第6話ティアの意思
ティアはその後何日かベットの上で過ごした。最後の方は熱も下がり動けるのだが、システィナが許さなかった。
「もう、動ける。」
「駄目!まだ安静にしてなさい!」
「寝ている、飽きた。もう、起きたい。」
「駄目ったら駄目!それより、朝御飯よ。食べさせてあげる。」
システィナはとにかくティアの面倒を見たがった。これにはジュリーも頭を少し頭を抱えた。
「お嬢様、何度も申し上げてますが、彼女は一人で食べられます。手伝いは不要です。」
「私がしたいの!」
デスヨネー。ジュリーとティアは内心思った。だが、ティアは恥ずかしいので断りたい。そこでとある提案をした。
「なら、一緒、食べる。」
それでシスティナの気が収まるのか?ジュリーは疑問に思ったが、システィナは目を輝かせて言った。
「いいわね。お友達との食事!憧れなの!ジュリー、準備してくれる?」
どうやら、許してくれたようだ?とにかく、ティアはシスティナと食べることになった。ティアはシスティナと共に食事場所に向かった。
食事は既に準備されていた。サラダ、オムレツ、温かそうな赤いスープ、パンが2つあり、黄色の透明な飲み物がコップに注がれていた。ティアはシスティナと同じ食事が用意されたので戸惑った。
「わ、私も、ですか?」
「はい。もう体調も良さそうですし、そろそろ普通のものを食べられるかと思って...」
「そ、うですか。(普通...普通って...)」
この豪華な食事が普通とは、改めてシスティナはお金持ちなんだなと思ったティアであった。
「さぁ、いただきましょう。」
「は、はい。」
システィナ達は食べ始めた。ある時、システィナはティアを見た。
ティアは手にパンを持ち齧りついていた。しかし、スプーン、フォークをきちんと使って食べていた。執事はティアに尋ねた。
「ティアさんは、スプーンやフォークをきちんと使うのですね?」
「は、はい。お婆さん、に、教わりました。」
孤児であるティアは最初犬食いだったが、お婆さんに教わっていた。犬食いする度に、行儀が悪い!と頭を軽く叩かれたので、直すようにしたのだ。
「そうですか。美味しいですか?」
「は、はい。」
王城の頃は味がしなかった食事もここでは味わう事ができ、ティアはあっという間に完食した。一方、システィナはサラダの人参を睨んでいた。
「食べ、ない、の?」
「人参嫌い。ティアはよく食べられるわね?」
「食べ物、いつ、食べられるか、わからない。」
ティアは食事ができる機会が限られている世界で生きていたので、好き嫌いなど言ってられないのだ。システィナはティアの言葉を聞いて決意した。
「...食べてみるわ。えいっ!」
システィナは目を閉じて人参を食べた。しっかり食べ切るところを見たティアはシスティナの頭を撫でた。
「よく、できました。」
「...」
ティアはしばらくシスティナの頭をナデナデしていた。普段している側のシスティナは嬉し恥ずかしくて顔を赤くしていた。従者達は彼女達のやり取りを微笑ましく見ていた。
食後は再びティアのベッドまで戻り話していたが...
「システィナ様、そろそろお勉強のお時間です。」
「え〜。まだ話したい。」
「駄目です。行きますよ。」
ジュリーはシスティナの手を取り移動し始めた。
「ちょ、ちょっと!もう〜」
「またね。」
ティアはシスティナに小さく手を降った。二人が行った後、ティアはベッドから降りて窓の外を見た。部屋は城の2階にあるので、窓から家や森がよく見える。ティアはこの眺めが好きだった。
「きれい...」
数日の治療のお陰で、ティアはすっかり体調が良くなった。システィナと知り合えた事もあり、非常に快適に暮らすことができた。しかし、これ以上ここにいるのは悪い。システィナには悪いが出ていく時が来るかもしれないとティアは思っていた。ふと、屋敷の門を見てティアは驚いた。
「っ!き、騎士」
屋敷の門に3人の騎士達が来ていた。しかも、あれは王城にいた騎士と同じ葉の形をした紋章を鎧に刻んでいた。彼らは王城から来たのだとティアは察し、すかさず窓際に身を隠しゆっくりと様子を確認した。
<門では>
騎士が3人やってきたので、門番が止めた。
「申し訳ありません。こちらはアルフレッド侯爵のお屋敷です。」
「ああ、分かっている。我々は王城からやってきたものだ。ここに証明がある。」
騎士はカードを見せた。
「少々、お待ち下さい。」
門番の一人は執事を読んだ。
「申し訳ありません。カードを拝見しました。王城の騎士様が何か御用でしょうか?侯爵は現在外出しております。」
「ああ、わかっている。だが、我々は別件で来た。この街に青い髪と瞳の少女が来てないか確認しに来た。」
「青い髪と瞳ですか?」
執事は惚けた顔をしたが、一瞬ティアの事が頭をよぎった。彼女の特徴と一致するからだ。
「ああ。彼女はさるお方が探している。」
「はぁ、承知しました。屋敷や街で見かけたら知らせるように指示を出します。」
「よろしく頼む。我々は数日この街の宿に宿泊するので何かあれば、連絡を頼む。何か困ったことがあったら別件でも構わない。それでは」
騎士達は去っていった。執事は直ぐに護衛と共にティアに会いに行った。ティアはベッドで丸まっていた。
