Please don't be a stranger ⑩
「……ケンカの理由は、あとから
どうも……あの子の同学年の三年生の男子が、
……なんでも、そのイジメられていた男子は、身体中アザだらけだったらしくて……。けど、いくら
「でも、そのやりすぎのおかげで、そのイジメられていた男子は、もう二度と、イジメられないんだろうな。
だって、またイジメたら、だまっていない
ぼくがその後をつけたすと、植田はため息をついた。
「……まあな、確かに」
この話しを聞くに、学校も、こんな理由じゃ、この
……紫穂はきっと、イジメられていた子を助けなかった先生たちにも腹を立てているんだ。
だから、先生にもケンカを売る。……なるほどな、紫穂らしいよ。
紫穂は
イジメと、イジメを見て見ぬふりする大人の先生たちの姿勢をうきぼりにしたんだ。
こうなってしまっては、先生たちも、
イヤでもイジメ問題と向き合わなきゃならなくなる。……なるほど、先生たちにとって、これほどまで都合の悪い問題児は、いまだかつて居なかっただろう。
「けど、なにが
「その子がさ『ぼくは、こんな
それで、その助けられた子もすっかり八鳥におびえちゃって、近寄ろうとしないんだぜ。……気持ちはわかるよ。とばっちりはくらいたくないもんなあ。どうせ先生たちからも、やんややんや云われたんだろうよ」
ぼくは顔をしかめた。
「それで、その……八鳥はなんて?」紫穂って云おうと思ったけど、話しの流れからして、ぼくはためらった。
紫穂なんて、下の名前で呼んだら、ぼくときみが親密な関係なのを公表する事になっちゃうから。
植田は口角を持ち上げて、楽しそうに話しだした。「そう、その話しを聞いた時、みんなが、また八鳥が暴れるぞって息を飲んだんだ……。
こんどは、助けたその子をこてんぱんにするんじゃないかって。
……けど、八鳥は、その子の
そう思うとさ、あの子は、ただ単に暴力を使いたくて、なにがしかの理由を見つけては、強いヤツとケンカがしたいだけなんだなって、やっぱりそう思ったよ。
なにより、狂犬八鳥本人も、前々からそう公言しているし。──だからあの子は、同学年の三年からも
普通のもめごとも大騒ぎにさせるだけの厄介なヤツだって」
植田は、
植田の後日談を聞いて、
みんなは、この件で、紫穂がどれだけ傷ついたか、わからないのか?
助けた子からも裏切られて、周りからも、紫穂ひとりだけが悪い物あつかいをされて、ひとり孤独になっているんだぞ?
だれも、その事に気づかないのか?
……紫穂のことだから、きっと、
イジメられていたその男の子を助けても、裏切られるのは考えに入っていたはずなんだ。けど、じっさい裏切られた時の心の痛みって、どうなんだよ。
紫穂は、自分が助けた事によって、その子が他の友達から遠巻きにされるのも恐れていたはずなんだ。
……ぼくにも、目に見えてわかるよ。
〝アイツと狂犬は仲が良いから、近づかないほうがいい〟とかなんとか云って、その子を遠巻きにして、仲間はずれにするのを。
そしたらそのイジメられていた子は今度、同学年の友達を
だから、裏切った。
紫穂は、その子にとってのこれからを考えて、
──紫穂、きみは、全部をお見通しで、ひとりぼっちで、淋しくないのか?
「フフフッ! これで、10対5ね!」紫穂は、みごとに逆転した試合を楽しんでいる。
校庭を走りまわったせいで、肩で息をしながら、洋服の袖で、
「このまま試合をつづけて、どこまで点数差がつくのか、やってみましょうよ! きっと10点差くらいつくわよ!」
しらけているのは、五年生だ。
本当は、げんなりして
「……ふん、行こうぜ。サッカーばっかしてるのも、あきてきた」
ゴールキーパーをしていた五年生が、ぼやくように味方へ声をかけた。
〝あきた〟か……。
うまい云い
云い逃れて、
これ以上点差を広げられて、
三年の──はじめ、ボールをひとりじめして、紫穂に怒られていた男子だ──子が、声高に云った。
「よっしゃー! これで校庭ぜんぶを広々と使える!」
紫穂は、その子をたしなめるように
「なによ、まだ試合はおわっちゃいないのよ? なに勝手にやめてんのよ。あんた達、負けを認めるわけ?」
紫穂はなんだか必死に、五年生を呼びとめているようだった。
けど、五年生はもう移動を始めていて、それぞれがランドセルに手を伸ばしている。
「おまえら三年の、下級生の遊びにつき合ってられないって、云ってるんだよ!」
五年生のひとりが、吐き捨てるよに云った。
紫穂は、してやったりと、顔を笑みでゆがめて、五年生に
「なによ、そんな云いわけがわたしに
この提案には、さすがに味方の三年生からも抗議の声があがった。
「なんだよ、せっかく五年がいなくなるんだから、自由に校庭を使おうぜ? そういう話しだっただろう?」
紫穂は眉をあげて、三年の男子を見やった。
「──あら、あんた達、あのみっともないヤツラとおなじような、意地悪で同等な人間になりさがりたいわけ? それならそれで、わたしはとめないけど」
バカにしくさった云いかたをすると、紫穂は校庭の隅にある山へ目を向けた。
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