第2話樽の中の姫
朝、樽で一夜を過ごしたティアはひょこっと顔を出して外の様子を見た。連れ戻されるかもしれないので、できれば兵士に会いたくない。しかし、朝に移動しようとしたが、よっぽど疲れたのであろう寝過ごしてしまった。再び樽の中に入ると、自分が空腹なのに気付いた。
「お腹、すいた」
ティアは朝から何も食べていない。さて、どうしようか?と考えていたが...
「そんなとこで何してるんだい?」
蓋を開けられ、あっさりバレた。開けたのはこの樽の持ち主のお婆さんだが、ティアはパニックになって震えている。
「あ、えと、あの...」
パニックになったティアをお婆さんは何を言わずに、家に連れて行ってくれた。そして空腹だと分かり、パンとスープを用意してくれた。
「食べなさい。」
「え、でも...」
「いいから」
「はい...」
ティアはパンにかぶりついた。パンは、柔らかく噛めば噛むほど甘みが出る。ティアが食べてきたのは捨てられた固いパンだけだったので、こんなパンは初めてだ。ティアは泣き出してしまった。
「泣くほどかい?」
「こんな、パン食べ、たこと、ない。いつも、拾ったものは、固い、不味い、でも、生き、た、いから...」
「何があったか知らないけど、暫くここにいなさい。」
ペコッとティアは頭を下げてパンとスープを平らげた。お婆さんは、食堂をやっているようだ。店の営業中、ティアは2階で過ごすよう言われたが、やがて料理の手伝いをするようになった。また、ティアが外に出たがらない事と、異常に男を警戒しているのを察して主に、裏方の手伝いをさせてくれた。時折、兵士が来ることもあったが、
「ここに蒼い髪と瞳を持つ子供はいないか?」
「私の子供は皆成人だよ。それに髪は黒い。」
お婆さんは、ティアの事を兵士には言わなかった。ティアが事情を話したからだ。それを聞いたとき
「まぁ、なんて勝手なの?傲慢だね、流石、王族か...」
という訳で、匿ってくれた。ティアはお婆さんから、料理や魔法を教わった。魔法は、この世界で広く使われている。便利なので、人々は火を起こす、洗濯物を乾かすことに使っている。人によって適性があるが、ティアは...物を凍らせる事だった。
「見たことないね。まさか、凍らせるとは...でもこれで暑い時、ものが腐らないわ。」
お婆さんは笑っていた。ティアはお婆さんの役に立ちたくて必死に練習した。魚を凍らせることができた時はお婆さんに、一杯褒められた。こうして、お婆さんとの生活は半年程経ったある時、突如終わりを告げた。
「まずいね、ティアの事がバレたかもしれない。」
実は、国から子供の一斉調査が命じられたのだ。また、最近兵士がこの辺りをよく歩いていることから、包囲網がかけられたようだとお婆さんは察した。
「お婆さん、わ、たし...」
「お前さんが心配する事じゃない。」
しかし、責任を感じたティアは...家を抜けることにした。首飾りを付け、また黒いフードを被り玄関に行った。食料やお金は申し訳なくて持って行けず、最近覚えた文字で手紙を書いて、机に置いてきた。
「よし!出よう。」
「どこに行くんだい?」
すぐバレた。お婆さんは引き留めようとするが、ティアの表情を見て、何も言わずに荷物を渡してくれた。
「何日分かの食料とお金、これだけあればいいかな?」
「いいの?」
「お前が行きたいなら、止めないよ。お前さんは頑固な所があるからね。でも覚えておいて、ここはお前の家だ。いつでも戻っておいで。」
お婆さんは、ティアを優しく抱きしめた。ティアは抱きしめられた事が嬉しくて泣いた。暫く抱き合った後、出発した。
「行ってらっしゃい。」
「行って、きます!」
夜も遅く、人もまばらだ。だが、油断すると見つかるかもしれない。そこで、ティアは...
荷物になる事にした。この街では運搬業者が目的地まで運ぶ途中で泊まっていることが多い。ティアの店によく業者が夕食を食べに訪れていたので知っていた。ティアのいた家からすぐ先の所に運搬業者の荷台があった。業者はここで一泊しているようだ。ティアは移動する為、靴を濡らして、靴底に氷形成した。手には水の入ったコップを持ち乾いたら、濡すようにした。こうすることで、スケートのように素早く移動するのだ。そして、夜遅く寒い時期は夜露で道は濡れている。ティアはそれを利用して、道を凍らせながら滑って移動した。滑るので歩く音はしない。これを見たお婆さんは驚きつつ感心していた。
「成程凍らせることでそういう使い方があるのね、考えたね。」
目的の場所に入ると予め用意していた。箱を組み立てて中に入った。他の荷物が潰れないように自身の箱を下にした。ティアは、お婆さんに手を振り、お婆さんも手を振り返した。ティアは箱の中に入って丸くなると息を潜めた。
お婆さんも、ティアが入ったのを確認すると家に入った。
(元気でね、ティア…)
暫くすると、朝になったのか、荷台が動き始めた。ティアはそれを確認して眠りについた。
<ティアが出発した次の日、王城では>
姫、ジャスミンが騎士に進捗を聞いていた。
「ティアは見つかりましたか?」
「申し訳ありません。未だ、見つかっておりません。しかし、姫と類似する特徴を持つ子供を連れている人物がおりましたので、近辺を集中的にパトロールしております。また、子供の調査をするような王令も出ておりますので、もうじき見つかると思います。」
「話だと城下町の家だと聞きます。誘拐ではないと思いますが、ティアの安全を優先にして下さい。」
ジャスミンは紅茶に口をつけた。すると、一人の騎士が急ぎ足で来た。
「申し上げます!ティア姫と思われる子供が、街を脱したことを確認しました!」
「何!?どういうことだ?」
「今朝、ティア姫と思われる方がおられると思われる家を尋ねた所、とっくに家を出たと...」
「何!?ジャスミン様いかがなさいますか?」
「変な騒ぎを起こすと貴族や犯罪組織に知られて逆にティアを危険にしますので、その方を拘束するといった余計な騒ぎは起こさないで。それと、ティアの護衛兼捜索隊を結成して捜索を開始してください。」
「はっ!すぐに対応します。」
騎士は去っていった。ジャスミンは護衛の一人レックスに声をかけた。
「レックス、ティアと住んでいた方と秘密裏に会えますか?」
「御意、すぐに手配してみます。」
「お願いします。くれぐれもその方に危害を与えないで下さい。」
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