第39話 秘密組織と縄張り争い
樋代さんの案内で森の奥へと進む。
ダンジョンの隣の不気味な神社の裏、樹齢1000年くらいありそうな巨大な杉の木。
そんなト◯ロが出そうなくらい立派な木の幹の中を素通りして、樋代さんの姿が消える。
俺も恐る恐る彼女に続くと……そこには銀行の金庫みたいな厳重な鉄扉が控えていた。
それを樋代さんが網膜ロックやらなんやら色々やって解除し、厚さ3メートルはありそうな重たい鉄扉が開き、俺たちはそのまま地下へと下って行く。
「……マジか」
まさか、田舎の山奥にこんな秘密施設があるとは。
俺の復讐のサポートをしてくれていた時も明らかにそこらの裏稼業じゃないスマートさは感じていたが、これはガチで都市伝説級のやつだ。
きっと、ここから数々の指令を受けて他国の麻薬組織を潰したりとか、警察や公安が出来ない手を使って日本を守ってたのだろう。
つまり、俺は今日本の裏側を目にしている……!
気を引き締めなくてはと思いつつも、ついついスパイ映画とか大好きなのでテンションが上がってしまっていた。
まあでも、神だろうが何だろうが、今の俺をどうこう出来るとは思えないしなぁ。せっかくの機会だし、少しくらい楽しんでも許されるだろう。
扉の奥は流石にエヴァのような巨大地下都市……とはいかず、メタルギアとかに出て来そうな無機質な研究機関っぽい施設だった。
唯一特徴的なのは、すれ違う人がみんな和服を着ていること。
秘密の研究機関に和服は……なんというかアンバランスさが凄い。
「よくもまあ、こんなのが今まで見つからずにこれたもんだな……」
「ここら一帯は近くの製薬会社の研究所なので。物資の調達などは、そちらを経由しているので足もつきません」
秘密組織のフロント企業ということか。
杉の木以外にも隠しトンネルとかあったりするんだろうか……正直見て見たいな。
その後もついつい物珍しさから周囲をキョロキョロしてしまう俺。
「因みにこの組織っていつからあるんだ?」
「都が京に移った頃……と聞いておりますので、800年程前でしょうか」
興味本位で聞いてみると、思ったよりすごい答えが返って来た。
800年前というと、平安時代か。
……つまり、ダンジョンが出来る遥か昔からあのロリババ神はこの国に干渉していたということになる。
それだけ用意周到という事だろう。こりゃ、思った以上に面倒な交渉になるかもしれないな。
そのまま俺は色々質問をしつつ、エレベーターを乗り継ぎ施設を更に下って行く。
この辺りの構造はテレビ局に似ている。万一の場合に簡単に占拠されないように入り組んだ造りになっているのだろう。
そうして辿り着いた施設最奥の部屋。
薄暗い室内は篝火だけで照らされていて、入り口から入る光が一番眩しい。
篝火の先には、岩を削り出したかのような荒々しい祭壇がどっしりと構えていた。
「さて、私はここまでです。……後の事は、神と直接お話ください」
玉座っぽく祀られた祭壇に登ると、樋代さんはガクッと意識を失った。
——そして、
「全く……やってくれたのぅ、古瀬伴治」
次の瞬間、樋代さんの姿が消え、代わりに豪華な着物を着崩したロリっ子——神が、俺の目の前に現れた。
「せっかく妾たちが根回ししてクリアさせないよう仕向けたダンジョンを根こそぎ消して回りおって。あれかなり苦労したんじゃがの」
「クリアされるのが嫌なら警備でも立てておけよ。まあ俺は素通りするけど」
神は不機嫌そうな顔で俺を睨みつけている。
だが、どれだけ睨まれようが関係ない。
俺はただ侵略者の邪魔をしただけだ。法律がどうだろうが、正義はこちらにある。
「それで? 俺をここに呼んだ理由はなんだ? こんなお喋りをする為に秘密施設まで見せた訳じゃないんだろ?」
「妾たちの要求は一つ。──今すぐ日本から手を引け。人類を救うのは、もはや止めやせん。じゃが妾の管轄する日本で好き勝手暴れるのは看過できん」
「そう言われて、はいそうですかって引き下がるとでも? これまで日本を守って来た大層な組織なのか知らんが、これまでのダンジョン崩壊で既に1000万人以上の死者が出てる。あんたらの功績を帳消しにするには十分な被害だろうが」
