2024.12.16──新幹線指定席自由詩

 新幹線の終電がゆっくりと動き始め、緩やかな加速で周囲の景色ごと駅を置き去りにしていく。

 仕事を早く切り上げ余裕を持って出発するはずが、今日に限って緊急の依頼が何件も舞い込んでしまい、結果的に会社を出たのはいつもよりも遅い時間だった。あと一歩遅ければ、今車窓の外を通り過ぎていく形式の一部に、自分も加えられたことだろう。

 駅員の注意を無視して新幹線に駆け込んだものだから、息は上がり、分厚い上着の下は汗まみれだ。俺は呼吸を整え、上着を脱いでコート掛けに引っ掛ける。新幹線はさらに速度を上げ、外の景色はさらに高速で後ろに通り過ぎていく。

 夜の景色は輪郭を失う。町は黒くごつごつとした塊となり、遠めに見ればそれがどのような用途のどのような建物なのかの判別は付かない。その景色の中に建物の照明や町中の街灯は、さながら夜空に浮かぶ星のようで、高速で後ろに流れゆく光は流星である。

 俺は喉の渇きを覚え、車内販売のカートが近くを通った時にペットボトルの緑茶を購入した。仕事上がりでビールの一杯でも引っ掛けたいところだが、つい先週の健康診断で肝機能に異常が見つかってしまったため、我慢した。

 喉を緑茶が通り過ぎると、先ほどかいた汗が乾いたのか、少々冷えてきた。窓を見ると、流れゆく星空の景色にポツ、ポツ、と水滴が付いた。朝からの曇り模様だったが、ついに降ってきたようだ。

 俺はコート掛けから上着を外し、それを膝に掛けて目を瞑った。

 目的地まではあと二時間と少し。二時間後には窓の外の雨が雪に変わっているだろうということを予測しながら、俺は束の間の眠りに就いた。

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