Happy Birthday ⑨
「ねえ、お姉ちゃん。その話しって、またあとででもいいかな? 今はわたし、鳥海先輩の家が知りたいんだよね」
イライラしているのがお姉ちゃんにバレないように、注意しながら云った。
「いやあ、だって気になるじゃん。こうゆう話しって、なかなかする機会がないし……いやね、私、前々から紫穂に訊きたいなあと、思っていたことがあってさ」
お姉ちゃんが言葉をきったところで、わたしはすかさず異論を割り込ませようと息をすった。──けど、お姉ちゃんのほうが声を早くあげて、わたしは負けた。
「大阪の
あんちゃんのも、夢で見たの? 私がお母さんから聞いた話しによると、
『紫穂があんちゃんからへんな
って云っててさ、よくわからないんだよねえ。──ほらあの人、話したり説明したりするのが苦手な人じゃん? だから聞いているこっちもわけがわからなくってねぇ~。ほんとう、困っちゃう!
……紫穂はあんちゃんのとき、へんな
困っちゃうのは、わたしだ……。
こんなしょうもない世間話につき合わなきゃ、わたしは鳥海先輩の家の場所を知ることができないっていうの?
それからふと、ある違和感に気づいた。──お姉ちゃんは、どうして〝わたしがそういうタイプ〟だと知っていた?
「お姉ちゃんは、大阪のあんちゃんのことをずっと不思議に思っていたから、だから今回、
「まあ、それもあるけど……」
なんだか意味ありげに
お姉ちゃんがそう訊く理由の心あたりが、わたしには数知れず……。だから今回もとぼけることにした。
そんな数知れないことにいちいち
「……え? なんのこと?」
「そう! そうやってあんたは昔っから隠したがっていたよね! だから私はいままで、あえて訊かないでおいてあげたんけど……ねえ、教えてよ? 紫穂はさ──」
「ダメ!」
わたしは素早くお姉ちゃんの言葉をさえぎって拒否をした。「そんな話しをしていたら、時間がかかっちゃうじゃない。──ほら、いま何時よ? 明日の予定もあることだし、早く話しをきりあげようよ!」
「あー、ほんとだ。もう二時になっちゃうじゃーん」
お姉ちゃんがうめくように云って、わたしも時計を見た。
──ほんとだ。もう二時になる。やばい。はやく鳥海先輩の家の場所を訊いておかないと。
「じゃあさ、紫穂。〝今日は〟大阪のあんちゃんのことだけでいいから教えてよ」
好奇心のかたまりになっているお姉ちゃんに、こんどはわたしがうめき声をあげた。
「──その話しをしたら、こんどはわたしのターンで、鳥海先輩の家の場所を訊いてもいい?」
わたしは約束のこぎつけにかかった。時間も時間だし。
わたしの話しを聞いたお姉ちゃんが〝はい、おわり〟と電話を切らないようにする必要もあった。
……あんちゃんのことは、べつに隠しておくことではないけど、この場合は保険に使えるな──そう思ったところで、これはブラックジョークにもならないなと、自分にさす
「いいよ」お姉ちゃんがあっさり
わたしは天井を見上げて息を吐いた。それから、大阪でなにがあったのかを
***
「──だからそれも、顔に書いてあった」
あんちゃんは、自分の
わたしが「お母さんもお
「大丈夫、だいじょうぶ」と云って、取り合ってもらえなかった。だからわたしはあんちゃんの
あんちゃんは、このまま死ぬのを望んでいた。病院に行って助かるよりも、このまま死んだほうが家族のためになると本気で考えていた。
いろいろとお金がかかるこれから先のことを考えれば、このまま自分が病死したほうが、住宅ローンの保険が適応されて、新築の高額ローンは免除され、残された家族は生活がラクになる。……そう考えていた。
電話のむこうで、お姉ちゃんが絶句した。
「こっちに帰るまぎわ、あんちゃんはわたしにいろいろと教えてくれたよ。口には出さなかったけど、顔にぜんぶ出てた。……あんちゃんは、隠し事をするのが苦手だったんだね」
「……いやいや、違うでしょう。そこがあんたの〝そうゆうタイプ〟なんだよ。わかる? あんちゃんは、ちゃんと云わなかった。誰にもなんの説明もしなかった。だけど、あんたはそれを〝見抜いた〟。そういうわけね。それなら、この話しも
「……ああ、そっか……そういうことか」
わたしも、自分にストンと落ちてくるなにかを感じた。……そっか、これが〝腑におちる〟というものなんだ。
「はあ? あんた、自分のことでしょう? なんで自覚してないのよ」お姉ちゃんがもどかしそうに云った。
「いや、そのときは無自覚だったというか、わたしの
──だって、自分にそんな直感力があるだなんて、ふつう信じられないでしょう、厨二病じゃあるまいし。──頭がおかしいって思われるのもイヤだし。云えないよ、そんなの……」
「……まあね、たしかに、なんて表現したらいいのかわからないことではあるよね、そうゆう……直感力?」
お姉ちゃんは笑いながら〝直感力〟と云って、わたしに調子を合わせてくれた。
霊能力とか、スピリチュアル的な表現しないでいてくれたことに、お姉ちゃんのささやかな優しさを感じる。ありがとう、お姉ちゃん。
「そう、直感力」わたしも笑いながら云って、そしてここから声色をかえた。「ねえ、お姉ちゃん。わたし、思ったんだけど──この話しでわたしの直感力の
そうなると……わたしが感じた自分の死期の時期だとか、見た夢が、ますます怖く感じてきたんですけど……」
「あ、あぁ……そう、だよね……」お姉ちゃんが息を飲んだ。わたしは、自分がやっぱりかなり良くない状況なんだと、あらためて悟った。
「お姉ちゃん、こうしちゃいられない。鳥海先輩の家がどこにあるのか教えて。──いますぐ」
もはやお姉ちゃんが知らないかもしれないという
お姉ちゃんなら、知っているはずだと、直感が
もしかしたら、これもひとつに繋がれば、すべてが解決するかもしれない。
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