2024.12.15──籠と外
「籠」と呼ばれるその町は、創建から百年以上を経て、科学技術を極めた近未来的都市へと発展した。
度重なる大戦により周囲の町が土地ごと更地になったにも関わらず「籠」が生き残り続けたのは、その通称の由来ともなっている町全体を覆う格子状のドームによってだ。バーデインファイバー繊維によって作られたこの格子は、格子そのものの強度もさることながら、強い衝撃が加えられると格子と格子の隙間に光学的バリアが張られ、あらゆる兵器の被害を遮断することが出来る。
「籠」は当初この格子状ドームのモデルシティで、その性能が認められればあらゆる都市に格子状ドームが組まれる計画であったが、「籠」の建設が完了すると同時に大戦が始まり、結果として、「籠」以外の都市が総じて滅びることになったのである。
「籠」に残された人々は、外敵からの脅威に怯えることなく町の発展を進めることが出来た。それ故、大戦が終結して百年以上が経ち、荒れた大地に草木が芽生え始めても、人々は外界を恐れて「籠」の外へ出ようとは考えなかった。
その中で一人、「籠」の外へ出ようと考えている少年が居る。
格子状ドームの対衝撃バリアは、強い衝撃が無い限りは作動しない。故に天井の無い町同様、格子の隙間からは雨風が町に降り注ぎもする。
故に、格子の隙間から少年一人が抜け出しても、「籠」はその無体を咎めることはしなかった。
「籠」を出た少年の目には、何もない、何もかもがある世界が、延々と続いている。
この世界は「籠」に居た時みたいに自分を守ってはくれない。「籠」の中よりも生活環境が悪く、食料も技術も美術も圧倒的に不足している。
その中を、少年は昨日も同じようにしていたかのような足取りで、軽快に駆け出していった。
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