2024.12.18──転下校

 学校が終わる。ぼくは転がって帰る。家までの長い坂道を体育で習った前回りでゴロゴロと、ランドセルもろとも転がって帰る。

 ランドセルが開き、中身が飛び出る。教科書も筆箱もノートも宿題も次々と飛び出していくがぼくは止まらない。ランドセルが軽くなるに連れてスピードは上がり、やがてランドセルもぼくの肩から外れてどこかへすっ飛んでいく。

 ぼくは身一つになりなお転がる。転がるぼくの見る世界はグルグルと縦回転する。まるで古いテープが流れていくように、何度も回転して世界は少しずつ動いていく。

 ぼくの身体は歩道から出て、団地の裏手の草むらの中に突っ込む。草と土を巻き上げながらもぼくは転がるのを止めない。ぼくが通り過ぎると草むらに隠れていたバッタが次々と飛び立っていき、古いテープの映像に大きな動きが加わる。

 雑草の汁と土で服が緑と茶色に染まったまま、ぼくは再び歩道へと飛び出る。ぼくはまだまだ転がっていく。やがて縦回転する世界に、ぼくの暮らすマンションが映りこむ。

 ぼくはマンションの駐輪場と集会所を転がって通り抜け、階段に行き当たる。エレベーターは使わない。ぼくは回転を止めない。ぼくは巧みに腕や足を伸ばして、転がりながら階段を上がっていく。

 転がり上がってぼくはマンションの三階に辿り着く。階段から出てぼくの家を目指す。長い廊下が縦回転によりもっと長く引き伸ばされ、その長い直進をどこまでも転がって進んでいく。

 見慣れた色の扉と三桁の数字、開いた扉からこちらを見るお母さんの顔で、古いテープは終了する。

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