"脱走姫"と呼ばれた少女-いきなり王族と言われても困ります!!もう、放っておいて!!-

シリル

プロローグ

第1話姫、即日脱走する

 ここは街外れ、道端に落ちているゴミをせっせと漁っている子供がいた。汚れでくすんだ青く長い髪蒼い瞳をして着ている服はボロボロ、首には真ん中に白い石が付いた首飾りをしている。足は素足で、破片を踏んでいたからか傷だらけだ。


 「今日も、なし...」


 最もゴミに捨てられているものは基本腐っていたりするので、中々食料は手に入らないが、たまに掘り出し物があるので、毎日確認していた。ただ早くしないとゴミ回収業者がやってくるので早く退散しないといけない。かつて、ばったり会ってしまい蹴り飛ばされた過去がある。そのため、朝早く行かなくてはならない。


 「次、行く。」


 彼女は頭にボロ布を被り移動しようとした。その時、


 「やっと見つけました。」


 自分と同じ蒼い髪と瞳を持つ女性に声をかけられた。フードをつけているものの目立った汚れはなく、一目で上級階級の人だと分かった。後ろには護衛だろうか?二人おり、同じくフードを被っていた。


 「あ、あの何ですか?」


 「突然、ごめんなさい。私はジャスミンと言います。私達は今それに似た首飾りを探しています。この周辺でその飾りをした子供がいると聞いて探していました。」


 「こ、これで、すか?ぬ、盗んだ、では無いですよ。」


 彼女は突然震えだした。孤児である彼女は、泥棒と決めつけられ暴力を振るわれたことがある。それがトラウマで人間に恐怖心を抱いている。



 「大丈夫。そんな事思っていません。安心して下さい。」


 しかし、震えは止まっていない。


 「おい!ジャスミン様の手を煩わせるな!」


 「ヒッ!」


 男の大きな声に、乱暴にさられた時の記憶が蘇り恐怖で震えが更に止まらなくなった。


 「アレン!止めなさい。怖がっているでしょう!」 


 「はっ!申し訳ありません。」


 「はぁーはぁー、ヒッヒュウ、はぁはぁはぁはぁ」


 「いけない!過呼吸になってる。」


 「まずい!ジャスミン様、落ち着かせましょう。」


 オロオロしている従者をよそに、ジャスミンは、孤児を抱きしめ背中を撫で落ち着かせた。やがて、過呼吸が止まったところで馬車まで移動し、彼女に訳を話した。


 「今、私達は、子供を探しています。」


 「子供...」


 「実は、私の祖父に隠し子がいることが最近わかりました。誰も知らなくて、もう大騒ぎです。」


 「た、大変、です...。」


 「ええ、普段温厚なお祖母様がお祖父様にグーパンチをされてから始まり、一族の女性から罵声とビンタの応酬で。もう一族大騒ぎ...挙句の果てに、子供を産んだ女性は亡くなっており子供は行方掴めずと分かるともう大変。何でちゃんと面倒見なかったんだと、もう一回大乱闘が巻き起こりました。お祖父様のお顔は赤い紅葉だらけでとても国民に見せられません。」


 「はぁ、そう、ですか...」


 「そして、その行方不明の子供はおそらくあなたです。その首飾りと身体の特徴が証拠です。」


 彼女、ティアは首飾りをギュッと握った。ティアは孤児だ。父親の顔は分からず、母親は幼い頃に彼女を遺して亡くなってしまった。生前に渡された首飾りが唯一の形見となった。そのため、母親を忘れない様にいつも肌見放さず持っていた。


