第弐詣 神宮を巡る

第弐詣之一 三つの系統の〈神宮〉

 日本全国に存在する神社の中で、その正式名称が、シンプルに「神宮」なのは、三重県の伊勢にある「神宮」だけである。この神社が、所在地の名を冠して「伊勢神宮」と呼ばれているのは、社号が〈神宮〉である他の神社との区別の為である。


 歴史的には、『日本書紀』の中では、「伊勢神宮」と「石上神宮」と「出雲大神宮」の三社が「神宮」と表記されていた。また、平安時代の『延喜式神名帳(えんぎしきじんみょうちょう)』において「神宮」と記載されていたのは、「大神宮(伊勢神宮内宮)」および、「鹿島神宮」と「香取神宮」であった。


 明治時代になると、たしかに全てではないにせよ、〈天皇〉や皇室の〈祖先神〉を祭神とする神社の中に、社号を〈神宮〉に改める神社が現れた。無論、勝手に名乗れるべくもなく、第二次世界大戦の終戦までは、〈勅許〉、すなわち、〈神宮〉と名乗るには、天皇の勅命による許可が必要であったらしい。


 戦後、神社は国家管理ではなくなったので、〈神宮〉を名乗る上での勅許は不要になったものの、それでも、公式な社号として〈神宮〉を名乗るには、特別な由緒を持たねばならない、とされた。戦後に関して言うと、神社本庁に属する神社の中で、公式に〈神宮〉号を称するようになったのは〈三社〉のみで、この数の少なさによってもまた、〈神宮〉の別格性が窺い知れよう。


 さて、廃社になった台湾や朝鮮といった海外の神宮を除くと、今現在、日本に存在する神宮の数は〈二十五〉を数える。


 さらに、これら二十五社は、〈皇室祖先〉系、〈天皇〉系、そして、〈その他〉の三つに分類できる。


 皇室祖先系とは、例えば、〈天照大神〉を祭神として祀る「神宮」を代表とし、〈六社〉が現存する。


 天皇系とは、〈神武天皇〉を祭神とする「橿原神宮」や「宮崎神宮」、〈天智天皇〉の「近江神宮」、〈桓武天皇〉や〈孝明天皇〉の「平安神宮」などで、〈十三社〉が在る。


 そして、その他の神社の数が〈六社〉で、「熱田神宮」や「石上神宮」は、前者は「天叢雲剣(草薙剣)」、後者は「布都御魂(ふつのみたま)」のように、〈剣〉を御神体とし、「國懸神宮」は「日矛鏡(ひぼこのかがみ)」、「日前神宮」は「日像鏡(ひがたのかがみ)」といったように〈鏡〉が御神体で、「鹿島神宮」や「香取神宮」の祭神である〈武甕槌神(たけみかづちのかみ)〉や〈経津主神(ふつぬしのかみ)〉は皇室祖先系や天皇系ではないものの、先に見たように、伊勢の「大神宮」と共に、『延喜式神名帳』に出てきている歴史ある神宮である。


 さて、ここに確認したように、令和六年、皇紀二六八四年現在、日本国内には〈二十五〉の神宮が存在している次第なのである。

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