第24話 S級冒険者
『やってくれたのう伴治』
なんとかタクシーを捕まえて部屋に戻って来ると、神様から電話がかかってきた。
どうやら樋代さんたちは無事だったらしい。
「ああ、何とか復讐は果たせたよ。出来れば有原は地獄に送っておいてくれ」
『いやそうじゃなく』
てっきり復讐を遂げたことを祝ってくれるのかと思ったら違うらしい。
『なんじゃあ。お主、すまほを見とらんのか?』
言われてスマホを取り出すと、なんだかとんでもない量のメッセージが来ていた。
重なり過ぎて『30件の通知があります』と表示されている為内容は分からない。
タクシーの中爆睡してたからなぁ……
「伴治君、いますか!?」
メッセージを見ようとしたところで部屋のドアが勢いよく開き、ダンジョン省のエリート変態こと美咲さんが入って来た。
『……じゃ、じゃあの。詳しくはそやつに聞くとよい』
それを聞くと、神様はそそくさと電話を切ってしまう。
「……一体どうしたんですか? マスターキーまで使って」
「これは、あなたですね?」
差し出されたスマホには、新宿だった場所で四騎士もどきを頭突きで貫く俺の姿が映っていた。
「……ヒトチガイデス」
そんな言い訳が当然通用するわけもなく。
俺は再びダンジョン省へと連行されたのだった。
***
「初めまして、古瀬伴治君。私はダンジョン担当大臣の室井です」
ダンジョン省の一室。
豪華な椅子に座ってそう声を掛けて来たのは、テレビで見たことがある40代くらいのやたらとムキムキな男。
室井和義。敏腕政治家として名高いこの国でもトップクラスに偉い人だ。
市長時代に改革を重ね税収を100倍にし、本人もA級冒険者という生ける伝説のような男である。
「は、初めまして……」
「そう緊張しないでくれ。……緊張しなくてはならないのは、むしろ我々の方なのだからね」
室井大臣は俺にそう険しい顔を向けてくる。
部屋には何人ものダンジョン管理官が待機しているが、雰囲気が鋭すぎる。
恐らく彼らは対人戦闘特化の軍人だ。それも多分、かなり高レベルの。
「単刀直入に聞こう。新宿を破壊した化物、あれを倒したのは君だね? ……あー、下手な誤魔化しなら無駄だよ。もう分かり切っている事だからね」
俺がどう答えるべきか迷っていると、それを見抜いた室井大臣にあっさりとそう言われた。
まあ、美咲さんから見せられた画像はめちゃくちゃ鮮明だったしなぁ。
最新鋭のドローンらしいが、恐るべき技術だ。
……これはもう、誤魔化し切れないか。
「えっと……因みになんですけど、仮に力を隠していたことについてその、お咎めとかは……」
「本当の力を隠している冒険者は少なからずいる。それで君をどうこうしたりはしない。約束しよう」
「あー、じゃ、はい。俺がやりました」
俺は観念して素直に認めた。
これ以上の誤魔化しは印象を悪くするだけだし、何より一番の目的であった復讐は既に遂げ、証拠も完璧に消してある。
力を隠していたのは復讐がやり辛くなるのが嫌だったからだし、今ならバレても問題はないだろう。多分。
「そうか。……まずは、被害を食い止めてくれた事に礼を言わせてもらいたい。君のおかげで数十万人規模の命が救われた。本当にありがとう」
室井大臣が椅子から立ち上がり、深々と頭を下げる。
ただの謝辞なのに、なんかビリビリ威圧感が伝わって来る。
流石国の重鎮。頭を下げる動作があまりにも堂に入っている。
「と、本来なら総理から表彰とかされてもおかしくはないんだが……悪いが事は急を要するのでね。その辺は割愛させて貰おう」
室井大臣は椅子に腰かけ、纏う雰囲気を一層鋭くする。
どうやらここからが本題らしい。
「つい先ほど、あの化け物が現れた原因が分かった。原因は、ダンジョンだったようだ」
「ん? どういうことですか?」
「どうやら新宿の地下深く、貯水池の更に下の空洞にダンジョンがあったらしい。最も、見つかったのは痕跡だけで既に崩壊していたが」
それを聞いて、俺の頭に一つの事象が浮かんでいた。
