くなった。
明くる日ティアは、箱の隙間から入った陽の光で目を覚ました。丸くなった姿勢で寝ていたため体が少し痛い。ティアは外に出るために箱を少し開けて外を覗いた。
「んしょっと。あれ?」
夜暗いときは気づかなかったが、箱をおいた場所は、道から少ししか離れておらず、下手をすればバレてしまう所にあった。ティアは急いで箱から出て片付け始めた。箱は組立式なので簡単に小さくできる。箱をカバンに仕舞うと朝食だ。ティアは道からは見えないところに回り込み、大木の影にちょこんと座ってカバンから朝食のサンドイッチを出した。どうやら執事が食事を用意してくれたようだ。ティアはサンドイッチが好きだ。パンにハムや野菜、卵等を入れることで組み合わせで色々楽しめるのが好きだった。もっとも、一番の好物はサンドイッチではなくお婆さんのおにぎりだが…。
「はむっ...美味しい。」
空腹だったティアはあっという間にサンドイッチを完食した。睡眠と朝食のおかげで、体力が戻ったティアは移動を再開することにした。ティアは立ち上がるとカバンを背負い、ある魔法を試した。
「えいっ!」
ティアは髪に魔力を纏わせ始めた。すると、髪が青から茶色に変わった。これは髪の色を変化させる魔法で、システィナから貰った魔法書に書いてあった魔法だ。ティアはシスティナの家に滞在していた際、システィナから1人で暇だろうと何冊か本を渡されていた。本は小説が一番多かったが、その中に何故かこの本が入っていたのだ。ティアはお婆さんから文字を教わっていたので、本が読めた。そこで、何気なく魔法書に目を通したところ髪の色を変える等、逃げる時に使えそうな魔法が散見されたのだ。それが分かって以降、ティアは小説そっちのけで魔法書を読んではこっそり練習していた。その場面を見たシスティナは心底不思議そうな顔をして、執事や侍女のジュリーはシスティナも見習ってほしいという表情をシスティナに向けていたのを思い出す。そして、それに気づいたシスティナは頬を膨らませてよく拗ねていた。
まぁ、それはいいとして、ティアは髪を一房掴み茶色に変化しているのを確認してから誰もいないこと間に草陰から出てきて歩き始めた。道は整備されており、馬車2台分が通れる幅である。道は当然だが町と町を繋いでいるので、街を行き来する商人たちは馬車でここを通って別の町へ向かう。ティアは馬車のことは知らなかったが、目立ちたくなかったティアは道の脇を通っていた。空が明るいので森からはもう恐怖を感じず、緑の木々を見て心がなんとなく和んだ。時折、吹く風が気持ち良い。ティアは木々の揺れる心地良い音を聞きながら歩いていた。
「気持ち、いい...ん?」
ティアはを向こうから何かが近付いてくるのを確認した、馬車だ。馬車はそのままティアの側を駆け抜けていったが、馬車の運転手がティアをちらりと見ていた。
「?」
ティアは運転手の視線に気づいたが、特に疑問も思わず歩き続けた。
やがて、太陽は南中の位置を迎えた、お昼時である。ティアは休憩を挟みつつ歩いていたが、突然背後から声をかけられた。
「お嬢ちゃん、こんなとこ歩いてどうしたんだい?」
「えっ...」
道中、馬車がティアの側を駆け抜けていくことは何回かあったが、声をかけられたのは初めてで、ティアはどう答えてよいか分からず戸惑った。
「どうした?」
「あの、その...」
そもそもティアは人に慣れてない。ティアは若干パニックになっていった。
「もしかして向こうの街に向かっているのかい?」
「う、うん。わ、私、旅してる。」
「旅?!まだ幼いだろう?親は?」
「親、居ない。住める所、探してる。」
「そ、そうか...」
運転手は顎を触りながらしばし考えた後、ティアに尋ねた。
「お嬢ちゃん、のってくかい?」
「いいの?」
「ああ、まだ街まで距離があるしな。乗っていけ。」
「あ、ありがとう、ございます」
ティアはペコっと頭を下げた後、運転手の隣に座った。"旅をしている"…嘘は言ってないが...ティアは若干罪悪感を抱いた。運転手とティアをのせた馬車は、移動を始めた。
「お嬢ちゃん、どこ出身だ?」
「?出身?」
「ああ出身、どこから来たのかと思ってな...」
「お、王城、のある町、の端...」
「お、王城!?それって王都か?そんなとこから来たのか!?」
「?そんなに、驚く、こと?」
「そりゃ〜ここは王都から遠く離れてるんだぜ?そこの侯爵様の城からも馬車で2、3日以上はかかるぞ?歩いたらなんて想像したくねぇ...」
ティアは、焦った。そんなに離れてるとは思わなかったからだ。これでは怪しまれる...ティアは必死で考え、こう言い訳をした。
「えっと、馬車にのせてもらって移動したから...」
「ああ、そう言うことか!だよなぁ~じゃないと無理だぜ。」
運転手は笑っていた。それを見たティアは胸をなでおろした。ティアは確かに馬車に(勝手に)乗せてもらっていたので、嘘は言っていない。ティアと運転手の馬車の旅は夕方まで続いた。
日が沈みかけた頃、ようやく次の街の門が見えてきた。
「そういえば、お嬢ちゃん、身分を示せるのってあるか?」
「?」
ティアは何それ?という表情をした。運転手のおじさんはため息をついた。
「ここはいいが、身分証がないと入れない街もあるぞ?ここの役場で発行するか?この国の人間は生まれたときから戸籍が登録されているはずだから...」
「それは、ない。」
ティアは真顔できっぱり否定した。
「どういうことだ?」
「私、孤児、身分、ない」
「...。王都にも居るのか...」
「ん、たくさん、いる。」
「光あるところには陰があるか...」
「お嬢ちゃんはそれが嫌でここまで来たのか?」
「...それは、ある、かもしれ、ない。」
「?」
運転手はティアの答えに少し怪訝そうな表情をした。ティアは運転手の言葉を聞いて自問をしていた。確かにティアは王族が嫌いで一緒に暮らしたくはない。しかし、だからと言って以前の孤児としての暮らしに戻りたいかといえば、否であった。明日の生活もわからないような暮らしはしたくない。ティアは…
「普通の、暮らし、したい」
「普通の?」
「住むとこ、ある、ご飯、食べられる、働く、できる、そんな生活。」
ティアはお婆さんとの生活が気に入っていた。寝るところがあり、ご飯が食べられる。働いて、勉強もできる...決して贅沢でなくても家族と笑い会える暮らしがしたい。そう、ティアは思った。
「お嬢ちゃん...」
運転手のおじさんは、ティアの頭を撫で始めた。理由が分からずティアがぽかんとしていると、おじさんは微笑んで話し始めた。
「お嬢ちゃんの考えは、俺等が当たり前に感じてしまって忘れていることだ。それを幸せだと、お嬢ちゃんは思い出させてくれた。ありがとう。」
「...どう、いたしまして?」
「お礼に今日は飯を奢ってやろう!」
「ほ、本当!?あ、ありがとう!」
ティアは嬉しそうにハニカミながらお礼を述べた。おじさんとティアは馬車を宿屋に預けると、街を散策し始めた。おじさんは雑貨屋に寄ってあるものを買ってきてティアに手渡した。
「お嬢ちゃん、これをやろう。」
「これは?」
「それはこの大陸の地図だ。旅をするなら必須だぜ。ここが俺たちのいるとこだ。」
おじさんは地図に指し示した。それは、大きな大陸に引かれた線の近くであった。
「この、線は?」
「そりゃ、国境だ。そこを跨ぐと隣の国に入るということだ。」
「実際に、線が、ある、の?」
「いや、線は見えないぞ。その代わり、関所や壁を築いてアピールしてるからわかるぞ。」
「関所、壁...」
ティアはあまり聞いたことのない単語に戸惑ったが、とりあえず何かしらの印だろうと思った。
「ちなみにここが、王都だ。」
おじさんは国の真ん中辺りを指し示した。そこには他とは違うマークが表示されていた。
「この、印、王都、だから?」
「ああ、そうだ国の首都を指し示すマークだ。そうか、地図を知らないもんな...よし!食べた後、教えてやる。」
おじさんとティアは近くの定食屋に入り夕食を摂った。夕食はパンにスープがあり、メインは骨付き肉だった。肉からは香ばしい匂いがして食欲をそそった。食べるとぴりりと辛味があり、食べ慣れない味であった。それに食べ方も骨を掴んで食べるという豪快なものだ。システィナの家ではありえない食べ方の面白さや味の旨さに目をキラキラさせながらあっという間に完食してしまった。おじさんは満足げにティアを見ていた。
「美味かったか?」
「おい、しかった。」
「小さいのによく食べるねぇ~」
食堂のおばさんは驚いていた。
おじさんとティアは食後、宿泊場所に戻った。おじさんは部屋の机に地図を広げてティアに地図の読み方を伝えた。
「これが、方角...こうやって距離をよむ...ここは役所...」
その後、数日ティアはおじさんの世話になることになった。朝は共に朝食を食べ、おじさんが仕事中は馬の餌やりや掃除をティアが請け負った。昼や夕方は店を手伝いや宿の手伝いをし、夕食後はおじさんから地図や旅で役に立つことを学んだ。そのおかげで、ティアはある程度地図を読み取れるようになった。おじさんはティアに知っておくべき常識等も伝えていた。
おじさんの仕事は物売りで、この地域にはない食料や特産物を販売しているようだ。おじさんは売る地域に無いものを売り、その地域の特産物を仕入れてそれがない地域で売るということを繰り返して商売をしているようだ。王都のスラムで過ごしていたティアにとって、おじさんの扱う商品は見たことのないものばかりで、おじさんの店を手伝うときは興味深々で商品を見ていた。
