2024.12.28──廃骨回収犬

 晴れた日の早朝、タシタシと、覚束ないノック音が玄関から聴こえたら、家にある何かしらの骨を持って扉を開けると良い。それは犬の廃骨回収業者だからだ。

 貴方が玄関を開ければ、そこには燕尾服と蝶ネクタイをキッチリ着込んだ立派な廃骨回収犬が舌を出して行儀よくお座りをしていることだろう。廃骨回収犬がワンと鳴いて挨拶をすれば、こちらも挨拶を返して、持ってきた骨を渡してやると良い。廃骨回収犬はそれを丁寧に口で咥え、ワンと鳴く代わりに尻尾をしきりに振って謝意を示し、貴方の家を後にするだろう。

 廃骨回収犬は朝の内に十件以上の家を回る。目標の骨の数が溜まるまでこの作業を繰り返す大変な仕事だ。貴方が眠気を我慢して、その時間帯に外に出れば、町を俊敏に駆け回る、燕尾服を着た廃骨回収犬たちを見ることができるだろう。それはさながら春先に巣の材料や餌を求めて飛び回る本当の燕の姿を髣髴とする。

 頑張っている彼らの姿を見て、ついつい外で余計な骨を与えてしまう人も居るが、それは業務管轄外のこととなるため、彼らはその骨を決して受け取らない。必要な骨のみを素早く集められるように厳しい訓練課程を終えた犬のみが、廃骨回収犬として業務を任せられるのだ。

 必要量の骨が集まると、廃骨回収犬は町を飛び出して、ザザザと波音が聴こえる砂浜に集結する。そして、そこで集めた骨を置き始め、骨はまるでパズルのように決まった位置に並べられる。

 やがて骨は、一つの大きな動物の骨格を形作る。身体はクジラのようであるが、頭部は犬のそれに似ている。骨を全て並べ終えた廃骨回収犬たちは横一列に並び、自分たちの作った骨格にワンワンと敬意の鳴き声を手向ける。

 これで廃骨回収犬の仕事は終わる。彼らは砂浜から散り散りに、それぞれの飼い主が待つ家に帰っていき、そして残された犬頭のクジラの骨格は、一日の内に波に飲まれ、次の日の朝までには痕跡すら残さず砂浜から消える。

 そしてまた貴方の家の玄関から、タシタシという覚束ないノックの音が聴こえてくるのだ。

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