You're so close yet so far away ⑥
管理センターを素通りしたのは、自分の直感にうぬぼれていたからだ。
今日のわたしは
もしかしたら、直感が鳥海先輩のお墓まで道案内をしてくれるかもしれない。そうおごっていた。
だけど、〝死〟の
まるで勘をつかうのがタブーであるかのように、わたしの感覚の力が消えた。そう、ロウソクの火を吹き消されたかのように、力が消えたのを感じた。
わたしは戸惑いつつも足はとめず、通路を歩き進んでいった。
お墓の墓石の裏にある
花がお
といっても、
ここでわたしは不安になった。
もし、だれも来ていなかったら?
お葬式では華々しく見送られていても、ここまで時間が経過してしまっては、だれも来てくれていないんじゃないの? 家族の人は来てる? 長い時間、ひとりで寂しくしていたらどうしよう……。
西日の日照りにめまいがして、わたしは通路脇のベンチにへたりこんだ。霊園には
ベンチにバッグを置いて、息をついたところで気づいた。
わたしの動悸が激しくなってる。息をするのもしんどくて、心臓の脈打つ鼓動さえも息苦しく感じる。鼓動をつめばつむほど息苦しくなる。
いま
鳥海先輩のお墓は、きっとこんなキラキラネームなんかじゃない。
わたしはもう一度、霊園を見渡した。──なんて広大で、広すぎる霊園なんだろう。直径二キロ以上はありそうだ。
数限りなく立つ墓前はまぶしい西日を反射させて、キラキラまぶしすぎる光りをわたしの目にチクチク
めまいがどんどん酷くなる。倒れそう。ベンチに横になりたいと思ったところで、うしろから視線を感じて、わたしはそぉーと振り向いた。
初老の母親とその息子だろうか。お墓にお花を
わたしはうんざりとため息をついた。
そして不審者であることを誤魔化すように、バッグの中からタバコをまさぐり出して、
ベンチの脇にはちょうど灰皿もあることだし、これで動悸も少しは
タバコの煙を吐きだしながら思った。……ダメね、むり。わたしひとりじゃ、鳥海先輩のお墓は見つけられない。たとえ〝鳥海〟と彫られたお墓を見つけても、それが鳥海先輩のお墓だとはかぎらない。それこそ鳥海さん違いになってしまう。
わたしはタバコを吸いおえて、よろよろと立ちあがった。──立ちくらみがする。このまま倒れてしまいそう。
わたしはベンチに手をあてて目をとじ、立ちくらみが治まるのを待った。
乱れている呼吸を意識的に深呼吸をして、なんとかまともな呼吸にする。心臓がバクバクして、頭をしめつけてくる。……
わたしはUターンをして、よろよろともと来た道を戻り、管理センターに向かった。途中で、グレーがかった黄緑色の作業着を着たおじさんと目が合った。駐車場にとまっていた白の軽トラは、この人のね。で、もう一台の車がさっきの人たちの……。
無意識に、そんなどうでもいい
「……熱中症になっちゃった?」
作業着の眼鏡をかけたおじさんが、墓石の並びの向こうから気安い感じに声をかけてきた。
とおりすがりなだけのわたしを心配してくれるなんて、この人はきっととっても親切で優しいかたなのね。……でもって、おじさんはいいなあ、元気そうで。わたしには言葉を
わたしは良心的なおじさんに精一杯のお
管理センターまで、あと十五メートルくらい。
そこまで、なんとか頑張らないと。
施設の手前に、霊園の手桶とひしゃく置き場と、それから水場があった。……そうだった、そうよね。こういうところには必ず、こういう場所があったんだった。
水場の冷たい水に触れば、気分がすこしは良くなるかも。
ほんとは冷たい水を頭からかぶりたいところなんだけど、出先だとそうもいかない。
しかたないから、水道の栓をひねって両手だけをゆすぐことにする。
はじめは暑さでぬるかった水が、じきに冷水になってきた。あぁ、気持ちいい……。着ている服は半そでなことだし、
わたしは水道の栓をしめてから、ためしに前かがみになっている背筋を伸ばして、ゆっくり息をついてみた。
重く感じる体はままならないし、呼吸も苦しくておまけに頭がズキズキと痛むけれど、視界は暗くならない。──うん、これなら気絶からはまぬがれそう。
大丈夫、わたしはこのままいけるわ。
また具合がピークに悪くなる前に、管理人さんと話しをしなくちゃ。
わたしはくらむ目をすがめさせ、焦点を合わせて慎重にあゆみを進めた。
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