~ end up ~ ④
植田の目には、ぼくが恋のライバルとして映っているのだろうか?
ぼくが声をかけて、いいのか? ぼくが声をかけたら、それこそ、傷口に塩をすりこむようになってしまうんじゃないのか?
……だけど、
そうかといって、平気で目を合わせたままなのもいたたまれなくて、ぼくは視線をそらした。
「……おはよう、植田」ゴニョゴニョした云いかたになっちゃったよ。どうしよう。
気の利いた言葉が見つからない。
植田からも、挨拶が返ってこない……あたりまえか。
この状況で朝の挨拶なんて、今この場にそぐわないし、白々しいだけだもんな。
「あ、鳥海くんが、このバツゲームを作ったの?」女子がいたずらめいた笑顔をふりまいて、ぼくを会話の
……ちょっと待ってくれよ。
色々とおかしいだろ。なんなんだよ。この子たちの中じゃ、植田の本気の告白は、もうバツゲームって事になっているのか? どうしたらそうなるんだよ。
それに、こんなバツゲームがなりたって良いのかよ、おかしいだろう。
人の心を
「とにかく」ぼくはクラスメイトをかきわけて、植田と腕をくんだ。早くこの場から離れないと。「行こうよ、植田」
「なんだよ、教えてくれたっていいじゃないか」おもしろがる男子がせせら笑ってきたけど、ぼくは相手にしない事をきめこんだ。
こういうたぐいの連中は、無視するのにかぎる。
どうせ思考回路がゆがんでいるんだろうから。
植田と組んだ腕を引っぱったとき、もしかしたら、ふりほどかれるかもしれないって思ったけど、思いすごしでおわった。
植田はぼくに引っぱられるがまま、無抵抗についてくる。……よかった。
ぼくは別校舎の昇降口に直行して、すぐに上履きに履き替えた。
そのまま
「どうして、みんなの前で──しかもよりにもよって朝一番に、告白なんかしたんだよ」組んだ腕をとくや、ぼくは訊いた。
云いかたがトゲトゲしくならないように苦労しながら。「紫穂は、みんなの前で、ああいう注目をあびるのが好きじゃないんだ。そりゃ、相手にされるわけないだろう」
なんだってあんな告白の仕方を選んだんだよ。
朝のニュースの星占いで、そういうアドバイスでも貰ったのか? だとしたら、信じすぎだろう。
「……わからないんだよ。オレは、鳥海じゃないから」植田が今にも泣きだしそうな顔をして、唇をわななかせた。「オレは、お前らみたいな関係じゃないから、八鳥がどういうふうに考えているかなんて、わからないんだよ!」
最後に非難がましく怒鳴りつけられて、ビックリした。……なんだよ、これ。八つ当たりか?
でも植田からはぼくに対する敵意じみたものは感じないし……えっ、植田が泣き出しちゃったよ……。どうしよう、ほんと、まいったな。どう声をかけよう。頭の中で言葉がひしめき合ってる。
「植田が……」ぼくは頭の中の整理が追いつかなかったけど、けれでも植田に声をかけた。「植田が逆の立場ななら、どう思う? あんな大勢の前で、よく知らない相手から告白をされたら……」
植田が〝イヤだと思う〟って云うのを期待して問いかけた。もう、はげましているのか、説得しているのか、説教になってしまっているのか、自分でもよくわかっていない。
植田が鼻をすすり上げた。「イヤだけど……でも、人前だからこそ、オレの本気の気持ちが伝わると思ったんだ」
「……ああ、なるほど、それは一理あるかも」ぼくは認めた。そうか……植田は植田で、ちゃんと考えていたんだ。
植田はまた鼻水をすすって、そっぽを向くと、愚痴らしきものをこぼしだした。
「呼びだして、陰でこっそりする告白ほうが、ウソくさいじゃないか」
「うん、確かに信憑性にかけるかもしれない……」
「そうだろう? かといって、ラブレターなんかもウソくさい。だから、みんなの前で告白するのを選んだんだ。……それに、今日はバレンタインデーだし」
ボソボソつけたされた言葉に、ぼくは耳をうたがった。
わざとらしく眉根を寄せて、避難がましい目でゆっくり植田を見る。
「植田、バレンタインデーっていうのは、女の子から男の子にチョコレートをあげる日で……」
「そんなもん知ってるよ!」
またしてもどなりつけられた。
でも、そっか。植田は、バレンタインデーの〝しきたり〟は知っていたのか。そうか……そりゃ、そうだよな。知っていて当然だよな。
家と病院にこもりっぱなしだったぼくと比べれば、植田のほうが、はるかに世間慣れしていて、くわしいにきまっている。
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