「ティアさん。今日騎士が訪ねてきました。彼らが捜しているのは貴方ですか?」
ティアはベッドからひょこっと顔を出した。
「多分、そう、です。もう、ここには、いられない。」
「貴方はシスティナ様のお友達ですので、我々で保護しますよ?」
「いえ、迷惑、かけられない。」
「迷惑ではないわ!」
バンッ!と扉を開けてシスティナが入ってきた。
「システィナ様...」
「ごめんなさい。聞こえてきたの。ティア、ここにいてもいいのよ?貴方は私達が守るわ。」
「...」
「彼女は少し考える時間が必要です。一度一人にしてあげましょう。」
「分かったわ。」
システィナ達は部屋を出て、ティアは一人になった。
その晩、システィナが就寝する時間の後ティアは一人で屋敷の執事の部屋に来た。
「ティアさん、如何されましたか?」
「私、出る。これ以上、迷惑、かけたく、ない。」
「ティアさん、貴方はまだ子供です。我々を頼ってもよいのですよ?」
「それ、でも、システィナ、迷惑、ヤダ。」
「...」
ティアの瞳の強さから意思を感じ取った執事はティアの意思の強さに驚いた。執事はティアを通して一人の女性を見た。彼女はかつてこの屋敷にいた女性に似ていたのだ。
(一瞬、彼女に見えるなんて...なんの繋がりもないはずなのに...)
執事は彼女に弱かった。そして、執事はとうとう折れた。
「分かりました。では、これをお返しします。」
執事はティアの鞄を返した。
「中身は見させてもらいましたが、盗っていません。それと、私からはこれを」
執事はカードを見せた。
「これは緊急用の魔術の刻まれたカードです。いざという時にだけ使いなさい。」
「ありがとう、ございます。お世話、なりました。」
ティアはお辞儀をすると去っていった。
「どうかお気をつけて...」
執事はシスティナに怒られるだろうなと思いつつティアを見送った。
ティアは屋敷を出る前に、自分の部屋に来た。首飾りを探すためだ。しかし、見つからない。
「ない...」
「探しているのはこれ?」
「!」
ティアが驚き振り返るとシスティナがティアの探し物、首飾りを持っていた。
「どうして...寝たんじゃ。」
「前にも言ったけど、私、何となく貴方のことわかるの。」
「...」
ティアは気まずそうに目線を下げた。この様子を見た。システィナはため息をついた。
「どうしても行くのね。」
「うん。」
「分かったわ。許してあげる。貴方、頑固だもん。」
「あ、ありがとう。」
「これ、返すわ。それとこれもあげるわ。」
システィナはティアの首に首飾りを着けると、ティアの手に一冊の本を渡した。これは、ティアが暇な時に読んでいた魔法の専門書だ。システィナも使っているが、ティアが暇だろうと渡していた本の中に紛れてきたのだ。ティアはお婆さんに文字を教わっていたので本が読めたのだ。
「この本、読んでいたでしょう?うちに一冊あったからあげるわ。」
「ありがとう。」
「出口まで案内してあげる。こっちよ。」
システィナはティアの手をとり走り出した。システィナはティアといる時間が楽しくて仕方なかった。しかし、彼女は行ってしまう。システィナはティアとの移動が最後になると考えるともう少し長くいたいと考えていたシスティナだったが、とうとう目的地についてしまった。
システィナはティアを屋敷の裏口に連れて行った。
「ここなら誰も気づかず行けるわ。」
「ありがとう。」
「...」
「...」
システィナとティアは互いに無言で見つめ合った。なんと言っていいか分からないのだ。少しの間の後、システィナは口を開いた。
「ねぇ、ティア約束して...」
システィナはティアに近づいた。お互いに手を取りおでこを合わせた。
「ティア、必ず帰ってきて。だからサヨナラは言わないわ。またね。」
「うん。また...」
ティアは貰った本をカバンに仕舞うと、システィナに背を向けて走り出した。
「ティア...」
システィナはティアが去っていくのを見ていたが、途中で寂しくて涙ぐみ視界がぼやけてしまった。
「彼女は行きましたか?」
「!?」
システィナは涙をぬぐうと背後を見た。執事がやって来たのだ。
「ご安心を。怒りません。彼女のカバンを返したのは私ですから。」
「え?」
「怒られるなら私も一緒です。」
「ティア、行っちゃった…また、会えるかな?」
「ええ、きっと...」
システィナと執事はティアが走った方角をしばらく見つめていた。
<一方、王城では、>
アルフレッドは王城を歩きながら、ここ数日の出来事について考えていた。会議はいつも通り、定期報告、国の収支について、他国の状況などなど最近の国の状況の説明を受けつつ今後の方針を決めていた。だが、不自然な点がある。まず、この会議の為に王城に行く際に娘の参加を指示してきたのだ。王子の婚約候補探しならわかるが、そこまで急ぐ必要はないはずだ。お陰で、婚約候補になる為にあの手この手を使ってくる輩が出てきて問題になった。遂には、媚薬や怪しい道具や薬を提供するなど黒い手段を用いようとするのも出てきて、一斉検挙となり落ち着いたのが今日だった。
(元々怪しかった連中を纏めて捕まえられたのは大きいが...何がしたいんだ?)