ティアは仕事の合間や寝る前に魔法書の勉強や魔法の練習を習慣としており、今日も寝る前に魔法書を読んでいた。ティアは氷魔法について学びたかった。ティアの適正魔法は氷だ。物を凍らせる事ができるが、全てを簡単に凍らせる事ができるかと言えばそうではない。例えば魚や野菜は簡単に凍るが、机やイスなど家具を凍らすのには時間がかかった。これは何か理由がありそうだが、魔法書にそのような記載はなかった。そもそも氷属性の使い手が少数のようで、わからない点が多々あるようだ。仕方ないので、やりながら学んでいくしかない。魔法書を読んでいたティアはふと疑問に思った。
「氷、他、出せる、かな?」
世の中には氷のほかに火や水、雷の魔法を扱える人物も多くいる。魔法書によると人によっては複数の属性を持つ人物もいるとの記述があった。それを読んだティアは試しに火や雷が出ないか確かめることにした。念の為、ティアは誰もいない宿屋の裏に出た。外は暗いので、宿屋近くでないと何も見えない。ティアは宿屋の灯りを頼りに魔法書を読みながら実践してみた。魔法書には各属性の魔法を使う際にどいうイメージをしているのかが述べられていた。
「ええと...火、地面から、湧き上がる、イメージ...?」
ティアは片手を地面に向けて本に書いてあるイメージを頭に思い描いた。その結果...
ピキッパキッと火では絶対にありえない音がして、地面から氷が生えてきた。ティアは驚いたが、気を取り直して次に雷を試した。
「えっと...雷は、手から、相手、に流す、イメージ...氷、に似てる?」
ティアは手をかざしてみたが何も起こらない。イメージが湧いてこないのだ。
「流す、流す...そうだ!」
ティアは地面に手を置き目の前の植物に流れるイメージをした。すると...
パキン!とこれまた電気ではない音がして、ティアの手から草にかけて氷が現れて最後は草が凍り付いた。確かに流れている...
「...次、水...ええと、湧き、出る、イメージ...火、に似てる?」
ティアは手で水をすくうイメージで魔力を流したところ、みるみるうちに氷が生えてきてあっという間に手を覆いつくした。あまりの冷たさで手に痛みが生じた。
「い、痛い!」
ティアは直ぐに、手を離そうとするが、氷が張り付いて外れない。これは不味い…
「う、うぅ...」
ティアはどうしようと悩んでいたが、直ぐに風呂の湯で溶かすことを思いつく。冷たいのを我慢して服の中に手を入れ、ティアは直ぐさま宿屋に入ると風呂に入りたいと申し出た。
「あら、ティアちゃん、こんな夜にどうしたの?」
「あ、あの、お、お風呂...」
「さっき入らなかった?」
「少し、歩いて、それで...」
「まぁ!こんな夜遅くは出歩いちゃ駄目よ。襲われたらどうするの?」
「うっ!ごめん、なさい」
ティアはペコっと頭を下げた。
「よろしい。今日は許してあげる。もうしちゃだめよ?」
「はい。」
「まだお湯は残ってるから入っていいわよ。」
「あ、ありがとう、ございます。」
ティアは早足で浴場に入った。あまりの冷たさでもう手は限界だ。段々感覚もなくなってきている。ティアは脱ぎもせず風呂に入ると浴槽に手を入れた。
「う!温かい...」
お湯のおかげでゆっくりと氷が溶けてきた。ティアはお湯を冷やさないために魔力を流さないように注意しながら手を湯船に浸し続けた。やがて、氷は溶け手も動かせるようになった。もう大丈夫そうだ。
「よ、良かった...痛っ!」
しかし、ティアの手は真っ赤に腫れ上がっていた、凍傷である。この後、おじさんに真っ赤な手を見られたティアは非常に心配をかけてしまった。おじさんから怒られた後、医者の治療を受けることになり、しばらくティアの手は痛みで上手く動かせず、おじさんや宿屋の人に迷惑をかけてしまい反省すると同時に氷の危険性が身にしみたティアであった。
<一方、王城では>
一室で、ジャスミンが護衛から報告を受けていた。
「それでは、河原で捕まえた者達は皆ティアを捕まえようとしてたのですか?」
「まだ断定はできませんが、身体的特徴からそうだと考えられます。ただ彼女が王族とまでは知らず、ただ依頼されてとのことです。」
「それで、ティアは?」
「未だに行方不明です。それに、その不可解な点もあります。」
「というと?」
「彼女を捕まえようとした男たちは凍り付いていたり、低体温症のような症状をいていたそうで…彼女一人でやったとはとても思えません。」
「彼女に協力者がいると?」
「可能性があります。それに、既に捕まっている可能性もあります。」
「まさか、他にもティアを手に入れようとしている人物がいるということ?」
「そう考えられます。男たちが受けた依頼以外にも、同様の依頼がだされているそうで、青い髪と瞳の持つ少女を捕らえれば相場の数倍の報奨金がもらえるそうです。彼女を喉から手が出る程手に入れたいという思惑が見て取れます。」
ジャスミンはその報告に驚いた。そもそも、ティアの存在はあまり知られてないはずだが...