——ダンジョンクリア。
確か神様は、ダンジョンを放っておくと地上にモンスターが溢れると言っていた。
つまりこの事件は、地下深くで放置されていたダンジョンが地上に魔物を解き放ったことによるものなのだろう。
だが、それだとおかしな点がいくつかある。
「あり得るんですか? ダンジョン省が、ダンジョンの誕生を見逃すなんて――」
ダンジョン省は特殊な計器を使って周囲の異変を探知し、国内の全てのダンジョンを管理している。
ダンジョンの誕生が見逃されたことは未だかつてない。
「我々の持つ機器はそこまで万能ではない。大雑把にダンジョンの反応が分かるだけのものだ。新宿には既にかなり強いダンジョンがあるから、反応を感知出来なかったのだよ」
旧歌舞伎町ダンジョン。確かに深層の更にしたまで広がるあの場所なら、放つ力も強いだろう。
「……そう、ですか」
ダンジョン省が見逃していたことはまあ、仕方ないだろう。
だが、それにしてもおかしい。
神様は地上にモンスターが溢れると言っていた。だが、実際に現れたのは四騎士もどき1体だけで、ダンジョンは既に崩壊していたという。
そう考えると、さっきの電話も神様が掛けて来たってのは怪しい。まるで、ダンジョン省に先回りして俺を言いくるめたかったかのようだ。
「とはいえ、新宿は崩壊し、死者は1万人以上、応戦したA級冒険者が5人死んだ。事態の責任が我々の失態であると知れれば、最悪ダンジョン省そのものが解体される。……そうなれば、この国は他国に大きく劣るだろう」
ダンジョン誕生から10年以上が経ち、今の人々はダンジョンの恩恵が危険の上に成り立っていることを忘れている。
だが、政治は民意の反映だ。
どれだけ国益を説こうとも、感情論ばかりが先行しダンジョン省が解体される可能性は高い。
「状況は過去最悪。……そこで、だ。古瀬伴治君、S級冒険者になる気はないかい?」
「……はい?」
あまりにも唐突な提案に、俺は間抜けな声を漏らした。
冒険者の階級はF~Sに別れ、スキルを会得した時点で自動的にFからスタートし、年3回ある昇級試験で認められると上の級に上がり、C級以上はプロ冒険者を名乗ることが出来る。
基本的には強さの指標であり、企業が採用する際などに参照される、いわば英検のようなものなのだが、高ランクになると扱えるダンジョンアイテムの制限が緩和されたり、特定のダンジョンへの入場が認められたりと、様々な特典を受けることが出来る。
何より無条件に人気者になれるのは大きい。S級冒険者の博物館は連日大盛況だからな。
だが、今の俺のランクは最底辺のF。
飛び級というのもあるにはあるが、それはプロであるC級を超える以前の話。
F級からS級に上がった例は未だかつてない。
普段であれば嬉しい申し出だが、このタイミングでは安易に喜べる話ではなかった。
「……それはつまり、今回の事件を収拾する為に国防の旗頭になれと?」
要は、アイアンマンに国家に所属しろと言ったようなもんだ。
S級になる恩恵を考えても、圧倒的にリスクの方が高い。
「端的に言えば、そうだ。もちろん、相応の報酬は払おう。君自身の希望や生活の安全など、最大限の配慮はすることを約束する」
言われて、俺はしばし考える。
俺の力はもう世界中にばれてしまった。どのみちこれまで通りの日常を送る事は出来ないだろう。
それなら、ダンジョン省に面倒を見て貰える方が多少はマシなんじゃないだろうか。
それに、日本のダンジョン担当大臣。その人にしか頼めない依頼が俺にはある。
「いいでしょう。但し、条件があります。ダンジョン省管轄の研究員と予算、その全権を俺にください。期限は……そうですね、旧歌舞伎町ダンジョンの大穴、あいつを攻略するまでで」
俺の依頼を、室井大臣は引きつった顔で了承する。
こうして、俺は日本で11人目のS級冒険者となったのだった。
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