Graduate first ⑭
急告を持って来た女子は、静まり返ったクラスを見渡し、顔色を蒼白にした。「大きな声ださないでよ──」
「それより!」クラスメイトはその
「どういう事なの! ただ事じゃないでしょうっ? 私、あの先輩にあこがれて新体操部に入ったのに! ……最近、全然顔出さないなって思って心配してた。なのに、自殺? どうして! どこでっ!」
腕をつかまれた女子は、なだめるのを諦めて、口をわった。
「自分
「え……」クラスメイトが、へなへなと椅子に腰を戻した。
女子は肩を落とし、声をかけつづけた。
「あの先輩の家って、マンションの十六階だったよね? ……即死だったと思う。──先生から、明日の朝、全校集会をやるから遅刻しないように、って云われた」
クラスメイトが茫然としながら、
「今日の部活も中止だって。気をつけて、早く帰りなさい、だって」女子はクラスメイトの背中をさすってる。
……自殺って、まさか、兄さんの彼女じゃないよな? 大丈夫だよな? ──今日、兄さんが学校をサボって、ほんとに良かった! 兄さんの耳にいま、こんな事件の話しが入ったら、気が気じゃなくなるよ……!
でも、遅かれ早かれ、耳には届くよな……同じ学校だし、明日は全校集会になる。明日、なにも知らないまま兄さんが登校して、この話しを聞いたら、起き抜けの頭に爆弾を落とされるようなものなんじゃないか?
…──兄さんが心配だ。今すぐにでも帰りたくなってきた。
ぼくは兄さんのずる休みに感謝しつつ、すぐにでも家に戻りたくなった。
植田が気遣わしげに、ぼくの目を覗きこんできた。「……涼?」
そうだった。植田もぼくと一緒で〝自殺〟っていう言葉を聞いたら、身体が
ぼくは冷静さを
「全校集会で、すべて話されるのかな?」
渡辺は戸惑いながら両手をふわつかせた。「──さあ?」
植田は考えこみながら腕を組んだ。「自殺の原因にもよるでしょう? イジメが原因なら、すべて話すかもね。で、犯人探しと、情報提供してくれそうな生徒に
「……話さないんじゃないかな? だって……云えるわけ、ないだろう?」
植田の云いたい事は、よーくわかるよ。
身内……たとえば紫穂の家とかだよな。
けど結局あれも、原因がそうだとしても、最終的な決断に踏み切らさせてしまったのは、ぼくっていう存在なんだよな……。つくづくイヤになる話しだよ、ほんと。
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響くと、クラスはまたしても一瞬シンと静まり返り、
片付けがまだな者は、机周りを整頓しはじめる。
自分のクラスへ戻る者は、口早に約束を交わしたりして、乱した机や椅子の位置をなおしてる。
渡辺も早口に云ってきた。「今日さ、一緒に帰ろうよ! サッカー部まで中止になるとは思えないけど、念のため、正門で待ち合わせな! ──いいな! 置いてくなよ? ちゃんと待ってろよー!」
声をあげて、ぼくらの教室から出ていく。
ぼくと植田は、
…*…
昼休みに降ってきた急告は、休み時間を重ねるごとに内容を具体的にしていった。生徒の
「自殺した人、三年生の女子らしいよ」
「なんか、付き合ってた彼氏から暴力を受けたとかって……」
「え、私が聞いた話しだと、塾の帰りに襲われたって……」
「三年のヤンキーが、
「ああ、それ私も見た! ぞろぞろと、怖かったよね~。ああいうのだけが集まると『この学校には、こうまでヤンキーがたくさん居たのか』って思い知らされるよね。──で、なんで帰ったの? なんかの集会?」
「バカ、笑い事じゃないって」
「自殺した三年の先輩と、関わりあるって聞いたよ?」
「あの先輩、ヤンキーじゃないよね? 関係なくない?」
「関係あるみたいなんだよ。彼氏がヤンキーやってるらしいよ?」
「──は? じゃあ、仲間内で口封じとか、口裏合わせするために帰ったの? サイッテー!」
「どうなんだろうね? なんか他の中学もからんでるらしくて〝戦争だ〟って話しながら帰ってったらしいよ?」
「うわ~、そういうの聞いた事ある! 〝
「ヤンキーの世界ではね」
「っていうか、うちら、巻き込まれたりしないよね?」
「中学校同士の衝突なら、わからない」
「……ねえ、どうする? 明日の全校集会の時、思い切って校長先生に質問してみる?」
「え?
「うん、そうだよ。そのほうがちゃんとした反応が見れるし、なにが事実かがはっきりする」
「え~、先生から目をつけられそうで怖い~。あんた、まじでやるの?」
「ヤンキーたちの起こす事件に巻き込まれるほうがずっと怖いよ。私、お兄ちゃんがいるから、そのへんの話しはときたま訊くよ。……集団の喧嘩で、片目失明した人がいるって訊いたよ」
「はあ? 片目シツメイってなに?」
「……片目、くり抜かれたんだって、喧嘩の時に」
「──ウソでしょう?」「まじ」「その人、今はどうしてるの?」「どこかで生きてるらしい」
「なにそれ……ねえ、ほんとなの?」
「ほんとだよ。先生に目をつけられるなら、好都合だよ。だって、裏を返せば見守られてるって事でしょう? 私は守られたいの。ヤンキー達はキレるとまじでヤバイ連中ばっかりだから、先に手を打っておかないと……」
机につっぷして、噂話に耳をそばだてて聞いていたけど、女子達が兄さんと同じような結論にいたったところで、ぼくは顔をあげた。
これから始まるホームルーム待ちをしている、席の離れた植田と目が合う。
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