第12話 チート装備とMP喰らい

「よ、ようやく着いた……」


 クソ長い螺旋階段を延々と登り続けると、殺風景な部屋へと出た。


 四方を見慣れたダンジョンの土壁に囲まれた狭い部屋。

 唯一普通のダンジョンと違うのは、壁から洩れる謎の光が青ではなく赤いことだろう。


 せっかく登って来たのに出口のない部屋に閉じ込められたのか……? とげんなりしたが、よく見ると壁の一部分に影のようなものが見え、そこに触れるとガコン、と音を立てて人が通れるくらいの穴が開いた。


「これも《暗視の魔眼》の効果か。結構便利だな」


 スキルが説明文にない効果を持つというのはよくある事だ。

 そうでなければ俺の最弱の旧スキル《風奏術》も人を動かせるような突風を起こしたりは出来ないわけだし。


 穴の先はまたも四方を壁に囲まれた部屋だった。

 ただ、螺旋階段の代わりに部屋の中央には豪華な宝箱が置いてある。


 一応警戒して〈暗視の魔眼〉で生体反応を見てから開ける。


「え、なにこれ。魔王?」


 中には装備が入っていた。

 黒と紅の縁取られた豪華なマントに、二本の角の生えた金の王冠。

 人前で着るには恥ずかしい見た目だ。


「でも、こんな深いところの宝箱報酬って事は絶対凄いマジックアイテムだよな……?」


 見た目の怪しさで少し迷ったが、俺は好奇心に負けて装備してみることにした。

 装備の効果をステータスを開いて確認する。すると、


――――――――――――――――――――


・《魔帝のマント》MP+200、守り+30、知性+50

……魔帝シリーズの一つ。冥王のなり損ない(笑)らしく効果はそこそこ。


・《魔帝の王冠》MP+200、守り+10、知性+10、運+50

……魔帝シリーズの一つ。冥王のなり損ない(笑)らしく効果はそこそこ。


・セット効果〈魔帝セット〉2/5 ……スキルの効果を2倍にする


―――――――――――――――——————


 案の定とんでもない能力の装備だった。

 一般的に強装備といわれているものでも、1つの能力を+30する程度。

 説明文では散々な言われようだが、世界中探してもここまでの性能をした装備はないかもしれない。


「これで見た目がよくて効果が近接特化だったら……惜しいなぁ」


 今の俺は黒風を身体に纏って突進する事しか出来ない近接マシーンだ。 

 どうせなら力や敏捷性が上がってくれれば戦闘の幅が広がったのになぁ、と嘆かずにはいられない。

 セット効果のスキル効果2倍も、俺の場合は1㎝が2㎝になるだけだし。


 とはいえ守りの上昇だけでもありがたいので一応装備しておく。


 そんな厨二病丸出しの魔王スタイルで再び壁の異変を調べて先へ進む。

 するとそこには――


「うげ……モンスターハウスかよ」


 恐る恐る穴を通ると、そこには再び四方を壁に囲まれた部屋が広がっていて、見た事もない半蛇半人のモンスターがうじゃうじゃとひしめいていた。


 ダンジョン罠の代表、モンスターハウスである。

 宝箱の部屋への道もいつの間にか塞がっていて、出口はない。

 しかも半蛇半人のモンスターは、一体一体がかなりの威圧感を放っている。

 

 が、俺はこれを瞬殺。


『プロト・メデューサを討伐しました。レベルが──』


 謎の声アナウンスが繰り返し流れる。


 狭い室内というのを利用して、高ステータスに任せてピンボールのように壁を蹴って反転を繰り返していたら、いつの間にか殲滅していた。

 改めて黒風さんがどれだけいかれた性能をしているのかがよく分かる。


「ドロップは……なんだこれ、また宝石か?」

 

 ドロップアイテムは小さな黄色の宝石だった。

 装備以外は〈鑑定〉がないと効果が分からないので、とりあえず全部ポケットに放り込む。


 そうしてまた壁の異変を探って先に進むと、再び宝箱の部屋に出た。


 中に入っていたのは豪華な意匠の施された一振りの長剣だった。


―――――――――――――――――


・《深秘の宝剣》力+100、守り+20、知性+50、運+20

武器スキル《鳳凰の雄叫び》使用可。(武器使用時)

……ダンジョンの最奥にて稀に生まれる。その一振りはあらゆる攻撃を絶技へと昇華する。


・鳳凰の雄叫び……使用後10分間、使用者の攻撃にHP、MPの吸収効果を付与する。クールタイムは8時間。


――――――――――――—————


 ステータスを見ると、これまたとんでもない性能だった。

 力の上昇率もさることながら、武器の固有スキルもとんでもない。

 

