Even though you've lost your mind ②
どいつもこいつも、ほんっと、なんなの! 腹立つ!
紫穂なら、習字もお手の物で、華道だってすぐコツをつかむにきまってるでしょうよ! あの子の飲み込みの速さなら! 産まれた時からずっと見てきたから、わかる。
華道も習っていたお母さんは、嬉しそうに手塩をかけて、紫穂にあれこれ教えていた。
私は、そんな手伝いをしても、お小遣いが増えるわけでも、貰えるわけでもないから、ちっとも手伝おうっていう気にはなれなかった。
遠目から
でも思い知った。これまでバカにしてきた
ペン習字を始めたすぐのころ、義母は、紫穂が手書きで送りつけてきた、迷惑このうえない年賀状を手に持って、しばらく
紫穂の年賀状は、産まれてきた赤ちゃんと一緒に、動物園へ家族と遊びに行った写真を使っていた。……そのころの私は、まだ赤ちゃんがいなかったのに。
自分が不幸だと、紫穂には知られたくなかった。負けたくなかった。
だから紫穂には話していないけど、私は〝子宮頸がん〟で、子宮
これじゃあ離婚されて、私は家を追い出されてしまうじゃない!
しかも紫穂は、これ見よがしに
八年前の出来事だけど、ほんと憎たらしい。紫穂にはずっと不幸でいてもらわなくちゃ。そうよ、ずっとずーっと不幸のままでいればいいの!
自分が〝正気じゃない〟と思い込んで、精神病になって自殺してしまえばいい。目障りなのよ、むかしからずっと。
私からお母さんを
さっきの電話では「友達に訊いてみる」なんて云ったけど、誰が協力なんてするもんですか! ハヅキにも訊かないし、もし鳥海くんがらみでなにか進展しそうものなら、邪魔してやる。
紫穂はなにも知らないまま、不幸のまま死ねばいい。
私より幸せになっちゃダメ。
昔だったら、お父さんを使って〝
姉妹お互いが結婚して、別々の屋根の下で生活している今となっては、それもできない!
──そう、あの父親も父親だよ!
「お父さんとチュウしたら、ご褒美でお小遣いあげちゃうぞう」
ニチャニチャした
私は友達とゲームセンターで遊ぶお金が欲しかったし、学校の女友達の、誰よりもはやく流行りの可愛い文房具が欲しかったから、仕方なくお愛想笑いしながらキスをした。
(毎回、毎回、可愛い消しゴムや鉛筆を万引きしてばかりいるのも、
キスをしたら、五百円も貰えたわ! まだ小学五年生だった私にとっては、
それを紫穂は、
そしたらお父さんはムキになった。
「紫穂はお父さんとチュウしなくていいのかあ? 舌を入れたチュウなら、もっとお
私はお父さんに肩を抱かれ、なかば力づくて二回目のキスをさせられた。……千円、追加で貰えた。
だけどあまり嬉しくなかった。……ヌマヌマとまとわりつき、絡みついてくるお父さんのベロの気持ち悪さ。
口の中いっぱいに入ってくるお父さんの唾液が気持ち悪すぎて、私は垂れ流しにした。キスが終わってから、服の
お父さんは、ますますムキになった。
こんどは一万円札を、私と紫穂にヒラつかせて見せびらかす。
「お父さんのよだれも飲んだら、これもあげちゃうんだけどな〜」
私は
上から
……お父さんは、一万円札を床に落とした。
私はすかさず拾った。お父さんの気が変わらないうちに、取り上げられる前に、せっかく頑張ったお金を拾わなくちゃって。
紫穂は終始、無言のまま、微動だにせず、軽蔑の眼差しで私たちを睨んでいるだけだった。
自分だってお金がほしいくせに! 素直にお父さんに
なのにこの子ときたら、バカみたいに強がっちゃって。
……今にして思えば、私はこうして、身体でお金を稼ぐ
紫穂の拒絶は、ただしかった。でも認めたくなかった。自分が汚れたのを認めたくなかったから。
それからしばらくのあいだ、私とお父さんは、生意気な目つきをする紫穂を、
日に日に増えていく
今回は、誰に
鳥海くんの実家に行くなんて、絶対にダメ。どうにかして、くい止めないと。電話ではうまいこと話しを本題からすり
あの子が真実にたどり着いたら、すべてが台無しになる!
あ! そうだ! 毎年、旦那が〝会社の株主優遇なんちゃら特権〟みたいなので、ねずみの夢の国へ行ける無料チケットを四人分、この時期にもっらてる!
そうだ、これを使って──紫穂に使うのは
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