 「その首飾りは我が家に伝わる首飾りで、生まれた時に与えられます。そして、その蒼い瞳と髪が我が一族であることを語っています。」


 「蒼い瞳、髪」


 ティアはこの特徴的な髪と目が嫌いだった。他の孤児にいないため、異物扱いを受けていたからだ。


 「申し訳ありませんが、一度我が家に来てもらえませんか?その首飾りの正式な所有者か確認させてもらいたいからです。」


 「違ったら?」


 「え?」


 「もし、違ったら私、追い出しますか?なら行かない。このままでいい。やっとここ慣れた。次、変わる私、死ぬ」


 ジャスミンはハッとした。彼女は孤児だ。明日の食べ物すらないのだ。別の場所に捨てられれば、命を落とすかもしれない。ジャスミンはこの国の暗部を感じた。


 「ごめんなさい。そこまで考えてなかったわ。分かりました。もし違ってたら、私が責任を持ちます。」


 「ジャスミン様!それは...」


 「黙りなさい!この子の立場を考えなさい!」


 「ありがとう、ございます。」


 「では、行きましょう。あなたの名前は?」 


 「...ティア」


 ティア達を乗せた馬車は目的地に向けて出発した。ティアは眠っても良いと言われたものの、到着まで眠らずに座っていた。


 「もうすぐ着きます。ティア、眠ってもいいのよ?」


 「眠くない。」


 やがて馬車は止まった。目的地に着いたようだ。誰かが馬車の扉を叩いた。


 「ジャスミン様、到着です。」


 「ええ、わかったわ。さぁティア、着きましたよ。」


 「はい。」


 ジャスミンはティアを連れて建物の中に入った。この建物は非常に大きく街のあらゆる所で見ることができる。孤児のティアでさえ、ここは身分の高い人が住む場所だと分かっている。何故か、それはここがこの国の王の城だからだ。


 「ティア、どうしました?」


 「ここ、大きい。怖い。」


 「初めてですものね。大丈夫。私といればあなたに害は及びません。」


 ジャスミンとティアは手を繋いで、赤い絨毯が引かれた廊下を通り、大きな広間に来た。そこには、紫色のゆったりしたドレスを着た気品のある女性がいた。


 「あら?ジャスミンちゃん、おかえりなさい。あら?その子は?」


 「お母様、ただ今戻りました。この子はティア。私達の新しい家族になる子です。」


 「まあ!可愛らしい子ね。この子が例の...あのロリコンクソ野郎の。」


 「お母様...」


 「あら私ったら、恥ずかしい。でも今でも腹立たしいったらありゃしない!いい年こいて若い子を襲って子供ができても放置なんて!もう、ムカついてきた。もう一発叩いてくるわ。」


 「お辞め下さい。お祖父様のお顔はもう原型がないのですよ?」


 「一番叩いているのは、お母様よ!」


 「今でも、お祖母様がしているイメージが湧きません。」


 ジャスミンの祖母は体が弱く、1日ベッドか椅子に座っている事が多い程である。そんな祖母が祖父を殴っているとはジャスミンは想像がつかなかった。


 「貴方も見れば納得するわ...」


 「それは置いといて、お母様、まずこの子に着替えを与えても?」


 「ええ、でもまずは一族か確認した方がいいんじゃない?違ってたら、追い出すのでしょう?」


 ティアはビクッとした。ジャスミンは特別だ。身分の高い人にとって、孤児など物に等しい。ようがなければ捨てるだけだ。


 「いいえお母様。この子がもし違っても私が引き取ります。」


 「え?」


 「この子との約束です。」


 「貴方が良いならいいわ。でもちゃんとお父様に許可をもらいなさい。」


 「ありがとうございます。さぁティア。行きましょう。」


 ジャスミンは、ティアを連れて広場の奥へ進んだ。すると大きな扉があった。


 「ここに貴方が一族の者なのか判断する場所です。すでに開けてもらっています。では、入りましょう。」


 扉を開けるとそこは、円形になっており、部屋の真ん中に穴の空いた台がある。そして台の隣に男が立っていた。厳格そうな見た目の人だ。


 「おかえり、ジャスミン。その子か?」


 「ただいま戻りました、お父様。この子が一族の可能性のある子供です。」


 「そうか、では早速確認を始めよう。」 


 「その前にお父様。お願いがあります。もし違ってもこの子は私が引き取ります。その許可を頂きたいです。」


 「それは、本物が見つかるまで、偽物だった子供を全て引き取るということか?」 


 「それは、その都度私が判断します。この子は私が引き取っても良いと判断した子です。」


 「分かった。お前が決めたならよい。早速、儀式に取り掛かろう。」


 「ありがとうございます。さぁティア真ん中の台へ」


 ティアはジャスミンにやり方を教えてもらいながら儀式を行った。首飾りを台の穴にはめ、針で指先を突き、丸く出てきた血を台の中央の突起物に垂らした。すると、首飾りの石が白く光りだした。