俺はロリババ神の要求を一蹴する。
「……お主は、何も分かっておらん。大切なのは人を守る事ではない。国を守ることなのじゃよ」
ロリババ神はどこか遠い目をして語り出す。
「……遥か昔、神々との争いに嫌気が刺し、暇潰しに訪れたこの国で色々とよくしてくれた娘がいての。そやつに約束したのじゃ。この国を永劫に渡り繫栄させると。だから、今日まで陰ながら手を貸して来た」
いや語りとかいいからこっちの要求も早く言いたいんだけど……と思っていたのだが、何だか内容がとんでもなくてつい聞き入ってしまった。
サラっと言ってるが、平安以前で国の未来を考える程の大物かつ女性となると、天皇家の人とかだろう。知られざる歴史の裏側、というやつだ。
「仮に人の世界が滅んだとしても、日本という国を後世に残す。それこそが妾たち組織の目的なのじゃ。……そしてその為には、十分な数のダンジョン崩壊を引き起こす必要がある」
「どういう、ことだ?」
俺は怪訝な顔で聞き返す。
――人類が負け、世界が神に支配された後の話。
それは、神に負けてすぐにこちらの世界に渡って来たフレアも、魔帝さんの記憶を覗いた俺も知らないことだった。
「ダンジョン崩壊が起こることで、世界の浸食度を高めると同時にそれを起こした神に後の世界における支配権が与えられる。お主に分かりやすく言うと、貢献度ぼーなす、というやつじゃな」
ゲームとかでダメージを与えた分だけ報酬が増えるアレか。
それが、ダンジョン崩壊を起こした分だけその神に与えられ、人類が負けた後の世界で領土とかが貰えるのだろう。
その領土に日本を残そうと、そういうわけか。
「故に神は、ダンジョン作りに全力で取り組む。如何に多く人を集め、且つ深くまでは潜らせないか。あるいは人が多い場所でいかに見つからないように偽装するか。……ダンジョンとは、人から微量に力を吸い上げ発芽するものであるからのぅ」
人の多い場所にのみダンジョンが生まれ、過疎ってるダンジョン程崩壊の危険があるというのはこれまでの政府による統計でも分かっていた。
……だがそれよりも、
「つまりなんだ? ダンジョンってのは神が直接弄ってたのか? ラノベでよくあるダンジョンマスターみたいに?」
俺はてっきり、卵とかいうから種みたいなのを植え付けたらランダム生成されるものなのだと思っていたが、まさかダンジョンが手動設定されていたとは。
まあ魔帝さんはダンジョン制作とか一切したことなさそうだし、俺が知らないのも無理はないのだが。
「……ま、そういうわけじゃ。お主も日本人であるのなら、この国の為に協力してくれんか?」
全てを話し終えると、神はギロリと鋭い視線で俺を射貫いた。
強さという意味では大した力は感じられないのに、年齢故か、あるいは神であるが故か、凄まじい迫力を感じる。
「神に負けた時、ただの入れ物としての日本を残す為に、今いる人々を見殺しにしろと? ……んなもん考えるまでもない。答えはノーだ」
ついでに言うなら人間が負ける前提なのが気に食わない。
俺は神の侵略も、冥王も全部ぶっ潰してこの世界を救う。
――それが、俺を救ってくれたフレアの望みだから。
「ま、そうじゃろうのぅ。こんな安い情に訴えかけて、お主が手を引いてくれるとは妾とて思っておらなんだ。——じゃから、こういう手を使わせてもらうことにした」
ロリババ神がぱちんと指を鳴らすと、一気に部屋に明かりが灯る。
部屋の奥には、不気味な牢屋が立ち並んでいた。
ローテクな祭壇かと思いきやしっかり電気の通った牢屋だったとは……
いや、そんなことはどうでもいいのだ。
──それよりも問題は、牢屋の中に俺の知っている顔が囚われていたこと。
「……皆月さんが、なんで」
若手ナンバーワン女優にして、俺が復讐に利用した相手、皆月帆夏がそこにいた。
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