「え……ちょ、待ってなにこれやばくねMPどうなってんの⁉」


 だが、剣の性能よりも、俺は一緒に見たMPのステータスの方に目が行ってしまっていた。

 因みに、これが装備込みの今の俺の全ステータスである。



―――――――――――――――

【名前】古瀬伴治


Lv:87(82→87)

HP : 1405

MP : 20/995(595) 装備+400


力   :252(152)(+5) 装備+100

守り  :192(122)(+5) 装備+70

敏捷  :162    (+5)

器用さ :103    (+5)

知性  :208(98) (+5) 装備+110

運   :190(120)(+5)  装備+70


※括弧内が装備補正無しのステータス、(+5)はレベルアップによる上昇値


・ボーナスポイント: 34



【スキル】

・神滅の黒風奏(仮)Lv1

・暗視の魔眼

・鳳凰の雄叫び


【装備】

・《魔帝のマント》MP+200、守り+30、知性+50


・《魔帝の王冠》MP+200、守り+10、知性+10、運+50


・《深秘の宝剣》力+100、守り+20、知性+50、運+20、武器スキル《鳳凰の雄叫び》


【セット効果】

・《魔帝セット》2/5 ……スキルの効果を2倍にする

――――――――――――

 

 なんというか、もはやステータスだけでも人間を辞め始めてきている気がする。


「いやまあそれもやばいが……もしかしなくても、黒風さんってめっちゃ燃費悪い?」


 魔帝シリーズで倍近くになったMPな殆ど0になりかけている。


 試しに1秒だけ黒風を使ってみると、MPが残り15になった。

 1秒あたりの消費MPは5。

 つまり、MP満タンでも今の俺は3分ちょいしか継続戦闘が出来ないことになる。


「さっきメデューサと戦ってる最中にMPが切れてたらと思うと……ゾッとするな」


 俺は想像して、思わず身震いする。

 まあ確かに触れたもの全部抹消とかいうチートスキルがノーリスクで使える方がおかしい気はするが。


 改めて思うと、魔帝シリーズがMP上昇装備でよかった。

 近接装備がよかったとか言ってごめんなさい……


 俺はとりあえずエリクサー飲んでMPを回復し先へ進む。

 こうなるとエリクサーも大事に使っていくべきなんだろうが、今はとにかく進みたかった。


 壁の異変を探って穴を進むと、遂に見慣れた迷宮へと出た。

 

「ようやくだ……!」


 俺は順調に上に登れていたことにとりあえず安堵する。

 

 というか今通って来た場所ってこっち側から見ると、


宝箱(豪華)→モンスターハウス→宝箱(超豪華)→螺旋階段


 って並びなのか。


 下層の隠し部屋にこんなのがあれば、さもこれが隠してあったものですよ!満足して帰ってね!って言っているようなものだ。というか大半は宝剣だけで大満足だろう。

 そこから更にクソ強いメデューサの群れと戦い、魔帝シリーズまで手に入れて、誰が更なる隠し部屋を探す気力が湧くだろうか。

 探すとしたらそれは、最初からどこかにこの下に続く道がある、と確信している者だけであろう。


「やっぱり、このダンジョンは性格が悪い……」


 そうぼやきながら、少しチカチカする赤い光の中を進み出す。

 こうして俺は遂にまともにダンジョンを登り始めたのだった。



***



 ダンジョン攻略は苦労の連続だった。

 基本はひたすら進んで、モンスターの生肉を食って、安全エリアで休んでの繰り返し。

 当然地図なんてないし、マッピングする紙も持っていない。それに下層というだけあってモンスターも強くすぐにMPが切れるので、最初の1層を上がるだけで3日もかかってしまった。

 

 それでも諦めず、俺は進み続けた。

 高い知力ステータスのおかげか途中から何となく脳内マッピングが出来るようになり、攻略速度は劇的に増した。

 《暗視の魔眼》を駆使して極力接敵を避けつつ、MP消費とにらめっこしながら1日1層のペースで進んで行く。


 ――そして。


「……ようやく、辿り着いた」


 苦節、約半月。


 目の前には巨大で豪華な宝箱と、重たい石造りの扉。

 遂に中層のボス部屋。その反対側へと、俺は辿り着いた。


 ここさえ抜ければ後は攻略済みの中層と上層だけ。

 そうなれば今の俺にとってはヌルゲーもいいところだ。


「さあ、行こうか」


 そうして俺は意気揚々と、ボスの部屋へと歩き出したのだった。

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