2024.12.21──星間旅行詩人の暇

 CAキャビンアテンダントがコップに天王星コーラを注ぎ、ペル・エルムラーは礼を言いながら200系星通貨を支払った。

 コップの中で泡立つ空色の透き通った液体をしばらく眺めてから、エルムラーはそれを口にした。

 船窓の外に目をやると、延々と暗黒の世界が広がっている。近くに恒星の類はなく、時々通り過ぎる小石や塵の他には何もないところだ。こんな風景があと一ヶ月以上続くと思うと、エルムラーは鬱屈とした気持ちになってくる。

 席に備え付けてある系星チャンネルには、毎週違う番組が追加される。何か気分の変わるものはないかとスクリーンに触れようとしたところで、エルムラーは一つの詩が浮かんだ。鞄から電子メモを取り出し、そこに記していく。


 純黒なる大海 どこまでも続き

 我ら乗る旅船 航海順調なれども時は単調なり

 鋼のきらめきを一枚払いて 空虚なる器に星の名を

 注ごうか 注ごうか いとま


 メモを鞄に仕舞うと、エルムラーは系星チャンネルではなく暗闇の世界に再び目をやった。

 この一年でエルムラーは300余りの詩を記してきた。詩作のために感動的な風景を見ようと旅を始めたが、ほとんどの詩は感動ではなく待ち時間の鬱屈により生じたものだった。

 コーラの一杯を見て一つの詩が浮かぶ程には、今のエルムラーの気分は張りつめている。あと一ヶ月の内に、船内にあるあらゆるものをネタに、自分は詩を作っていくのだろうかと、エルムラーは頬杖をついた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る