2024.12.21──木行
今朝運び込まれたばかりの木製テーブルは、天板が見事な木目模様をしており、まるで激流の河川を思わせる出来であった。中古の家具屋で一目惚れし衝動的に購入したものだが、リビングの明かりの下に晒された姿を改めて見て、私は大いに満足した。これからこの木目の川の上で食事をし、本を広げ、書き物をするのである。
テーブルを購入して一月程経った頃だ。いつものようにその見事な天板に朝食の乗った皿を置こうとしたところ、その模様が、昨晩とは違った形をしているように感じた。無論、いくら川の流れのような模様をしていようと木目が動くはずがない。だから最初はただの気のせいだと思った。だが翌日、その時の木目も先日とは違った風に見え、私は大きな違和感に囚われた。
私は思い切って、夜通しそのテーブルを観察してみることにした。夜、電気を消して寝室に向かうように見せかけ、息を殺して物音を立てぬようリビングへ戻った。電気は消したままだが、カーテンを開いたままにしておき、外の街灯の光によってテーブルがうっすらと見えるようにしておいた。これで木目が変わるか変わらないか、観察することが出来るはずだ。
結果として、木目は変わった。それも観察を始めてすぐのことだった。川の流れのような木目は、本当の川のように激しく流動し、薄明りに照らされた天板はまるで、川の映像を映す横倒しのテレビのようであった。
観察を続けていると、流れる木目の上に一隻の小さな船が現れた。船にはこれまた小さな人間が乗船していて、木目の激しい流れに飲み込まれないよう、必死に棹を漕いでいた。船は数十分の時間をかけて天板の端から端までを進み、そこでフッと姿を消した。船の消失と共に、木目の流れもピタリと止まり、今朝とは違う模様が天板に刻み込まれた。
以降、我が家のテーブルは、ほぼ毎日模様が変わり続けている。観察を行ったのはあの夜の一度きりではあるが、変化した木目を見るたびに、あの船は毎晩のように渡航を行っているのだろうかと、その情景を思い浮かべるのである。
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