2024.12.24──祈りの夜

 祈りの夜、猟師たちは山小屋の中でテーブルを囲み、それぞれのコップに注がれたスープを口にする。これより身体を温め、極寒の中の狩りの一晩に備える。

 スープを飲み終えると、猟師は銃を担いで小屋の外へ、雪の降りしきる山中へと乗り出す。ふだんは夜の暗闇に覆われて何も見えないが、祈りの夜は木々に色とりどりの電飾が付けられているため、真夜中でも足を取られることなく山を進むことができる。

 カラフルな明かりに包まれる山は、普通の動物たちは奥の方へと逃げ隠れ姿を見せないが、この祈りの夜には、電飾に引き寄せられる特別な獲物がいる。猟師たちはそれを狙って、一つの小隊になりながら山道をザッザッと歩く。

 先頭の猟師が手を上げ、それを合図に全員が立ち止まる。息を殺しながら、担いできた銃を外して、弾と火薬を込める。先頭の猟師が上を指さし、全員がそちらに視線を向ける。

 そこには、巨大な、鹿のような生き物が、猟師の小隊を見下ろすように立っていた。

 鹿の角は恐ろしく大きく長く、木の枝のように複雑に枝分かれする角には、所々が美しい電飾が付いていて、鹿の姿を美しく照らしている。電飾は、近くの木に飾られているものを鹿が集めて来たものだ。これ程明るい光源を角に蓄えているのに鹿の身体に影が掛かって見えるのは、この鹿の体毛が美しい黒色をしているからだ。

 猟師たちは無駄のない所作で銃を構え、銃口を鹿に向ける。鹿がピクリと顔を動かし、足に力を入れた。その瞬間を猟師は見逃さない。一斉に引き金を引き、十数発の弾丸が放たれ、山の中に轟音が響き渡る。寝ていた鳥が飛び立ち、その勢いで木からいくつかの電飾が落下して、地面でパリンという音を立てて割れる。

 漁師たちは銃を担ぎ、倒れた鹿のところに歩み寄る。鹿の遺体を確認すると、一人の猟師が首にナイフで切り込みを入れ、血を抜き始める。地は地面に捨てずに、持参してきた瓶の中に入れる。血は加工すれば染料になる。

 血の抜けた鹿の巨体を、漁師たち全員で担ぎ、山を下りていく。鹿の身体は一晩の内に先ほどの小屋で解体され、翌朝には町の家々に肉が振舞われる。

 山を下りる間、斃れた鹿の角にぶら下がる電飾が、ゆらゆらと祈りの夜の山道を照らし続ける。

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