Graduate first ⑫
弱々しく云うけどさ、とんでもない話しの内容だ。──だけど、紫穂の〝眠れる獅子〟は正直笑えた。
でも兄さんの彼女の──影の彼女がずっと、兄さんの肩にもたれかかってる──手前、軽はずみな
兄弟で、同じ父さんの息子であるぼくが狙われるのも、時間の問題なんじゃないの? ぼくの入学式だったわけだし。
というか、
ぼくに出来る事は、今のところ、ぼくら一年を危険な目に遭わせないように警戒する事。目立った行動を控える事。これから
紫穂については、来年だ。……今はおとなしくしてるって、どういう風の吹きまわしなんだろう? 上林先生は移動したのかな? ……まあ、敵視するような
このまま中学にあがったら?
中学の職員室内は
ただ、現役の先輩方は違う。
三年生にかんしては、たいはんがグレてる。
一個上の先輩、二年生にもヤンキーは多い。
けど、チャラチャラしてる人もまばらにいる。
最近、芸能界で流行りだしたファミリーに影響を受けて、
〝生きる化石〟になりつつある
ヘアスプレーで根本を固めたのれんの前髪は、強風にもなびかない。
雰囲気は浮かれだったチャラチャラした軽い雰囲気。制服はノーマルだけど、着こなしが一味違う。
男子はボタンをはだけさせて、色気を出している。
女子の制服は、スカートがかなり短い。
校則では〝ひざ下十二センチまで〟とハッキリ書いてあるのに。
外見に、その人が進もうとする道が出てるから、かなりわかりやすい。
兄さんが云ってる〝時代の変わり目〟は、確かに目に見えて来ている。
……紫穂は、どの道を選ぶんだろう。
ぼくはひとしきり考えを巡らせて、兄さんと目を合わせた。「──うん、紫穂を
関わって良い相手じゃないのは確かなようだから、紫穂を危険から離脱させるためにも、なにかしらの歯止めは必要だ。
兄さんはぼくの返事を聞いて、弱く
ぶっきらぼうに指示をだすと兄さんはタバコに火をつけた。
うつむいたまま煙をため息と一緒に吐き出して、つくづくおでこを
「──疲れた……涼、今日はもう、ひとりにしてくれ」
ぼくからのわずかな
……兄さんにまとわりつく影も、同じ動きをしているように感じる。
ぼくはおとなしく、兄さんの部屋をあとにした。ふたりの世界を邪魔したくないから。
下に行って、父さんと話しをしようと思ったけど、やめた。まだ頭の整理が追いつかない。このまま父さんと話したところで、さらに混乱するだろうし、なにが本当で、なにが確かなのかもわからなくなる。
ぼくは自室に引っ込んで、勉強机と向き合うと、日記帳を本棚から抜き取り、今日の出来事を
……まさか、自分が〝焼き〟をいれられる心配から、こうまで話しが大きくなるとは思いもしなかった。しかも自分にかかる心配が〝焼き〟以上のものだなんて、信じられない。いまだに。
それに心配は、ぼくら学年全員に広がった。全員が巻き込まれるかもしれない。こんなヤンキー漫画の戦争は、
兄さんは、これからなにをしようとしてるの? 怖いよ……。なにをどうしたら、こんな根深い問題を、兄さんの代だけで終わらせられるっていうんだ?
日記を書いている途中で、また救急車のサイレンの音が、窓越しから遠くで鳴り響き、ぼくの鼓膜をふるわせる。──耳鳴りがしてきた。
限界だ。頭がパンクしそうだ。
ぼくはシャーペンを置き、椅子に寄りかかった。なにげなしに、ハンガーラックに掛けてある学ランに目がいく。
入学したてで、なんでこんな重大な問題を突きつけらなきゃならないんだよ! ぼくらはのんびりエンジョイして、未来の自分達に期待して、胸を膨らませていただけなのに、どうして楽しませてくれないんだ!
…*…
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