第2話・侵入者
「今日は川に行こう。デカい亀がいるんだよ」
帰り道。並んで歩きながら、友だちが遊びに誘ってきた。
来年には部活が始まり、平日に友だちと遊ぶなんて出来なくなる。まだ日は高い。一旦家に帰ってランドセルを置いてからでも十分遊ぶ時間がある。
でも、僕は断った。先日作ったばかりの森の拠点を改良しなくてはならない。
「ごめん、用事があるからまた今度」
「えーっ! つまんねーの」
そう言って、友だちは見るからに不機嫌になった。今まで誘いを断られたことがないからだ。僕が断らないというより、毎回有無を言わさず連れて行かれていると表現するのが正しい。活発で強引でガキ大将気質のこの友だちは遊びに対して貪欲で、実際一緒にいると楽しい。しかし、最近少しだけ周りを見下すようになった。
侮られたくなくて渋々付き合っていたが、僕には居場所が出来た。やりたくもないことをしたり、馬鹿にされたり、笑いたくもない時に笑わなくても良いのだ。
家に帰ってランドセルを放り投げ、すぐに車庫の片隅に積まれた廃材を漁る。ここには父親が日曜大工で使った木材の切れ端がまとめて置いてある。ただのガラクタにしか思えなかったが、森の拠点を作ってからというもの全てが宝の山に見えて仕方がない。
適当な角材とベニヤ板を小脇に抱えて家の裏の山に向かう。山と言っても、なだらかな斜面と畑、小さな森しかない。畑では、今日も祖父母が野菜の世話をしていた。
「また森で遊ぶんか。友だちも呼んだらどうだ」
「いいの。一人のが好きだもん」
アイツを呼んだらどうなるだろう。ふざけて僕が作った拠点を壊しそうだ。そこまでしないとしても、きっと出来栄えを馬鹿にする。そして、好き勝手に手を加えていくのだろう。想像しただけで腹の底からぐわっと黒い感情が渦巻いた。
鈍臭くて馬鹿にされがちな僕が唯一自由になれる場所だ。誰にも邪魔されたくないし、足を踏み入れてほしくない。
ざくざくと落ち葉を掻き分け、目当ての場所へと足を進める。
「……誰?」
黒いビニールシートの屋根の下で、知らない少年が木に凭れて眠っていた。
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