この国は、貴族の子供は生まれた時点で戸籍登録がされており、把握しているはずだ。システィナも登録されている。しかし、今回子供の髪の色など身体的特徴が追加された。
(誘拐された時のためのヒントになると言っていたが、ここまでする必要ないのでは?それに...)
今回の決定はどうも一部の大臣が動いたことらしい。その為、反対する大臣もいて試験導入ということになった。そして怪しいのは兵の動きだ。
(我々が王城に行った時と同時に兵士が各地に遠征に行っている。偶然とは思えん。)
アルフレッドは軍の上層部に顔が利くので貴族達から相談されることがあるが、今回はその上層部が相談してきた。どうやら貴族招集と同時に怒涛の遠征任務が上から出されて兵士を取られて人手不足だそうだ。このままでは防衛に影響があるので、何とか上と掛け合ってくれないかというものだった。
(任務も魔物や盗賊やらの対処で冒険者を雇った方が早いものばかり...しかも貴族招集と同時とは不自然極まりない。何か裏が有りそうだ。)
アルフレッドはこの問題について調査することにした。調査により屋敷への帰宅は遅くなるがシスティナには早く会いたいが、彼はシスティナの父である前にこの国の侯爵という立場だ。この立場の責任は果たさないといけない。なるべく早く帰られるよう速やかに調査を遂行することを誓った。
さて、今アルフレッドが王城で歩いているのは調査とは別件である。アルフレッドはある件で王族に呼ばれていたので、その方の部屋に向かっているのだ。王城の奥へどんどん進んでいき、やがてある部屋の前に来た。扉は豪華だがあまり華美でなく周りの雰囲気を損ねないような装飾が施されており、暮らしている人物の位の高さと性格を現していた。アルフレッドは扉を3回ノックした。
「侯爵位アルフレッド、只今参上しました。」
「お待ちしておりました。お入りください。」
扉の奥から女性の声がしたと同時に扉が開いた。そこには、声の主であるメイドと共に女性がいた。ベッドの上で上半身を起こしている状態で、年齢を感じさせないいや、年齢を経たからこその気品さと美しさを持っている。この人こそティアの父である前王の妻、アイリーンである。
「アルフレッド侯爵、お久しぶりですね。」
「はい。お加減はいかがですか?」
「やはり最近はベッドの上で生活が増えました。年ですね。」
「いえいえ、お年を感じさせない程美しいですよ。」
「ふふ、ありがとう。」
「アイリーン様」
「あら、ごめんなさい。ついつい...それでは本題ね。アルフレッド、私の夫に隠し子がいたって知ったらどうします?」
「っ馬鹿な!?そんなことは...ですが、不敬でも斬ります。」
「構いません。」
「!?」
「冗談です。だから、睨まないで」
「たちの悪い冗談ですよ。」
メイドに睨まれたアイリーンは少し焦ったが、また調子を戻し続けた。
「半年程前見つかったの。孫のジャスミンが見つけたんだけど、直ぐ脱走して今は行方不明よ。」
「そうですか。それで私には?」
「その子の捜索に協力してほしいの。今、その子の存在がこの国に悪影響を与えているわ。あの子を手に入れようと国内で不穏な動きが出ているの。」
「軍の件ですか。」
「知ってるのね...その件は、恐らく何かする際に軍に邪魔されないようにするための妨害工作よ。」
「軍から相談を受けています。何とかできないかと。このままでは他国ての対処ができないと。」
「本当に困ったことね。あの子に罪はないのに。でも、こうなっては仕方ないわ。あの子を邪な考えのある輩や他国に渡す訳にはいかないわ。最悪の場合...」
「斬りますか?」
「ええ、国の為よ。でもなるべくそうならないようにして。」
「承知しました。」
アルフレッドは手を胸に当て騎士としての敬礼をした。
「それとアルフレッド、システィナは元気ですか?」
「ええ、元気です。活発な子で、私の影響か剣を学んでいます。」
「あらまぁ。元気そうね。あの子には申し訳ないことをしているから...これからもよろしくね。」
「承知しました。それで、システィナが何か?」
「行方不明の子の捜索に協力してほしいんだけど、それよりも貴方にはシスティナの事に注意して欲しいの。もしあの子のことが知られたら国の混乱は止まらないわ。何としても隠し通して。」
「承知しました。」
「彼女の境遇を知ればあの子は悲しむかもしれません。本当に申し訳ないことをしているわ…」
「いえ、あまりご自分を責めないでください。あいつの責任ですから…」
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