 「こ、これはすごい!!」


 ジャスミンの父は興奮していた。ジャスミンも普段冷静な父しか見ないため、驚いている。ティアは光と突然の大声に驚いて呆然としてしまった。


 「お父様、ティアが驚いています。結果は?」


 「ああ、すまない。この子は確かに王族だ。間違いない。これから親を調べる必要があるが、恐らく、ロリ王だろう。」


 「ありがとうございます。ティア、君は私達が探し求めた子供で間違いないわ。」


 「は、はぁ...それで、私、これからどうなる、ですか?」


 「君は王族だと分かったので、こちらで保護する。いいね?まずは、その汚い格好を何とかしないと。」


 「そうですね。誰かこの子に湯浴みと着替えをしてやってくれ。」


 ジャスミンの声により、メイドが現れるとティアを浴場に連れていき丁寧に洗い、綺麗な服を着せた。その間、ティアはされるがままであった。その夜、夕食をジャスミンの家族と取り、個室で就寝した。明日、他の王族と面会らしい。


 「それではティア。また明日。」


 ジャスミンが去ると、部屋は暗くなり、ティアはフカフカなベッドで眠った。しかし、ティアは何時までも眠くならなかった。当然だ、ティアは状況を理解できていなかったからだ。ある日突然連れてこられ貴方は王族ですと言われても、訳が分からず困惑しっぱなしであった。こちらの意思は無視である。これまで見たことない豪華な食事も味は覚えてないし、ジャスミンの家族の顔も覚えてない。ジャスミンはある程度自分を尊重してくれるが、他の方は根底に"王族の言うことが正だ"という傲慢な前提条件がある上で話していると感じた。ティアは王族なんてクソくらえ!という感情に突き動かされた。


 「…脱走しよう」


 寝るために外した首飾りを着けると、着替えを探した。今の服装は就寝用だからか、生地は薄くヒラヒラが付いているので目立つ。部屋のクローゼットを漁ると動きやすそうなシャツと短パンそして、黒い布があった。ティアは早速着替えると、フードを被り部屋を出た。外にはランプを持って歩いている人がいた。見回りのようだ。


 (流石、王族...見回り)


 ただ暗いのに変わりはなく、ティアは小柄なこともありバレずに脱走できた。王城を出るとティアは城下町に行ったが、夜も遅く酔払いに絡まれるのも嫌なので、建物のそばにある樽に入り一夜過ごした。


 次の日


 王城はパニックになっていた。見つかった王族の子供が行方不明になったからだ。


 「ジャスミン様!!ティア様がいません!!」


 ジャスミンはこの衝撃の報告を聞いて、飲んでいた紅茶を吐きかけた。丁度飲んでいた時にされたのだタイミングが悪い。


 「ゴホッゴホッ、て、ティアが?」


 「はい、朝入りましたらもう...」


 「誘拐か?」


 「現在調査中です。昨晩の服が、置いてあり、クローゼットが開けられていますので、誘拐か脱走かの二択と考えられます。」


 「すぐに、探してくれ!どちらにせよ、そう遠くに行ってないはずだ!」


 「はっ」


 騎士達は捜索隊を編成し、城下町や外の森に向かった。


 「なんで、その子供は脱走したんだ?王族だぞ?絶対いい暮らしできるのに…」


 「さぁな?何か感じたんだろ?とりあえず早く見つけるぞ。」


 「そうだな。外は寒いし、早く帰って温かいスープでも飲みたいわぁ~」


 騎士たちは、そう呟きながら城下町を捜索した。ただ彼らは気づいていない。彼らが通り過ぎた店の樽にその子供がいるとは…


 これは孤児出身の王族の血を引くティアの物語。

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