Please don't be a stranger ⑬
「さっきのサッカーだよ」
ぼくは戸惑いながら、自分の心の整理をする時間稼ぎがしたくて、
紫穂が頭の中で描いていたであろう〝シナリオ〟を云い当てにいった。
「そもそも、サッカーの勝負を申し出た時点で、きみは勝ちを
で、五年生が勝負にのって、勝ちは確定した。……勝負にも勝てるし、校庭でも遊べるしで、きみたち三年生は一石二鳥ってわけだ」
ここまで話すと、紫穂の顔には
「ぼくが思うに、きみは、この時を
いつか、校庭を占領する上級生たちをこてんぱんに叩きのめして、みんなに校庭が解放される日がくるのを望んでいた、そうだろう?
それで、ようやく、今日という
それだけじゃない。きみは、みずから進んで悪役を買って出て、今回のこの一件で、五年生が他の子──今日、きみと一緒にサッカーをしてた男子に、
もしそれで、本当にケンカになっても、きみは良かったんだろうね。相手に大怪我をおわせても、きみの云うとおり、多勢に無勢だ。
しかも、相手は、年上の男子数人に対して、きみは年下なうえに女の子ひとり。……
きみは、徹底的に悪役になって、五年生の注意を自分だけに集めて、あのサッカーをしていた三年生を守ったんだ。
おまけに、この学校の
ここまで云い当てると、紫穂はカッと頭にきたように顔を真っ赤にして、ぼくの胸ぐらをつかんだ。
「あんた、見ない顔ね、
低い声で
どうやら紫穂は、ぼくがここの学校の生徒かどうかを確かめたらしい。
ぼくのかぶる、学校の黄色い通学帽には、ちゃんと姫小の校章が刺繍されてある。
きみは目を白黒させて、ぼくの瞳を
──すごいな、紫穂の睨みは。
はっきり云って、すごく怖い。
紫穂から、こうまで自分へ敵意をむきだしにされると、みんなが怖がる理由もわかる……。
隣りの植田が、ぼくを助けようと、うわずった声をあげた。
「……お、おい! 口で云っているヤツに手出ししたら、お前の負けになるんだからな! 口なら口で、云い返せよ!」
植田の云いぶんに、ぼくは顔をしかめた。
これじゃあ、ぼくをかばって云っているのか、ぼくを紫穂にけしかけているのか、わからないじゃないか。
ぼくは紫穂と口喧嘩する気はないのに、ややこしくしないでくれ。
紫穂は植田をねめつけると、
「──フン! まあ、いいわ。……あのね、あんたがどうやって、わたしの考えを読めたのかは知らないけど、いい? 云いふらしたりなんかしたら、
植田は、そうなる自分を想像したのか、身を
──きみが、ぼくに気づいてくれないなんて!
ぼくは意をけっして、白状するように、胸の内をあかそうとした。
「きみさ、前に、心臓の悪い子と、仲良くしていたでしょう?」
ぼくはこれで、紫穂の記憶にゆさぶりをかけた……つもりだったんだ。
けど紫穂は、顔からみるみる血の気を引かせて、蒼白になってしまった。──ぼくの胸ぐらをつかむ手も、
どうしよう……どうなっているんだ……。
紫穂は血の
ぼくは紫穂に引きずられる
でもって植田が、また余計な声をあげた。
「──おい! どこへ行くつもりなんだよ! ……鳥海を、どうするつもりなんだ!
せ、先生に──云いつけてやるからな!」
紫穂は
「云いつけるなら、云いつけなさいよ! けど、そん時は、この子がどうなっても知らないからね! あんたが本当にこの子を
──いい? あんたはついて来ないでよ? もし、ついて来たら、あんたも、この子も、ただじゃおかないんだから!」
……おい、おい、おい。ぼくは、人質か?
植田はあたふたして、
ぼくは、植田に向かって軽く手を振った。
〝ぼくは大丈夫だから〟って意味を込めて。……ぼくの送った
ほんと、先生を呼びつけて騒ぎにするのは勘弁してくれ。
ぼくの家に、先生からの連絡で電話が鳴ってみろ。
母さんが、またヒステリーを起しちゃうじゃないか!
校門につくと、紫穂は校門の
……正直に白状すれば、ぼくは紫穂がそれなりに怖いけど、さほどでもないんだ。
どうしてだか、繋がりを感じているままだから。……悲しい事にきみは、ぼくをすっかり忘れているようだけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます