2024.12.19──カツオ海苔豆腐
電車の電子公告にカツオ海苔豆腐のCMが流れる。私はそれを横目に胸ポケットからメモ帳を取り出し、素早い手つきでボールペンを滑らせる。
カツオ海苔豆腐製造会社は、私の所属する組織のフロント企業であり、このような広告やCMを通して、組織の人間にしか分からない指令を伝えている。今日のメッセージは、敵対組織の外交的な動きについてである。一般の人には、ただカツオ海苔豆腐にポン酢がかけられている映像にしか見えないことだろう。
カツオ海苔豆腐は組織に所属するメンバーの一人が資金調達の為に作った商品だったが、これが大衆に大当たりし、商店街に一軒だけの小さな店が市内に工場を持ち始め、その後県内、県外、全国へとチェーンが広がり、今では国を代表する食品製造会社となった。
フロント企業が大きくなると、あらゆる広告媒体に組織の密命を仕込むことが可能になり、敵対組織に情報面で有利に立ち回ることが出来る。結果、カツオ海苔豆腐が各地に広がるのと比例して、組織も大きくなった。
カツオ海苔豆腐を開発した組織のメンバー……表の顔はフロント企業の代表取締役は組織のボスに重宝され、今ではNo.2の立ち位置に納まっている。カツオ海苔豆腐は、我々組織の人間にとってはただの食品を超えた、神聖なものなのである。
電子公告に二回目のCMが入り、そこに追加指令が書かれていた。急ぎペンを滑らせる。どうやら、カツオ海苔豆腐のライバル企業である会社の、新商品の情報について調べて来るように、とのことであった。
フロント企業が大きくなれば、組織が動ける範囲も広がる。カツオ海苔豆腐がさらなる人気を博すために行動するもの、組織構成員の大切な仕事だ。私は次の駅で降車し、ライバル企業の工場がある土地をネットで調べ始めた。
しかし、最近はカツオ海苔豆腐に関する任務が増えたような気がする。あの方がNo.2に納まってからは、四割近くはそういう指令を受け取る。
時々考えてしまうことがある。組織はカツオ海苔豆腐を利用して組織を大きくしてきたが、逆にあの方は、組織を利用してカツオ海苔豆腐を大企業にまで叩き上げたのではないか、と。あの方にとってはカツオ海苔豆腐がメインであり、組織はただのバック団体でしかないのではないか? ……と。
いや、若き頃よりボスに忠誠を尽くしてきたあの方のこと。あくまで組織主体で考えておられるはずだ。いずれにせよ私のような一構成員は、新聞やテレビ、ネットに目を配り、カツオ海苔豆腐のCMを見つけては、その指令を忠実にこなしていくのみである。
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