第35話 夜叉、降り立つ

 掴んだ蜘蛛の足は『怨念の呪縛』使用時と同等かそれ以上の瘴気によって腐り落ちる。


 全身に黒紫色の瘴気を纏い、頭頂からは2本の捻れた角の様な瘴気が伸び、コレぞ鬼といった風貌になっている。また、夜叉自身にも腕から伸びた瘴気が注連縄しめなわの様に絡みついて怪しく光っている。


 効果に対してMP消費は少なく最早無いと言っても良い程だ。


 しかし…


『ニクイ…ニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス』


 使った直後から流れ込んでくる頭が割れそうな程の大音量で流れてくる怨嗟の声。今までの夜叉や羅刹の武器スキルの名前からしてと言ったあたりだろうか。


「コレは…キツすぎるな。早めに倒してしまわないと呑まれそうだ。」


 幸いにも狂戦士スキルの様にアドレナリンがドバドバ出ているからか毒による痛みは感じないし、麻痺で鈍った身体能力なんて補って余りあるレベルでの力の上昇を感じる。


 普段より力が出せるのは随分と心地いいな…


「アハッ、いっその事この衝動に呑まれても良いかもなぁ?どうせ周囲にゃ誰もいねぇし!」

 総動員していた理性を投げ飛ばし感情に身を委ねる。


「あぁ、憎い、憎いぞ!この蜘蛛が憎い!コイツを殺す為なら腕の1本くらい簡単に渡せそうだ!」


 足を千切られていた事に警戒し引き撃ちの姿勢で飛ばしてくる毛を瘴気をシールド状に展開して防ぐ。『魔法障壁』が単なるシールドならこっちは防御と反撃を同時にこなせる攻勢型防御とでも言うべきか


「そぅら!痛いのが行くぞ!」


 ドウッ!


 足の裏から響く爆発音。反動で身体は蜘蛛へと向かう。瘴気で身を守りながらの突貫、蜘蛛も足を槍の様に突き出して串刺しにしようとしてくるが、その足すら瘴気で腐食させる。


 更に追撃


「燃えろ『火怨獄』」


 どうやら夜叉は俺よりも呪魔法を使いこなせるみたいだ。


 火属性と呪属性の複合魔法はいとも簡単に魔法を弾く毛を侵食しきり燃やし尽くす。

 呪いの根源とも言えるやつと繋がっているせいかえらく呪魔法が使いやすい。


 炎に苦しむ蜘蛛。恐らく燃えている所から出ている黄色い気体は麻痺ガスなのだろう、本当にタチの悪い蜘蛛だ。


 しかし、足を2本もぎ取られ全身を呪いの炎で包まれている蜘蛛にはもう抵抗する術は無くただひたすら糸を使って逃げようとするが出した瞬間に糸が燃え尽きるのを繰り返していた。


 放って置いても後々死ぬだろうがコイツはここで殺さないといけない


 夜叉を頭上に掲げて余った瘴気を全て纏める。「『怨念の炎』」そこに赤紫色をした炎を纏わせ刀身その物に見える程に圧縮していく


 赤紫色に輝き瘴気を撒き散らす夜叉は正に妖刀と呼ぶに相応しい妖艶さを持っている。


 俺は未だ悶えている蜘蛛に対し、掲げていた夜叉を振り下ろした。


縦に斬撃の軌跡が残り、身体が左右半分にズレ倒れ伏す蜘蛛…だがこの衝動は落ち着かない。


「一度では足りない」


 両断され灰になりかけている蜘蛛の死体をひたすら斬りつける。


「まだだ。まだ、まだ足りない。奴らの血が!私から全てを奪って行った奴らへの復讐が!こんなモノジャ、マダ タリナイ!」


 最後の一撃は魔石だけが残った洞窟に空振るだけであった…

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