You're so close yet so far away ⑤


 わたしは頭のなかのドライブコースを思い出して、経路を組み立てていった。


この竜ヶ丘霊園って場所は、なんとなく知ってる。

楽しくドライブをしてるとき、または、自暴自棄やけくそで車を飛ばしているだけのとき、この霊園の前を何度かとおりがかったことがある。


そのたびに、たしかに後ろ髪をひかれるような感覚があった。場所が場所だから──しかも、霊園よ──わたしはあまり考えないように逃げるように、そこから離れるように車を走らせていたっけ。


 霊に手招てまねきされて、事故とかに遭って死にたくなかったから。けど……そういうことだったのね。そんな繋がりがあったのね。


 自分がつんできた人生のなかで感じたことを、目印みじるしのパンくずを拾うように、わたしは鳥海先輩との繋がりの答えをたどっていった。


 ──行くしかない。わたしはそう思った。


 しかも、今日、いますぐに。

 わたしはここに行くべきなんだわ。

 そう直感に突き動かされるがまま、わたしは車のエンジンを点けた。


竜ヶ丘霊園までは、ここからなら車で三十分くらいでつく。

それまでに、先行きした直感が知ったことを頭のなかでまとめる。運転をしながらの考えごとは、じつに効率がいい。たぶん自分に合っているんだ。


 遠回りにならない、無駄のないドライブコースを考えて、信号の変わるタイミングも予測して、無駄のない加速・減速でガソリンを効率良くエコにつかう。


おまけに歩行者や自転車の危険予測もする。神経やかんを研ぎ澄ませて、洗練された走りをしようとする。


 そうすると、なぜかわたしの場合は考えていることも、研ぎ澄まされて無駄なものがいっさいなくなる。


 今日、いますぐに行くべきだと思ったのは、それは──〝今日、この時間、この状態のわたしだから〟だ。


 それに今日は祝日だ。

なんにもない平日なんかにくらべたら、お墓参りに足を運ぶ人がいつもより多いはず。


おのずと、霊園の管理業者だって人手を増やしているに違いない。

いつもなら無人の管理室にだって、だれか一人くらい在勤しているはずよ。

しかもその人は必ずわたしに親切にしてくれる、話しのわかる人──。


 ──だから、今日で、その人が管理室にいるいまなの。すべての条件がそろってる。いそがないと……。その人が帰ってしまう前に、わたしはそこに着いていなければならない。


個人情報保護法のこんな時代に、こんなチャンスはきっと二度とない。その人だって、明日になれば気が変わっていて、融通ゆうずうのきかない真面目さんに戻っているかもしれない。


今日の祝日、しかもゴールデンウィーク初日の今日だからこそ、その人はのんびりとお人よしになっているのよ。


 わたしは、はやる気持ちをおさえつつ、安全運転を最大限に発揮・励行れいこうして竜ヶ丘霊園へと向かった。


途中、お花とお線香を買ったほうがいいかな……と考えたけど、今日だけは手ぶらでかまわないと判断した。今日のわたしは、時間とタイミングとの勝負なんだ。


 寄り道をいっさいせず、わたしは竜ヶ丘霊園周辺にたどりついた。

あとは道の脇にある霊園の看板の矢印にそって車を進めるだけ。

そして、ついた。竜ヶ丘霊園入口。


入り口は思ったよりも大きくて、グレーカラーを基調とした、立派な──それでいてつつましい──上品な雰囲気の霊園入り口だった。こんな雰囲気なら、これからくる夏にここで肝試しをしようなんていうバカな若者は来ないはず。


 入口の駐車場の真ん前がもう管理センターで、〝管理室〟と呼ぶには大きすぎる建物だった。ここでお線香も販売しているに違いない。お盆やお彼岸には、お供えするお花だって販売していそう。


 わたしは駐車場に車を慎重にバックで停めた。

わたしの車以外に、もう一台の車と、白の軽トラックが停まっている。

お墓参りに来ている人が思ったより少ない。わたしは不安になって、でもすぐにピーンときた。


 ……そっか、この時間だからか。車の時計を見てみる。


15:48。


もうすこしで四時になる。お墓参りに来るのなら、きっと午前中のうちによね。それか、お昼ご飯をみんなと──親戚とか──いっしょに食べて、かげって涼しくなる夕方から。


だからこの時間にガラガラなのはしょうがない。そして思った。だからこそ、よけいに好都合なのだと。


 人目がすくないほうが、管理人さんはわたしの話しをじっくり聞いてくれて、親切にしやすいはず。よけいな世間体せけんていなんて、気にすることなんてない。


 わたしは車のエンジンをきって、深呼吸をした。──いちおう、貴重品のはいったバッグだけは手荷物として持っていくことにする。


バッグを肩にかけて、ドアを開けた。


 はたして、五月の初夏らしいまぶしい西日にしびがさすなか、わたしは霊園に降り立った。


春の嵐のなごりの風が波乱にふいて、落ちた木の若葉をもてあそんでいる。

わたしはそれを横目で見ながら、広いメイン通路を何食わぬ顔で進んでいった。



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