第壱詣之五 大洗神社の二つのメルクマール、神磯の鳥居と……

 合祀殿での参詣を終え、授与所で書き上げられた御朱印を受け取った書き手は、社務所付近から垣の外に出た。

 その垣外には、白兎と蛙以外の別の動物、否、幻獣たる龍の青銅の像があって、口から水を出している。この大洗神社境内の〈御神水〉は、眼病に効くと言われてきた霊験あらたかな湧き水で、二十四時間水取り可能となっている。


 本社へと続く門の前には鳥居が立っており、その「三の鳥居」と「大洗海岸通り」沿いの「二の鳥居」を繋いでいる、約百段の石の階段を降り、二の鳥居を潜り抜けた後、道を渡って、建物の間の細い路をそのまま真っ直ぐ海岸に向かって下りてゆくと、そこに、波が荒々しく打ち寄せ続けている磯が見止められる。

 その様子を眺めていると、〈大洗(おおあらい)〉とは、その実、〈大荒磯〉だったのではなかろうか、とさえ思えてくる。

 海面から頭を出している岩場の一つには鳥居が立っており、ここは、かつて、二柱の神が降臨なされた地で、この鳥居こそが、大洗磯前神社のメルクマールたる「神磯の鳥居」なのである。


 平安時代の『日本文徳(もんとく)天皇実録』には、斉衡(さいこう)三年、八五六年、旧暦の十二月二十九日、すなわち、この年の大晦日に、突如、海が光り輝き、この〈常陸国鹿島郡大洗〉の、現在、鳥居が立てられている地に、神が御降臨なされ、「我は大奈母知、少比古奈命なり。昔此の国を造りおへて、去りて東海に往きけり。今民を済わんが為、亦帰り来たれり」と仰った、とある。


 大己貴命が仰った民の苦難とは、この時代に起こっていた飢饉や天然痘の流行の事で、民を救わんが為に薬神が降臨した地が、〈常世の国〉を意味する常陸国であった事は、思うに、この現世に在る常世の国を起点にしてこそ、医療の神としての力が最も発揮し得たからなのではなかろうか。


 また、江戸時代、神社前の海岸が、皮膚病などの治療目的の〈潮湯治〉の客で賑わっていたのは、降臨した薬神の残滓なのかもしれない。


 龍の口から流れ出ている眼病に効く境内の御神水、皮膚病の治療目的の潮湯治で賑わった神社前の磯浜、つまり、流り病から民を救う為に降臨した、薬神たる大己貴命と少彦名命を祀る大洗磯前神社は、徹頭徹尾、〈医薬〉の神社なのである。


 自家用車以外で大洗磯前神社に行くには、大洗鹿島線の大洗駅からバスを使う方法もあるのだが、しかし本数が少ないので、レンタルサイクルか徒歩で向かう事になる。

 行き方は、駅からマリンタワー方面に向かい、「サンビーチ通り」まで出てから、左折し、そのまま、ひたすら道なりに進むと大きなカーブが在る。そこを過ぎると、道を跨いで立っている巨大な「一の鳥居」に出くわす。ここまでが、駅から約二キロ半、徒歩で約四〇分の道行となる。

 そこからしばし進むと、左手に長く急な階段が見止められるのだが、階段を昇らずに右に行けば神磯の鳥居、左の階段を上がれば、その先に〈水戸黄門〉の命で建築された〈随神門〉が在る。


 門の内側には、二〇二四年二月現在、拝殿に向かって左側に、今年の干支である龍、具体的には、青龍と赤竜の姿が描かれている巨大な絵馬が設置されているのだが、忘れてならないのは、その大きな絵馬の対面に置かれている、アニメの大絵馬の存在である。

 

 それこそが、「ガルパン大絵馬」で、図柄は次々と変えられてゆくのだが、最新の意匠は、令和五年の秋に封切られた『ガールズ&パンツァー 最終章』の第四話で展開している決勝の第一試合で対決した大洗女子学園と継続高校の両隊長で、左が大洗の「西住みほ」、右が継続の「ミカ」である。


 今や、このガルパンの大絵馬は、神磯の鳥居同様に、ここにしか存在しない、大洗磯前神社のメルクマールとなっているのだ。


〈参詣情報〉

 日時:令和六年睦月朔日(二〇二四年二月十日)十三時半

 御朱印(直書)、初穂料:五〇〇円 


〈参考資料〉

〈WEB〉

 『大洗磯前神社』、令和六年二月二十二日閲覧。

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