~ end up ~ ⑧


 なんだこの上から目線な物云ものいいは。

それに、なにかを揶揄やゆする、ふくんだ云いかたも気になる。


今日までのあいだに、この上級生代表女子と紫穂とのあいだに、いったいなにがあったのかはわからないけど、


このトゲトゲしさを見て訊けば、おおよその見当けんとうくらいはつくってもんだ。


 それにしても、これじゃあ話しをつけるというより、おどしているようにしか聞こえないのは、ぼくだけだろうか?


もっと耳障みみざわりのいい話し合いのスタートは切れなかったのか?


 紫穂は〝上林先生について〟というワードにピクリと反応して、首をかしげた。それから、代表女子の名札に目を止め、腕組うでくみの片手だけを動かした。名札をピタリと指さす。


「ウチのお姉ちゃんとおなじ学年。……あんた、お姉ちゃんに頼まれて来たの?」


紫穂も負けんに斜め上から目線のふくむ云いかたをするし。


ほんとに大丈夫なのかあ? これで話しがうまくまとまるようには、ちっとも思えない。


 代表女子はカッとなったように声をはりあげた。


由緒ゆいちゃんに云われてきたんじゃない! 私は、自分で考えてここに来たの! もし由緒ちゃんに話していたら、こうしてあんたと口をくのもめられていたでしょうよ!


だから私は、指図さしずされてきたとか、そんなんじゃないから!」


 なんだか話しが見えてこないな……。これって、どうゆう事なんだろう。

ぼくは植田をチラリと見たけど、おなじように植田もぼくを見てきた。


話しの内容がぼくと同様どうようでさっぱりわからないらしい。お互いに小首をひねるばかりだ。


 紫穂はしげしげと代表女子の目を見つめ、真意をまさぐると、やがてフッと微笑ほほえんだ。


「お姉ちゃんに云われて来たわけじゃないんなら、話しは聞いてあげる。……もしお姉ちゃんの指図であんたが動いているようなら、それはあんたが単なるあやつり人形でいいように使われてるって事になるし、わたしはあんたと話す気にもなれない。


だって操り人形とじゃ話しにならないでしょう? ……とうのご本人がここに来て頭をさげるべきだし。家族なのに見栄みえはっちゃって、ほんと、うっとうしいんだから。──でも、あんたは操り人形ってわけじゃないのね?」


「あたりまえでしょう! 私達だって、いつまでもいいように使われる気はないの! こっちだって、あんたのお姉さんにはいい加減うっとうしく思ってるんだから…──あ!」


 つい口をすべらせてしまったらしい。代表が両手で口をおさえた。


はずみで出た本音を聞いた紫穂は、笑みを深くし、瞳を輝かせた。

パンッ! と拍手するように手を打つ。


「なんだ、まともな人でよかった! これならちゃんと会話が成立しそう! ああ、それから、わたしはお姉ちゃんに云いつけたりなんかしないから、そこも安心して! ……まあ、まわりのお友達がどう行動するかはわからないけど」


ここで紫穂は代表女子の背後うしろでところせましとむらがっている女子軍隊へ視線をむけた。


視線の意図いとを理解した代表女子が、うしろに向かってキッと睨みを飛ばす。

けどその眼には不安の色もにじんでいる。


 味方らしき友達が、胸の前で手を揉みながら、すがるように声をかけた。


「あ、あたし達だって云わないから。……ね?」と他の女子にも同意をうながす。


周囲は互いを見合いながらコクコクと、赤べこよろしくうなずきあった。


 不安をぬぐいきれない代表は気が気ではないらしい。息をとめて赤べこ達を見ている。


 卒業するまでのむこう一年間、紫穂のお姉さんとギスギスした関係を続けるのは、さぞ胃を痛めるんだろうなと、簡単に想像がつく。


ここは代表に同情するかな、さすがに。

けたい事態じたいだよなあ、この流れだけは。


 そのやりとりをながめていた紫穂は、笑顔のまま片眉をあげた。愉快そうに。


「それじゃあ、本題にはいって大丈夫そうね! ──で、上林先生について、どんなさくを思いついたの?」


 どのあたりをもってして〝大丈夫〟と判断したのか知らないけど、紫穂はいたって軽快だ。


もしかしたら、言質げんちでもとった気になっているのかもしれない。

紫穂の抜かりの無さには、ほんと、毎回言葉を失うよ。


 紫穂とは真逆に、代表の立ち姿からは、さっきの威勢いせいのよさがきっぱり消え失せている。弱腰よわごしに話しをつめはじめた。


「策は……私達いまの五年生と四年、それからあんた達三年女子全員の協力が必要になるんだけど、その……大丈夫そう?」


代表が心配そうな眼差まなざしを紫穂のクラスの奥へと向ける。


「三年生の女子達には荷が重いかもしれない

…──あ、、あんたはその中にはいってないからね。あんたはもちろん、参加するでしょう?」


 かつがれた紫穂は鼻で笑って、あきれ返ったように何度かまばたきをした。


「それは策の内容によりけりだけどね」


 話しの先をせかされた代表は、赤べこ女子達と目を合わせていき、ふーっと一息つくと、おもむろに切り出した。


「策はね、私達女子で、昼休み中、職員室の前でおしゃべりしているをするだけなんだけど……」


「は?」紫穂が素っ頓狂な声をあげた。


「だから……! 職員室の前で〝私達は仲良いです〟ってアピールするだけなの!」


腹立たしに策を押しつけているけど、あの人、自覚しているのかなあ?


「そこまでこの話しにノリ気じゃないんなら、あんたはその場にっ立てるだけでもいいわよ。ただね、なにもしないより、これはかなり効果あると思うんだよね。……やってみない事には、わからないけど」


 話しを聞くかぎり、これはあれかな、女子特有とくゆうれて相手を威嚇いかくする方法。


同調圧力。


……確かに、やってみないとわからないけど、うん、効果はあるように思える。


だって、ぼくたちはここにたどり着くまで、この女子軍団におののいて、前に進めなかったんだから。

それに、ぼくは息もとめた。


 紫穂はどうするんだろう? この策なら、なにもわるさするわけでもないし、紫穂が先生達からおとがめをくらう事もないだろう。


こんな考えが浮かぶなんて、さすがは上級生。


 紫穂はまた腕組みをして、しばし考えをめぐらせると、するどい目線を代表にぶつけた。


「つまり、三年女子からは、わたし単騎だけが参加して、

職員室の前で、上林先生を待ち伏せして、学年の垣根かきねをとびこえた〝仲良しグループです〟ってところを見せつけて、


なにかあればすぐにわたしの耳にはいるし、ように思わせる……そういうわけね。


……まあ、なにかあったら、その時は遠慮容赦えんりょようしゃせずアイツになぐりかかるわけだけど、それでいいって事?」


最後に、物騒ぶっそうな確認がつけくわえられたのを聞いて、ぼくは目をとじてため息を吐いた。


……紫穂、たのむから、無茶はしないでくれ。


 代表は紫穂の意気込みを聞いてニヤリと笑った。「そう、それでいい」


 紫穂もニヤリと笑い、嬉しそうに頭を縦にゆらした。


「……なら、話しはきまり。せっかくだから、このままさっそく職員室の前に行っちゃう? 練習もしたいし! こんなに大勢の女子が大集合するなんて、そうそう無いもんねえ?」


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