第3話・見知らぬ少年

 森の拠点で見知らぬ少年が眠っていた。


 僕より少し年上だろうか。袖からのぞく腕は細い。長めの前髪が風でさらりと揺れ、白い頬に濃い影を落としている。こんな子、近所にはいない。見たことがない。そもそも、この森はうちの敷地だ。もし近所の人だとしても勝手に入ることは許されない。


 もしかして、じいちゃんかばあちゃんが招き入れたのだろうか。いや、さっき「友だちを呼べばいいのに」と言われたばかりだ。もし年の近い子がいるのなら事前に教えてくれただろう。


 じゃあ、少年はどこの誰なのか。


 私有地ではあるが、柵や仕切りがあるわけではない。何も知らずに迷い込み、疲れて眠ってしまっただけかもしれない。


 少年は斜めに生えた木の根元に座り、幹に背を凭れさせている。眩しい木漏れ日は屋根代わりのビニールシートが防いでいる。それに、新たに作った落ち葉のクッション(古い毛布で落ち葉を包んだだけ)も使われている。


 抱えていた角材とベニヤ板を下ろした。仕方ないので、少年に構わず拠点の整備を始める。

 屋根の骨組みの枝が細過ぎてビニールシートの重みに負け、端が歪んできてしまっている。一旦ビニールシートを取り除き、骨組みを地面に下ろした。近場から追加で蔓を調達し、弱い部分に角材を当てて補強していく。


「うーん」

「あっ」


 木々の隙間から太陽の光が差し込み、寝ている少年の顔を直撃した。彼は眩しさに眉間に皺を寄せ、もぞもぞと動き出している。

 しまった。日よけのビニールシートを外したからだ。そう気付いた時には既に少年の目はパッチリと開かれていた。じっとこちらを見つめ、何度も目を瞬かせている。


「……、……誰?」

「君こそ」


 少年が首を傾げて尋ねてきた。

 それは僕のセリフだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る