第41話 神の世界への道
「神の世界の情報、じゃと……?」
俺の問いかけに、ロリババア神は怪訝な顔をした。
「ああ。具体的にはそっちへの行き方と、地理とかその辺の情報だな」
「それを知ってどうするつもりじゃ? 人であるお主にはどうにもできんぞ」
「どうにも出来ないなら教えたって問題ないだろ?」
俺の言葉に、ロリババアはしばし黙考する。
「それを教えたら、日本から手を引いてくれるかの?」
「そうだな……ま、もう日本のダンジョン崩壊の被害を抑える方法は思いついてるし、ダンジョンを存続させたいだけなら好きにしてもいいぞ。俺以外の奴が同行する分には知らないが」
あの方法を使えば、恐らく日本国内での被害は殆どなくなる。
それに、関東から北にかけてのダンジョンは大体俺が消しちゃったしな。
まあ下手に嘘の情報とか掴まされても面倒だ。それくらいの譲歩はしてもいいだろう。この腹黒いババアなら平気で嘘つくだろうし。
「……分かった。ただ、いつでも出入りできるようなものではない、というのだけ先に言うておく」
ロリババアはため息を吐きながら、諦め混じりに神の世界の情報を話し始めた。
「人と神の世界は、古の願いに寄り決して交わらぬようるーるによって隔てられておる。じゃが、るーるとて完全ではない。数百年に一度、月と太陽が交わる時。神と人の世界との境目が曖昧になるのじゃ」
「皆既日食か……でもそれって」
「ちょうど、10年くらい前に起こっていたの。というか、ダンジョンが作られた理由に皆既日食の日に人の世界に干渉しやすかったというのがあると思うし」
確かまだダンジョンが生まれる前。
小学校低学年の頃に、学校で遮光グラスが配られみんなで見た記憶がある。
大人たちは何百年に一度だから! と騒いでいたが、俺はどうでもいいとしか思わなかったっけ。
「てかそれじゃ、どうにもならないってことか?」
「……一応、方法があるにはある。力の強い神は、僅かな力を人の世界へとねじ込むことが出来る。……お主も、心当たりがあるのではないか? 人の世界のようで、人の世界ではない場所のことに」
「……あの黒い灰の降る世界か」
あそこは通常のダンジョンとは異なり、冥王が魔帝さんを辱め、フレアを封じる為に作り出した世界だ。確かに、神の世界に近い場所なのかもしれない。
「そうじゃ。とはいえ、冥王ってのはちと特殊での。人の世界と神の世界を区切る場である魔王城に縛られておる故、あそこから神の世界に干渉することは出来ん。出来るとすれば――」
「どこかで冥王と同じように、ダンジョンの中に自分好みの世界を作ってる神を探し出せってことか」
ただ、問題はどうやって探すかだ。
黒い灰の降る世界とて、大穴という裏口を使わなければかなり巧妙に隠されていた。
暗視の魔眼を使えば隠し部屋の類は見つけられるのだろうが……それにしたって気の遠くなるような話だ。
「てか、あんたはどうなんだ? あんただって、この世界に干渉してる神の1人だろ」
「妾なんぞにそこまでの力はないよ。随分と前の日食の時にこちらの世界に意識を飛ばし、以降日食の度に少しずつ力を送り込んでいる程度じゃ」
なるほど。見た目通りのババアというか、本当に年の功と知略だけでこの国の裏側を牛耳っているらしい。
「ってことは、振り出しかぁ」
どこにあるかも分からない神の作った世界を探す為に時間を使える余裕は、今の俺たちにはない。
神の世界への攻撃なんて、元々突発的に思いついたアイデアだしな。
切り替えて正攻法でどうにかするしかないだろう。
「……そういえばお主、エリクサーを持っておったの。それと引き換えになら、ひんとをやらんでもないぞ?」
「意外だな。裏組織ならエリクサーの貯蔵くらいあるんじゃないのか?」
「いくら妾たちとて、エリクサーなんぞそうそう手に入らんよ。お主から貰えなければ、この娘にしばらく不便な生活をさせることになるんでな」
「……ま、1本くらいならいいけどさ」
元々必要な情報を引き出したら渡すつもりだったしな。
ロリババアは俺が渡したエリクサーを飲み、両目を復活させる。
「ふぅ……目が見えないというのは存外気持ちの悪い体験じゃったの」
「んで? ヒントってのはなんなんだ?」
「そうじゃったの。……先にも言うた通り、神というのは自身のテリトリーを広げることを目的にダンジョンを作っておる。つまり、日本に根を張る妾たちのように、世界各地には神がテリトリーを広げるための裏組織があるはずじゃ。その中には当然、力の強い神もおるじゃろう」
「なるほど……つまりあんたらみたいなのを探せばいずれそういう神にも辿り着けるってわけか」
それなら、首脳たちを動かして人海戦術で各国の裏組織を探ればいい。
俺がそれを検証して回る時間だけがネックだが、それも解決方法は既に見つけてあるからな。
これで、概ね聞きたいことは聞けたか。
後はこちらで検証すればいいだろう。
ああ、そうだ。
「……最後に聞くが、神の世界ってのはどんな場所なんだ?」
「そうじゃの……良くも悪くも、人の世界とはかけ離れた場所じゃよ。大地は燃え、空は凍り、そして何より争いに満ちておる。人の戦争が生温く思える程にな」
なるほど。あんまり楽しい場所じゃないのは確かみたいだ。
まあ詳しい地形とかは神の世界を見つけてからこいつにレポートでも提出させればいいだろう。
それよりも今は、
「待たせてごめん。……それじゃ、帰ろうか」
怖い思いをさせてしまった皆月さんを、地上に帰してあげなければ。
——そうしたら、俺は自分の向き合うべき罪と向き合おう。
俺は皆月さんを抱き上げて、ゆっくりと地上へ歩き出した。
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