第45話 災禍襲来

「…は?なんだよこの揺れは」


文字通り地震のように大地が揺らぐが決して間違っても地震なんてちゃちなもんじゃない


この階層が見晴らしの良い平原エリアだったからこそ見えた…いやと言った方が良いかもしれない


恐らく次の階層に続く階段があるであろう場所からこちらに向かって…いや、正確には俺の後ろにある前の階層への階段を狙ってまるで大量に進軍してくる階層を埋め尽くさんばかりのモンスターの群れだ。


そしてこの地震のような揺れはモンスター達が動く時に発されるだ…


「パッと見でこの階層の牛やかつて見た炎血剛鬼の進化前だったオーガ、ボス部屋にいたクソ蜘蛛から本来なら上の階層に居るはずのゴブリンやスライム、スケルトンまで…もはや滅茶苦茶だな…」


魔物氾濫スタンピートの文字が脳裏をよぎる


「あの時のモンスターハウスなんて目じゃない量だぞ…流石に相手にしてられるかよ」


モンスターハウス時は退路なんて無かったから半ば仕方なく戦ったが退路があるなら正面からやり合うメリットがあまり無い、よっていつでも撤退できるように階段付近にまで戻ってから周囲の遮蔽物に隠れようとしたのだが…


「ッッッ!?なんだよこの圧は!」


当時は分からなかったがそれなりの激戦を経た今だからこそ分かる…炎血剛鬼と相対した時のよりも濃い『危機察知』がこれ以上ない程警鐘を鳴らし全身が『逃げろ!』と叫んでいる。


だが逃げろと言っても


「近くの障害物に隠れる?いや、こんだけの圧を持ったやつが気配察知だけできないとは思えない。じゃあ上の階層かダンジョンの外に逃げるか?もしこれが本当の魔物氾濫スタンピートだったら上層に行くにつれてコイツから逃げるモンスターも合流して地上に着く頃にはもっと手がつけられなくなるぞ!」


つまりは詰み、地上に逃げて他人と協力したとしても現状でダンジョンに潜った他人を見かけていない以上自衛隊などももっと上の階層で進めていない可能性が高い。


「俺より弱い人達が俺ですら濃い死の気配を感じ取れるコイツを仕留められる訳がねぇ…そしてそんな味方に命を預けてられないな」


もはや寸分の猶予もない所まで迫ってくる魔物氾濫スタンピートを、全てを押し流すを前に1人立ち尽くし息を吐く。


「ッァ"ァ"ァ"!やってやんよこの野郎!ここで全ての魔物を1匹残らず斬り刻んでやるよ!」


夜叉を抜刀する。

夜叉がまだ羅刹だった時からやってきた動作だがこれを限界まで丁寧に行う。

これが死地へと共に連れ添ってもらう夜叉へのせめてもの礼儀と言うものだろう。


「間違いなく死地になるけど今回もよろしく頼むな


かつてない程に全身が沸るのを感じる。全身の武者震いが止まらない、身体が早く動き出したくてウズウズしている。


そこに先ほどまでの恐怖は微塵も存在していなかった。


「さぁ始めようかッ!」


目の前にまで迫っていた牛を斬り裂く、それが開戦の狼煙となった…

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