「なんてこと...ティアを早く見つける必要がありますね...騎士の増員は可能ですか?」
「掛け合ってみます。ただ、ここ最近、討伐令等の指令が上から多く出てそこに人員を割いていると聞いているので、厳しいかもしれません。」
「ティアを探している時に限って...タイミングが悪いわね...」
ジャスミンは額を手で触れ目を閉じた。
(ティアを危ない目に合わせているのは私の責任ね。でも、私だけでは限界があるわ...)
ジャスミンが対策を考えていると、扉を叩く音がした。
「どなたです?」
「アイリーン様付きのメイド、カモミールです。」
「カモミールさん!お入り下さい。」
「失礼します。」
ジャスミンはカモミールに近づき、淑女の礼をした。
「カモミールさん、ごきげんよう。」
「ジャスミン様、いつも言ってますが私にそのようなことなさらなくても...」
「私がしたいのです。それで、何か御用ですか?」
ジャスミンが尋ねるとカモミールは無表情な顔で答えた。
「アイリーン様がお呼びです。」
「お祖母様が?」
「はい。」
「わかりました。行きましょう。」
ジャスミンは護衛を連れてアイリーンの所へ向かった。扉の前に着くとカモミールが扉を叩いて声をかけた。
「アイリーン様、ジャスミン様をお連れしました。」
「どうぞ、お入りになって。」
カモミールは扉を開けてジャスミンを中に通した。ジャスミンはアイリーンのもとに近づくと腰を下げて礼をした。
「お祖母様、ごきげんよう。御身体の調子は?」
「ありがとう、ジャスミン。最近は調子がいいわ。」
「良かったです。最近、色々ありましたから...それで何か御用ですか?」
「ええ、最近貴方が探している少女のことよ。だいぶ苦労してるわね。」
「申し訳ありません...直ぐ見つかると思ったのですが、それに...」
「他の人物も探しているようね。」
「!ご存知でしたか?」
「少しね。まだ正体はわからないけどね。それで、私としても見つけるなら貴方のほうが良いと考えているわ。だから、助人を呼ぶことにしたの。」
「助人ですか?」
「ええ、アルフレッド、いらっしゃい。」
「はっ!」
短い返事とともにアイリーンのベッドの後ろから出てきたのは、アルフレッド侯爵だった。アルフレッドはジャスミンに向けて、騎士としての挨拶をした。ジャスミンはアルフレッドの登場に驚いた。
「ジャスミン様、お久しぶりです。」
「アルフレッド侯爵!?お祖母様の後ろから出てくるなんて...」
「いいのよジャスミン。私が許可しました。」
アイリーンはおほほと笑った。それを見たカモミールはアイリーンを人睨みしてため息を付いた。
「アイリーン様、お戯れも程々になさってください。アルフレッド侯爵が罰せられてしまいますよ?」
「あら、ごめんなさい。」
「それで、お祖母様...アルフレッド侯爵が助人ですか?」
「ええ、と言っても直接ではなく間接的に協力してもらうわ。侯爵なら軍へ顔も効くから。」
「確かにアルフレッド侯爵がいれば心強いです。ところで間接的にとは?」
「少女を狙っている勢力に気づかれたくないからよ。もし、知られれば国内が不安定になりかねないわ。それに、アルフレッド侯爵には別で動いてもらいやすいしね。」
「そういうことですか。承知しました。」
「ジャスミン様、微力ながら御助力させていただきます。」
「微力なんて...侯爵が味方についてくれるなら百人力です。」
「ありがとうございます。」
アイリーンはその様子を見て微笑んだ。そしてアルフレッドに話しかけた。
「アルフレッド侯爵、早速だけどジャスミンに人員が割けないか掛け合ってもらえる?」
「承知しました。まずは最近多いという指令に目を通して層別してみます。」
「よろしくね、アルフレッド侯爵。」
「はっ!」
アルフレッドはアイリーンに向けて片膝をついて騎士としての礼をした。アイリーンはつぶやく。
「これで、早くあの子が見つかるといいのだけれど...」
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