Happy Birthday ④


「……そうだね」わたしは〝まずいなぁ~〟と天井を見上げた。「たしかに訊きずらいね。

 もし、お姉ちゃんが友達に、わたしが話したことをそのまんまストレートに云ったら、その友達に〝妹の頭がおかしくなってる〟ていうのがバレちゃうね。

 お墓の場所どころか、精神科医を紹介されそう……というかわたし、もう行ってるけど……」


自分で云ってて、どんどん意気消沈してきて、わたしはその場に正座した。

わたしって、ほんとにヤバいかも……。


「ねえ、紫穂が行ってる精神科の先生に、いまのこと相談したあ?」

お姉ちゃんが心配そうにしてる。わたしはわざと明るめに返した。そんなに心配はしてほしくないから。


「──するわけないじゃん。この話しをしたら、一発いっぱつアウトでしょ。

 へたしたら即入院、隔離病棟かくりびょうとういきかも。でもってカルテに、いろんなことを書き書きされちゃうんでしょう? ……いやだよわたし、そんなの。

 それにわたしだって、自分がそういう状態だってことくらいわかってる。ほんとに頭がおかしくなってる人は、無自覚だからね。

へんなことを誰かれかまわず、ベラベラぺらぺらおしみなくしゃべってる。──だからわたしは、まだ大丈夫。まだギリギリ正常の範囲内にいる。

 ていうか、お姉ちゃんもひどいよね。さっきは、わたしがお墓参りに行くのを賛成してくれたのに、〝わたしの頭がおかしくなってるのを友達に知られちゃう〟っていうくだりのときは、否定しないんだもん。

 いまとなっては、お姉ちゃんがわたしの頭の心配をしているし、ほんっとう、これ、どうなってんの?」


「どうなってるって……はあ~。……でもほんと、なんて訊けばいいのよ」

「そこはお姉ちゃんの口のうまさで、うまく切り抜けてよ」わたしは丸投げで云った。「ね? お姉ちゃんならできるでしょう? わたし、お姉ちゃんが口がうまいってこと知っているんだから。

 その口車に子供のころ、何度まるめこめられたことか」


高校を選ぶときとか、あれやこれや。……うらんでいることは、それなりにある。でも今回、この鳥海先輩との話しに協力してくれるんだったら、わたしは喜んで全部を水に流していい。

 だからお姉ちゃん、お願い。お友達に──ハヅキさんに──うまく訊いて。


「──そんなこと云われたって! えぇ~、なんて訊いたらいいのかわからないよう」

 めずらしく弱気になってる──もしくは、こんなイカレた妹とかかわるのはゴメンだと、すっかり逃げ腰になっている──お姉ちゃんに、わたしはヒントをあげた。


「それこそ、正統派な意見を云えばいいんじゃない? 〝妹が、当時お世話になった鳥海先輩のお墓参りに行きたがっているから、だれか場所を知ってる人いないかなあ?〟って。

 さっきのお姉ちゃんの意見はまともだったから、その作戦でいこうよ。……作戦って云うと、ほんとに悪巧わるだくみをしているみたいで聞こえは悪いけど」


 電話のむこうで、お姉ちゃんが息を吸いあげる気配がした。おこった反論が、くる。


「なんで私がそこまでのことをしなくちゃならないのよ! 紫穂が自分で、自分の友達に訊いてまわればいいでしょうが!」

「だから、そこはお姉ちゃんも知ってのとおりで……わたしには、友達がいないから」


お姉ちゃんが黙りこんだ。まさか、さっき云ったイヤミが逆手ブーメランで返ってくるなんて、思いもよらなかったみたいに。


 だんだん申し訳なく感じて、これまでの自分の反省をうったえる。

「わたしも、友達をつくろうとしなかったことを後悔してる。……まさか、こんなかたちで、いままでの自分がしっぺ返しをしてくるなんて、思いもしなかった。……後悔してる。

 でも、後悔といっても、後悔のしようもないんだけどね。

 わたしは友達に恵まれなかった。わたしのまわりには、友達になるような人間がいなかったから。……あぁ、いや、それも〝わたしに問題があったから〟なのかも。

 わたしって、そうゆう星のもとに産まれたっていうか……なんだかわたしって、人の心にさざ波をたててしまうみたいなの。

べつにわたしがなにかをしてるってわけじゃないのに、わたしがその場にいるだけで、まわりにいる人たちは心がザワついてしまうみたいなの。──ほら、カリスマ性のある人っているでしょう? この例えなら、お姉ちゃんにもわかるよね。その場にいるだけで、まわりを明るくしてしまうような人」


「……まぁ、わかるけど……」イヤそうにあいづちを打たれた。〝おまえは違うだろう〟といいたげだ。

 ……わたしだって、自分が〝カリスマ性のある人間〟だなんて思っちゃいない。

「そう、そのカリスマ性のある人が、わたしたちの身近にいた鳥海先輩になると思うんだけど……。それなら、ピンとくる?」

「ああ、たしかに鳥海くんはそんな感じだった! ──そうだね、たしかにカリスマ性があったね!」


嬉しそうに飛びついちゃって。……まったく、わかりやすい反応をどうもありがとう。お姉ちゃんも、鳥海先輩が好きのは、これでよーくわかりましたよ。


 いろいろ思うところはあるけれど、わたしは話しを進めた。お姉ちゃんにはどうしても理解わかってもらいたいし、鳥海先輩のことに協力してもらいたい。


「でしょ。……わたしたちには、身近にわかりやすいカリスマ性のある人がいて、よかったね。話しがスムーズにできる。

 でね、わたしは、そのカリスマ性の逆なの。わかる?」

「──あ、あ~……うん」

お姉ちゃんがまたしても納得がいかないみたいに返事を渋った。

わたしは負けじと自分の意見をうったえる。



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